22 新メニューカレーをためす
あらためて、ディーズと建物について交渉を行い、結論が出た。
客席は一階六十席。ただ、階段を上がった二階にも部屋を用意し、場合によってはそちらも使えるような形にする。
その建物にひっつく形で俺たちの家も作る。部屋の数は従業員を今後雇う可能性もあるので、大目に作る。ディーズいわく、似た様式の部屋を並べていくことぐらい、他愛もないことらしい。
建設会社の社長が言っていることだから、大言壮語じゃなくて事実と言っていいだろう。
ちなみにダンジョン付近に建物を建てる場合、税金みたいなものがかかるが、これもディーズと役所のほうに行って、いろいろ書類を提出して、とにかくかなり安くしてもらった。
専門的な用語が本番では飛び交っていたが、つまるところ、ダンジョン横に店をかまえることはダンジョン攻略に寄与することで、王都や国にとっても有益なんだから、安くしろということだ。
このあたり、ディーズは役人顔負けの役人らしい態度で、相手をやりこめていった。
さすが社長だ。社会人スキルがものすごく高い。
無論、この間、「オルフェ食堂」も営業していた。
こっちのほうは、サンハーヤとレトによる八面六臂の大活躍のおかげで効率よくまわった。二人とも従業員として実によく働いてくれている。料理の入ったお盆を持っていく姿も実にサマになってる。
「はーい、しょうゆラーメンと餃子のセットですよ!」
「こっちは牛丼と豚汁のセットだよ」
サンハーヤは威勢よく。レトは黙々と。キャラは違うが、順調に店を回してくれている。
最近だと「サンハーヤちゃん、タコ焼き!」とか「レトちゃん、かわいい!」とかいった声もする。後者は注文ですらないけど。
そう、常連客が完璧についたのだ。
当たり前と言えば、当たり前である。なにせ、ここはダンジョン前にある店なのだ。ダンジョンに毎日潜る人間は毎日その横を通る。
そうなると、帰りは必ず「オルフェ食堂」でという冒険者も出てくる。
もっとも、それに伴う課題もあるけどな。
毎日通う常連が増えれば増えるほど、多くの品数が店側も要求されることになる。
たしかにラーメンの種類が多いからまだどうにかなっているが、本格的におなかをいっぱいにできるものとなると、ほかは牛丼程度しかないのが現状だ。タコ焼きと豚汁でも一食にはなるが、少しインパクトに欠ける。
もっと、本格的にメニューを増やさないとまずいかな。せっかくの常連を失うのはつらい。
ちなみにサンハーヤは「私の魅力とレトさんの魅力で常連客をゲットしてますから、メニューはマンネリでも耐えられますよ」と自信満々に言っていた。
お前、自分でそれを言うなと思ったが、たしかにサンハーヤはちゃんとかわいい。ファーストコンタクトはうさんくさい行商人スタイルだったけど、店員の恰好をしている間は、正真正銘看板娘になっている。
レトのほうはどちらかというと、マスコット的ポジションで、客にタメ口きいても「レトちゃんはかわいいな!」と許されている。
実際、俺もサンハーヤもタメ口だしな。元メイドだけど、対人用の仕事はあんまり任せてもらえなかったんだろう。
とはいえだ。食堂なんだから、やっぱり品数が少なすぎるのはまずい。
今後、本格的な店も建つしな。今はテントの仮設スタイルだから、品数少なくても認めてもらえてる部分もあるだろう。
会席料理を出すまでの間にいくつか召喚できたものもあるが、召喚時に起こる体力消耗がけっこう違うので、商品化しづらい。
ピザはもしメニューに入れれば絶対に人気になるだろうが、基本的に切り分けられてない一枚のサイズで出てきてしまい、そこそこの値段にしないと割に合わない。
その中で、いけるかもと思ったものもなくはない。
ちょっと、実験的にメニューに入れてみるか。
俺はサンハーヤを呼んで、「この紙をそれぞれのメニュー表に貼ってくれ」と言った。
その紙には「新メニュー カレー 銅貨6枚 ※ただし見た目は悪いかも」と書いてある。
「カレー? そんなのありましたっけ?」
きょとんとサンハーヤは首をかしげる。
「ああ、犯罪者をたくさん載せて一気に漕ぎ出す船ですね」
「それはガレー船だ。俺が言ってるのはカレー」
説明書を見せたほうが早いので、見せる。
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ご注文の品をお送りいたします。
料理名:カレー
ただし、日本式のカレーライスとなります。インド系のカレーや欧州カリー、タイのグリーンカレーなどは出ませんのでご容赦ください。
カレーライスももはや日本料理として認識されつつありますね。一方で、近年はインドやタイなどのいろんな国のカレーの専門店も増えているので、その違いを楽しむこともできます。日本の中でも北海道を中心に展開したスープカレーは独自ジャンルと認知されつつありますね。
日本のカレーはインドのものと比べると、シチュー的な要素が強いです。ライスにかけて召し上がれ。
今回はお子さんでも安心して食べられる甘口になっています。隠し味のハチミツが効いています。
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「こんなの、出してたんですか。私、知りませんでしたよ。教えてくれたらちゃんと食べたのに」
あっ、一人で抜け駆けしてお菓子食べられたみたいな顔してる。別に無限に出せるんだからいいだろ。
「二人が寝てる時に実験で出しちゃったやつなんだよ。わざわざ起こしてメシ食べさせるのもおかしな話だろ。これ、新メニュー用の木札な。メニュー名書いてないけど、色が違うからわかるだろ」
「わかりました。じゃあ、早速メニュー表に追加しときます!」
スキップしながらサンハーヤは出ていった。
さて、新メニュー、どうなるかな。俺はおいしいと思うんだけど。
このメニューを足そうと思った動機はご飯ものだからだ。つまり、おなかがふくれる。おなかいっぱいになる選択肢が増える。
二分後には、もうサンハーヤが「カレー三つです!」とオーダーに来た。
さすが冒険者。冒険をするのが生業なだけあって、新メニューにも果敢に来るな。
「オルティス・フルカレードウォーグ・ダーザイン!」
俺の目の前に一つ目のカレーが出てきた。
平べったい皿の上にライス、そしてその逆側に茶色いシチュー状のものがかかっている。
次回、カレーです。