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サモナーさんの召喚するだけ3秒間クッキング ~大繁盛! ダンジョン前食堂~  作者: 森田季節
食堂ダンジョン前に開店!

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21 美食の条件

 俺の予想通り、そこからは一気に楽な戦いになった。


 ナスなどが入ったホイル焼き、問題なく美味い。

 次は天ぷらという名前のフライ。これもサクサクだったりふわふわだったり、食感を変えてきていて飽きない。


 その次はメインディッシュとも言える「鍋物」


 なんと、四角い奇妙な燃料に火を灯して、ぐつぐつ煮立たせたものを食べるのだ。


「こんな小さなもので、火が起きておるのか!? しかし、魔法とも違うとは……」

 ディーズはその仕組みのほうに驚いていた。俺も最初は驚いた。


 なお、炎を起こすこと自体は、サンハーヤが最初期に習得するような魔法は一族で教えられていたらしく、燃料に発火させた。


 鍋自体は豆乳鍋というらしいが、それも好評のうちに乗り切ることができた。


「出だしは極端に静的なコースだと思ったが、最後のほうに来てぐつぐつと動的な鍋が来るとはな。なんとも面白いではないか!」

 ディーズの口調も最初ほどの重々しさがなくて、普通に料理を楽しんでいるといった様子が伝わってきた。


 こうなると、料理を提供する側も気楽だ。


「ありがとうございます。最後にごはんものとなります」

「ああ、米なのだな。たしかにこれでパンは合わぬ気がする」


 小型の釜を持ってきたサンハーヤもすごくうれしそうだ。気持ちがすぐに顔に出るタイプだからな。

「これは絶対においしいですよ~。私も食べたいぐらいですからね」


 そして、「じゃじゃ~ん!」とふたをはずす。


 そこには栗やキノコが入った茶色いごはんが入っている。

 甘い香りの湯気がふわっと立ち、ディーズの鼻を刺激しただろう。


「おお、これは……ワシがドワーフの故郷で食べた郷土のもてなし料理に近いものがあるな……」

 え、そんなつながりがあるのか。どっちかというとこのコースは、魚とか海系のものが多い印象があったけど。


「山の幸を詰め込んでこうやって蒸す料理がある。これもその系譜じゃな。海から来て山に来るか。なるほど、山海の珍味ということをよくわかっておるではないか」


 ディーズはなつかしさを覚えているような顔で、その釜飯を食べていた。


「じゅる……」というレトには似つかわしくない音がレトから漏れた気がしたけど、きっと気のせいだろう。表情的には落ち着いた様子でたたずんでいる。


 オーラスはデザートだ。ジュレの中に様々なフルーツを入れたもの。高そうなガラス製の器に入っていて、見た目も涼しい。


「これですべての料理が出揃いました」

 口をナプキンでぬぐっているディーズに俺は言った。

「果たして、お口に合いましたでしょうか?」


 ディーズがナプキンを置くまで、しばらくの間があった。

「どんな店でも建ててやろう。本物の料理人に見合うだけの店を建てねばならんな」


 俺の「やった!」の五倍ぐらいの音量でサンハーヤが「やりましたっ!」と叫んだ。両手を振り上げて喜んでいる。

 レトまで「やった。やった」とすごく小さい高さのジャンプを繰り返している。ほとんど浮いてないんじゃないか。それ、かえって難しいぞ……。


「美食とは、たんにおいしいだけではダメじゃ。面白さ・新しさ・見た目の美しさ、そして味自体もこれまでにないものでなければならん。美食を求めることは、味覚という点において、長い長い冒険を行うことも同義。そのすべての要素をこのカイセキなるコースは満たしておる。オルフェよ、お前はまことの料理人じゃ!」


「あ、ありがとうございます……」

 料理人では絶対にないので、多少の罪悪感はあるけど、まあ、いいか。おいしいものを提供するって点では、同じわけだし。


「でも、これだけのものを作るとくたくたになりますんで、量産は絶対できないんですけどね……。食堂では出せないです」

「わかっておる。まずは報酬とは別に、今回の料理の代金を払わんとな。食材の調達費用だけでも銀貨十枚は下らんのではないか?」


 タダなんだよなあ。でも、安すぎる値段を請求すると逆に怪しまれる。

 新鮮な魚は専用の馬車などを使って王都に運んでくるが、その分値段は張る。まして生で食べられますなんてものを用意したしな。


「じゃあ、銀貨十枚で」


 すでにサンハーヤはモデルルームの見本台帳みたいなのを開いていた。この部屋の棚に置いてたやつだな。『アーティスティック・ドワーフ建設』の社長の家だから、そういうものもあるんだろう。


「まずは百人が屋根の上に乗ってもびくともしないぐらい丈夫で~」

「丈夫に作るつもりではあるが、百人が屋根の上に乗るシチュエーションなんてなかろう」

 ディーズが的確にツッコミ入れていた。


「そうだ、せっかくですし、私たちの住居もここに作ってしまうというのはいいかもしれませんね」

 その発想はなかった。それぐらい、今回の「対決」に集中していたということかもしれない。


 ああ、たしかに今の長屋の一部屋に三人住むというのは限界があるんだよな。

 ただでさえ本の置き場が足りないぐらいだったので、本の上に布団を敷いて、強引に本を床代わりにしていたほどだ。ベッドは部屋を狭くするから元からなかった。


 俺が今回の「対決」のために夜まで特訓している時も結果的にサンハーヤとレトを付き合あわせてしまった側面もある。単純に、寝てる横でぶつぶつ詠唱唱えてたら寝づらいしな。


 ていうか、お金が入ってきたんだから、まずは住居をどうにかするべきだったんだよな。いろいろ新しくスタートしたばかりで、おざなりになってたけど、引っ越しはどっちみち絶対にやろう。

 極論、長屋を三部屋借りるぐらいの収入は今の「オルフェ食堂」にはあるし。


「ワシが負けたんじゃ、好きなだけ注文をせよ。法に触れんものならなんだって作ってやるわい」

 しかし、そこで俺は重要なことに思い至った。


 建ててもらうというのは間違いないとして、費用ってどうなるんだ?


「すいません、俺たち、即金で払えるほどの蓄えはないんですけど……」

「払える時にちょっとずつ払えばいいわい。負けた人間が建てるのじゃ・催促はせん。なんなら念書でもしておこうか?」


 このドワーフの建築家、もしや聖人か?


「オルフェ食堂」、テントの仮設スタイルからまともな店舗にランクアップしそうです。


建物がこれでできそうです。ドワーフ編はこれでひとまず終わりです。次回から新展開になります!

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