19 会席料理召喚
これ、上手くやれば、劇的においしいものを召喚できるんじゃないか?
もちろん、そんな簡単な話じゃない。でも、やってみる価値はある。
まずはよい魔法のかけ方について勉強する。まずは魔法に関する本を片っ端からめくった。
瞑想によって精神を集中しろといったことが複数の本に書いてある。それが間違いということはないだろう。
今度は瞑想について調べる。目を閉じて、楽な姿勢で座れなどと書いてある。
やってみると、たしかに心は落ち着いた気がする。数値的にどれぐらい集中できてるかわからないのが問題だが、無意味ということはないはずだ。
そこに深い呼吸なども取り入れる。悪くないとは思う。
発声の練習もやった。
「ノルアルド・フェラン・ほにゃららら・バルコラードリィ。ノルアルド・フェラン・ほにゃららら・バルコラードリィ」
正しくよく通る声で発音したほうが召喚は上手くいくという。なので、料理名を入れてない召喚用の魔法を慎重に発声した。
夜の食事は、練習に集中するために、昼に事前に作っておいた豚汁を食べたり、あとはレトが作ってくれたりもした。
レトはかなり料理が上手だった。パンの間に野菜や肉をはさんだものを作ってくれる。これはこれで店で出してもいいレベルだけど、手作りな分、効率が悪いので、人気になってもレトに悪いか。
手作りだと効率が悪いっていうのも食堂としてどうなんだという発言だけど、俺の店は特殊だということで許してもらいたい。
カイセキなる言葉に賭けて、特訓を行ってから十日後。
「ノルアルド・フェラン・カイセキ・バルコラードリィ!」
虹がそこに現れたのかというほどに様々な色の光が手からほとばしる!
もしかして、モンスターを召喚しちゃったかもと誤解するぐらいには、これまでの自分の経験と違っていた。魔法を使っている衝撃だけで吹き飛ばされそうだ!
実際に風も起こっているのか、近くに置いていた紙が吹き飛んでいる。これ、狭い部屋でやることじゃなかったか?
俺の真ん前にいくつもの皿が並んだ、異国の宮廷料理めいたものが現れた。
一つ一つの料理は少量だが、どれも手が込んでいるのがわかる。ほとんど料理というより、何かの工芸品みたいに見えるものすらあった。
「オルフェ、す、すごい!」
それを見ていたレトの声もいつもと違って興奮しているのが感じられた。
「うあああああああっ! 何かとんでもないことが起きましたね! これならあのドワーフの人もきっと太鼓判を押しますよっ!」
サンハーヤの声なんて近所迷惑なぐらい大きい。それぐらいの衝撃はあったと俺も思う。
明らかにこれまでの召喚魔法とは意味合いが違う。
「どうだ? 俺もよくやっただろ……?」
なんか、いきなり意識が朦朧としてきた……。
あっ、これはもしかして肉体に限界が来てるか。それぐらいとんでもないものを出したんだな……。
説明を書いたものを読む前に俺はふらふらと意識を失った。
●
そして、コンディション的にも問題ないと踏んだ休日の夜。
俺はドワーフのディーズの家を訪ねた。
相変わらず、変な角が屋敷に生えたみたいになっているけど、これって美的感覚が優れていると考えていいんだろうか? 目立つ以上の価値はないと思うぞ。
朝起きた時の体調も悪くなかったので、朝イチでレトに連絡に行ってもらって、その夜に料理を出すと伝えた。あとは適度に散歩をするぐらいで、コンディションが悪化しないようにつとめた。
「さて、では大衆食堂の料理人の腕を見せてもらおうとするかのう。まあ、ここに来ただけでも偉いがな。てっきり、このまま一生やってこんかと思っておったぞ」
たしかに、宮廷料理みたいなものを大衆食堂の店で作ることなんて無理だろと思ってもおかしくはない。
「とくに言い返す気はないです。食べてもらえば結果はすぐに出ると思いますので。台所をお借りしますよ」
俺は台所に入ると、そこでゆっくりと最後の精神統一に入る。
俺の後ろにはサンハーヤとレトがいる。また倒れたりしたら大変だからだ。
一応、意識まで失うのは最初の一回だけだったので、大丈夫と信じたいが。
「のぞいてる人もいません。思い切って召喚してください、オルフェさん!」
「レトも応援してる」
うん、二人の期待にもこたえるぞ。
俺の全力をぶつけるっ!
「ノルアルド・フェラン・カイセキ・バルコラードリィ!」
これまでで最も完璧な発音だ!
そしてまたとんでもない光の奔流が去った後に、完璧な会席料理が並んでいた!
「最初に唱えた時より、品数が多い気がする。ちょっと離れたところにデザート的なものとお米みたいなのがあ……」
体がふらついた。やっぱり、くたくたになるのは同じだな……。
でも、すぐにサンハーヤが「大丈夫ですか!」と受け止めてくれたので、倒れずにはすんだ。
「ありがと……。ベストは尽くした。これでダメならどうしようもないな……」
「こんなにおいしそうなんだから、問題ないですよ! やれますって」
「けどさ、サンハーヤ、これまでの会席料理食べたよな」
「はい」
「……正直、おいしいと思ったか?」
変な間があった。
「はっきり言いますね。わかりませんでした。ダメだったのではなくて、わからないんです……。複雑な味のものが多くて……」
「うん、俺もそんな感じなんだ……。食べ慣れてないから判断自体が下せない……」
多分、一食で銀貨二枚とかするんじゃないだろうか。そんな値段の食事をしたことがないから謎なのだ。ていうか、よく考えたら異世界の料理をこれまで美味いと感じたのが奇跡なのでは……?
「とにかく、やることはやった! あとは運に任せる!」