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18 ドワーフをうならせろ

1万点突破しました! ありがとうございます!

 ドワーフは言葉を続ける。


「オクトパスもちゃんと具として存在感を持っておる。さっきのは冷めてしまっておって、小麦粉のボールに異物が入っているというような感じしかなかった。こっちはすべてが一体となって、旨味の塊となっておる。こうでなければ、オクトパスを入れるという意味自体がない。それとオクトパス自体の鮮度もまったく違うものじゃ」


「ご理解いただけて幸いです。これだけ鮮度のあるものはなかなか手に入らないですからね」

 というか、召喚してるからな。王都は海からそこそこ遠いので、いくら海産物用の行商などが気合い入れて運んでも、鮮度は落ちていく。

 ましてオクトパスなんて人気もそんなにないから、高い金で鮮度のいいものを運ぶことはできないだろう。


 サンハーヤもわかってもらえればいいんですよという顔をしている。横でうかがっていたレトもほっとしているように見える。

 とりあえず『オルフェ食堂』の名誉は守られた。


「じゃが――やはり、これは美食ではないのう」

 鋭い目でディーズが言う。


 俺もわかっていたので、とくにむっとしたりはしない。



「はい。俺が目指してるのはあくまでもすぐれた大衆食堂ですから。美食は対象外なんです。ていうか、こんな若造がたどりつけるものではないはずですしね」

「そうじゃ。ワシが求めておるのは宮廷料理をもしのぐような、最高の食材に最高の技術をほどこした料理。こういったお手軽だけど、しっかりおいしいというものとは別の高みにある。悪いが、お前さんの方向性ではここには到達できんな」


 俺としてはそう言わせておくつもりだった。


 しかし、サンハーヤは納得しなかった。


「到達できないという表現は取り消してください」

 毅然とした態度でサンハーヤはいる。


「その言い方だと、結局あなたの求める料理に食堂の料理が劣っていることになります。そこに優劣をつけられるのは心外です。だいたい人間の味覚って、ステータス的にすべての料理に客観的な優劣をつけられるものじゃないはずですし」


「悪いが、味の深みからして違う。この次元なら優劣はつくな。ワシはさんざん食の探求者を続けてきたのじゃ」


 俺はそのやり取りを見ていて、どっちか決断をしないといけないと思った。

 一つはサンハーヤをなだめてその場を取り繕うか。

 もう一つは、無謀にも売られたケンカを勝ってみるか。


 ここまでサンハーヤが食堂の価値を守ろうとしてるんだしな。


 戦いに乗るか。


「じゃあ、この若造があなたがうなるほどの美食を持って来たらいいんですね?」

 俺の表情に、ディーズはにやっと笑みを浮かべた。


「ああ、それができるならな」

「わかりました。少し時間はかかるかもしれませんが、文句のないものができたら持ってきますよ」


「わかったわい。もし、ワシがうなれば、お前らの勝ちじゃ。そうじゃな……賞品として……」

 あごひげをいじりながら、ディーズは思案していた。


「その食事の格にあうだけの店でも作ってやろうかのう? これでも建築家じゃからのう」


 サンハーヤの目の色が変わった。


「よっしゃあ!!!!!!!!!!! 絶対勝ちますよ!!!!!!!!!! オルフェさん!!!!!!」

「あっ、ああ……。まあ、努力はする……」


 異様にサンハーヤが盛り上がってしまったな……。

 こうして、なし崩し的に俺は「対決?」をすることになったのだ。



「さて、どうしたもんかな……」

 その日から、俺の頭にはこれまでと違うタイプの問題が浮上することになった。


 俺がこれまで出してきた料理を並べても勝ち目はない。


 この中だと、しょうゆラーメンはかなり奥行きのある味だと思う。調理過程からしても家庭で気楽に作れる次元のものじゃない。しかし、一品だけではどのみち足りない。コース料理にすることは、あのドワーフを納得させるには必要だろう。


 そこで俺はコース料理も召喚できないだろうかといろんな言葉を試すことにした。

 コース料理そのものを意味する単語があれば、なんとかなるかもしれない。


「ノルアルド・フェラン・バノザ・バルコラードリィ! ……これも失敗か」

 とにかくいろんな文字列、それも短い言葉でいいものが出ないかを試す。


 どうやら、俺が召喚する料理名にはいくつか特徴がある。原則一つの発音に必ず母音と思しきものがつく。

 発音のパターンはそんなにないようだ。


 ちなみにいくつか短い単語で召喚できたものもある。たとえば寿司だ。ただ、生魚をサンハーヤも避けて食べなかったので、商品化は難しいかもしれない。


 ちなみにサーモンが米に乗ったものだけが出てきたが、もっとスキルアップすると、いろんなネタが出てくると説明書にはあった。


=====

ご注文の品をお送りいたします。

料理名:寿司ただしサーモンのみ

本来大衆的な食べ物だった寿司は、ある時期から高級な料理となってしまいました。申し訳ありませんが、今回はサーモンだけとさせていただきます。

心が澄み切った時に試してみてください。その時には本来の異世界干渉力を発揮することができます。

=====


 あと、ピザというのも出た。これはサンハーヤもレトも絶賛した。


=====

ご注文の品をお送りいたします。

料理名:ピザ(ただし宅配用のラージサイズ)

ピザとピッツァは違うという人もいますが、そういう区別はここでは扱わないことにします。

さて、宅配ピザはけっこう値段がするので、召喚時の疲労にご注意ください。

=====


 たしかに大きい円盤状のものが出たら、かなり体力を消費したので、メニューとしてお店に並べるのは多少危うい。疲れた時に使用したら、八分の一に切ったものだけが出てきた。


 どうやら、値段が高そうなものは召喚が難しいらしい。あるいは召喚ができたとしても疲れる。


 とはいえ、日中は食堂をやって始終召喚を繰り返しているので、夜の実験時には体力も消耗してるし、あまり効率は良いとは言えなかった。

 なんだかんだで二週間近くが過ぎた。

 あんまりディーズを待たせるのも恥ずかしいよな。どっかで決着をつけたい。


 そんなある日、さらにいろいろ試した結果、ある単語でこんな反応が出た。


=====

申しわけありません。ご注文の品は召喚できませんでした。

料理名:会席(料理)

この料理は有名な温泉地での老舗旅館のものをもとにしています。

よほど、コンディションのよい時で、かつ、心身が優れている時でないと、召喚は難しいでしょう。

なお、会席と懐石は発音がまったく一緒ですので、このままですと本来質素なものである懐石は召喚できず、豪華な会席料理しか出せません。ご了承ください。

=====


 これ、どうにか召喚することに成功すれば、劇的においしいものを生み出せるんじゃないか……?

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