15 食堂リニューアル
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翌日から、オルフェ食堂はリニューアルすることになった。
といっても、大きなテントを張っただけだけど。でも、店らしさが出たのは間違いない。
テントの前には「胃袋の友達 オルフェ食堂」の看板がかかっている。なお、「胃袋の友達」という文字はサンハーヤが勝手につけた。
そして、従業員も増えた。
レトがメイド服姿で接客することになった。
「やっぱりメイドはネコ耳に限りますね~。これぞ、オールドスタイルです」
サンハーヤの発言は謎だが、長らくメイドをやっていただけあってその服装はよく似合っていた。
「うん、いかにも働き者って感じがする」
「そう? レトはこればかり着てたからよくわからないけど……」
レトは俺とサンハーヤに褒められて、うれしいというより、気恥ずかしそうだった。
「レト、しっかり働く。任せて」
握った両手を前に出して、レトはファイティングポーズをとる。
「よし、この店は思ったよりも忙しいからな。頼むぞ!」
さあ、新生「オルフェ食堂」オープンだな。
「じゃあ、前に置いてある『心をこめて仕込み中』の看板を『元気いっぱい営業中』に変えてきますね」
「お前、文字列を変にこだわっていじるの、やめろ」
普通に『CLOSED』とか『OPEN』とかでいいだろ……。だいたい召喚してるから、仕込んでないし。
「私、子供の頃、お店屋さんごっこにはまってまして、こういうのやるの実は長年の夢だったんです。ほら、やりませんでした? 『注文、アスパラベーコン入りましたぁー!』『喜んでーっ!』みたいなやつ」
「なんで、子供のお店屋さんごっこで居酒屋のノリなんだよ……。パン屋さんとかにしろよ……」
「パン屋さんは仕込みがものすごく早朝から行われるのできついです」
そんなところに生々しさを入れるな。
サンハーヤが店の外に出るので、俺もついていった。
ずらぁ~っと早くも三十人近く並んでいた。
「おっ、開店か?」「はやく、ギョウザが食べたいわ~」「俺、今日は豚汁食べてから洞窟に入るつもりなんだ」
完全に人気店になっちゃってるな……。
「レト、これは無理かもしれない……」
「おい、諦めるの早すぎるぞ!」
もう、これはどんどん召喚するしかないな。サモナーの腕の見せ所だ。
いや、本来、サモナーって次々に召喚を繰り返す職業じゃないんだけどね。
ちなみに今日のメニューはこんな感じ。
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メニュー
ラーメン
ショウユラーメン 銅貨5枚
シオラーメン 銅貨5枚
トンコツラーメン 銅貨5枚
ミソラーメン 銅貨6枚
ギョウザ
ギョウザ 銅貨3枚
スイギョウザ 銅貨3枚
ミソラーメンとギョウザのセット 銅貨8枚
他のラーメンとギョウザのセット 銅貨7枚
ギュウドン 銅貨4枚
タコヤキ 銅貨4枚
トンジル 銅貨3枚
ギュウドン・トンジルセット 銅貨6枚
ウメボシ(3ヶ) 銅貨2枚
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牛丼をメニューに入れた。これ、冒険者の気質には絶対に合っていると思うんだ。基本的に冒険者ってせっかちな人種だからな。くつろいでランチやディナーを楽しむ連中じゃない。短時間で食えるぐらいで、ちょうどいいだろう。
さて、俺はできればレトの働きぶりも見たいな。
レトが座ったお客さんのところに、さっと行く。
「ご注文は?」
「味噌ラーメンと餃子のセット」「豚汁とタコ焼き」「ギュウドンと餃子」「ギュウドン・豚汁セット」
注文するほうも常連が現れだしており、どういう料理かわかってる感じがある。そして、みんな銅貨を各自出していく。冒険者はパーティーといえども個別会計が基本だ。あくまでも個人事業主が協力してダンジョンに入るというのが実情だ。
しかし、立て続けに注文が入ったが、レトは対応できるのか?
表情からは大丈夫なのかどうかわかりづらい。
「心得た。味噌餃子セット。豚汁タコ焼き。牛丼と餃子。牛丼豚汁セット」
さささささっと、メニュー名およびセット名を書いた木札がテーブルに配られる。
ディーラーのような手さばきだった。
それと同じ木札が俺のいる「厨房」の小部屋に届けられる。召喚している様子を見られると困るからだ。違法ではないけど、料理を召喚するサモナーなんて前代未聞だから、変に思われる。
「はい、注文入った。よろしく」
「わかった。すぐ召喚する。まず、味噌ラーメンと餃子のセットからな」
すぐに小声で召喚魔法を唱える。
餃子は先に作っておいてもいいのだが、それだと皮のぱりぱり感が弱まってしまう。どうせならできたて、というか召喚したてを食べてもらいたい。料理人ではないにしても、料理を提供するものとしてのこだわりだ。
「ありがと。じゃあ、すぐ持っていく」
すたすたとトレーに味噌ラーメンと餃子を載せて運んでいく。
その動きに一切の無駄がない。
「やりますね」
いつのまにか、ほかの木札を持って、サンハーヤがやってきていた。
「猫の獣人は運動神経がいいと言いますが、それが彼女にも備わっているようです。これならランチタイムの混む時間もどうにかなりそうです」
「そうみたいだな」
「どうでしょう、ランチの時間だけ小皿サービスとかしませんか?」
「サンハーヤ、じわじわと店に対する理想を押しつけるようになってきたな……」
「あるいは、『苦汁』無料サービスとか」
「それは別店舗でやれ! ていうか、ああいう苦いのってクッキーに練り込むとかしたら意外と食えたりするんじゃないのか?」
「なるほど! さすが食の開拓者ですね。見事な着眼点です……」
召喚で出す人間が開拓者を名乗っていいのか怪しいが、斬新な料理を提供しているのは事実だ。
「しかし、やはり『苦汁』はまずいのも合わせて楽しむものですからね……ここは妥協できません!」
まずさにこだわるのやめてほしい。
さて、お客さんの牛丼の反応を見てみようか。
みんな黙って、一心不乱に食べていた。
そう、それでいい。無駄口叩く暇があったらひたすら食べる、それが牛丼のあり方だ。
牛丼を食べ終えた客が、一言「ごちそーさん」とだけ言って店を出る。
うむ、これでいいと思う。牛丼はこれでいい。
そんな様子を見ていると、またレトが木札を持ってきた。
どうやら、食堂は安定期に入ったらしいな。