11 謎のコンビネーション
6位に上がっていました! ありがとうございます!
さて、餃子なるものが生まれたので、それの試食に入りたいところだが、その前に恒例の説明書チェックだ。
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ご注文の品をお送りいたします。
料理名:餃子
小麦粉の皮であんを包んだ料理というのは、かなり普遍性があるのか、各地で似た料理がありますね。
料理としては確実に存在していたはずですが、日本に餃子が本格的に広まって、誰でも食べるようになったのは案外と遅くて、戦後だと言われています。
ニラやニンニクといったにおいのきつい食材が受け入られるのに時間がかかったのかもしれません。
餃子は浜松・宇都宮などが有名ですが、消費地としては京都も多いですし、福島も円盤状のものが知られていますね。神戸などでは味噌だれをつけるものもあるようです。
今回はキャベツ多めの宇都宮スタイル寄りのものとなっております。なお、水餃子や揚げ餃子などもありますが、餃子とだけ聞けば焼き餃子だと思われますので、これになりました。
食べ方にも、酢に胡椒をかけるとか人によるこだわりなどいろいろあると思いますが、今回はオーソドックスに餃子のタレ的な調味料をつけるものにしました。
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なんか、これまでの料理と比べると情報量が多くないか? 謎の地名が無茶苦茶入ってるし。この説明書、誰が作ってるのかわからないけど、やけに語りたいことがあったのかな……。
またフォークと箸なる棒が置いてあった。フォークで刺すと、皮は焼いた表面部分はかりっとしてるけど、全体としてやわらかい感じがする。
ソースのようなものにつけて、口に入れる。
「おわっ! 肉汁が! 肉汁が口の中に出てくる! ちょっと火傷しそうになるけど、うまい! こんなに小さいのに、信じられないほどパワーがあるぞ!」
「じゃあ、私もいただきますよ。むっ……これはとくに育ち盛りの人なら何個でも食べられる味です! そして、すっごくお酒がほしいです! むしろ、これでお酒なしっていうのは拷問です!」
一皿では足りないので、俺はもう一皿召喚した。
一つ一つは小ぶりなので、何個でも食べたくなってしまう。
「これ、たしかに酒がほしいな……」
苦学生だったので酒は買いこまないようにしていた。酒を飲みだしたら勉強にならないし、それ以前にそんな金があったらもっといい部屋に引っ越している。
「じゃあ、お酒も売り出しますか? 味は濃いのに全然飽きませんね」
「それはどこかの酒屋と契約しないといけないし、ちょっと面倒だな……。酒を売るのって国の許可がいるはずだし。シンプルな料理なのになんでこんなにうまいんだ?」
もう一皿目を出そうとしたところで、ちょっと思いとどまった。
「私はまだいけます! 出してください!」
「いや、またさっきの説明書が使える。ノルアルド・フェラン・スイギョウザ・バルコラードリィ!」
今度はほぼ透明なスープに入った似た料理が出た。
これが水餃子か。とはいえ、明らかにさっきの餃子と比べて皮の分厚さが違う。たしかに焼いたものと同じでは皮が破れるからな。
「これは圧倒的なモチモチ感ですね! そして締めにはこっちのほうがいいです!」
「だろ? スープ寄りのもののほうが終わりとしてはいいんだ」
この日、味噌ラーメンと餃子、および水餃子というメニューが増えた。
ラーメンというものにもいろんな種類があるらしいが、自分たちで食べてないものをメニューに並べるのは時期尚早だろう。そこはちょっとずつ増やしていけばいい。
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翌日、「オルフェ食堂」のメニューが倍増した。
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メニュー
ミソラーメン 銅貨6枚
ギョウザ 銅貨3枚
スイギョウザ 銅貨3枚
ミソラーメンとギョウザのセット 銅貨8枚
タコヤキ 銅貨4枚
トンジル 銅貨3枚
ウメボシ(3ヶ) 銅貨2枚
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正午頃から開店したのだけど、とんでもない列になった。
どうやら、酒場などで冒険者が話したらしく、ダンジョンに行くのではなくて、この店に来ること自体を目的にした人間が増えているらしい。
それと冒険者じゃない一般市民も並んでいる。学生風の男から、このあたりの農場で勤めてるだろう人まで。この店、まだ小規模とはいえ、王都の話題の的になりつつあるようだ。
料理を召喚することはすぐでも、サンハーヤが会計をするのには多少の時間がかかる。それぐらいに人が来ていた。
「はい、お金を用意してお並びください! 席が必要な方は申し訳ないですが、横に別にお並びください!」
サンハーヤもてんてこまいになるほどの列だ。これは従業員を追加で雇う必要があるかもな……。けど、求人の出し方もよくわからないし、せめて一週間はこのままやるか……。
本当はほかのラーメンもどんなものか挑戦したかったが、朝からラーメンというのは、けっこう重いなと思って見送ることにした。
さっぱりしているスープのものならいけるかもしれないが、どれがさっぱりしているのか未知のものだから判断できない。
それに食堂としての最低限のラインは味噌ラーメンと餃子でかなり解消された気がする。
なんでかわからないけど、そういう気がするのだ。「食堂でラーメン」という言葉に妙に落ち着くものがある。
それはお客さんのほうも同じらしい。
「このラーメンとギョウザのセット、魂が求めてた感じがする」「わかるぜ! 欲を言えば、このハシっていうスティックで食べるようになりてえな! そっちのほうが本場っぽいと思うんだ!」「よーし、こっちはギョウザを二つほどラーメンに投入してみるぞ!」
すっごく生き生きしている。ラーメンと餃子を組み合わせで売るという発想は今日の朝に考えたんだけど、これ、絶対に正解だったと思う。
「今度からダンジョン帰りの楽しみが増えたな!」「いい汗かいた後のミソラーメンが胸にしみるぜ!」「絶対にひいきにするぞ!」
変な店がすぐブームすぎて閑古鳥という問題も解決できたようだ。
こうして、オルフェ食堂はその地位を不動のものにしたのだった。