10 召喚のルールと餃子
しかし、これは素晴らしい商品が追加できそうだ。
この味噌ラーメンなる料理、タコ焼きなどとは違う中毒性があると思うのだ。
なんだろう、あったかいスープにつかった麺を口に入れていく時の多幸感は、俺はやったことはないが麻薬的な常習性すらあると言えるかもしれない。おなかだけでなく、心まで満たしてくれる、そういう力がある。
豚汁が安らぐ味としたら、この味噌ラーメンは「く~、幸せ!」とでも言いたくなる味なのだ。豚汁にはないパンチ力がある。
しかし、俺の探求心はまだこんなところじゃ終わらない。
俺はさっきの説明書にもう一度目を通す。
「なあ、サンハーヤ、これ、すごいことが書いてあるぞ」
「え、どこですか?」
俺は該当箇所に指を這わす。
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餃子的なものも、世界の各地で見られます。
なお、「ラーメン」という呼称では範囲が広すぎるので、それだけでは召喚ができませんのでご容赦ください。とんこつやしょうゆ、塩といった要素や、地名などを入れてしぼりこんでください。
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「ここから、次の二つのことがわかる。その一、ギョウザという小麦粉を使った食べ物が存在すること、その二、おそらく、ラーメンというのはこういう麺料理の総称で、トンコツ、ショウユ、塩といったいろんな派生形があるらしいこと!」
「じゃあ、一気にレパートリーが増えますね! トンコツとかショウユとか何かよくわからないですけど!」
ぱん! とサンハーヤは手を叩いて喜んだ。
そう、メニュー数少なすぎ問題を大幅に改善できるかもしれないのだ。
ただ、小さいながら問題点もなくはなかった。
俺は自分のおなかに手をやる。うぷっ。
無論、夕飯も食べていた(またタコ焼きと豚汁だったけど)ので、そこから味噌ラーメン一杯はけっこう重かった。
「今、ラーメンの派生形は危ない。無理して食べようとするとおいしさがわかりづらい……」
「ですね……。ここはギョウザにしましょうか……」
けれど、俺はそこでもう一つ疑問点にぶつかることになる。
もし料理名を言うだけで詠唱扱いになって召喚が実現するならば、俺が豚汁とか梅干しとか口にするたびに物が出ていないとおかしい。
もしかすると、力の込め方の違いなどもあるかもしれないが、最初に味噌ラーメンを出した時とか、別に何の気合いも入れてなかったように思う。
そもそも、一般的な魔法を成功させたことがないから、その違いもわからない。
「餃子! ギョウザ! ぎょうざ!」
実験はすぐにできる。俺は「ギョ」と「ウ」と「ザ」の音を続けて連呼した。どっちかというと、「ギョオザ」みたいな発音が正しい気もするけど、とにかく説明書のとおりに発音した。
何も出ては来ない。
これから、少し仮説を立てることができる。あくまで仮説だから、それも実証していかないといけないが。
「なあ、サンハーヤ、俺の職業は何だ?」
「もちろん、『オルフェ食堂』店主です」
「あ、ごめん……。そういう意味じゃなくて、冒険者としての職業な……。答えを言うと、サモナーだ」
せっかくだから、ステータス確認をしておこうか。
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オルフェ
職業:サモナー
★状態異常あり 食べ過ぎ
レベル 1
体力 12/12
攻撃力 5
守備力 4
素早さ 4
賢さ 28
魔法力 0/0
その他
モンスター使役力 1
異世界干渉力 204
◇使用可能魔法◇
召喚全般
知識さえ積めば使用可能
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なんだ……食べ過ぎなんてものも表記されるのか……。ステータスシステムってこんなことにも使えるんだな……。
それは置いておくとして、やはり俺はサモナーだ。
「おそらくだけど、あくまでも俺は召喚に関する魔法しか使えないんだ。それがなんらかの問題で異世界の料理を召喚している。何が言いたいかというと――」
「『俺は料理人じゃねえ! 冒険者だ!』ですか?」
「ちょっと、違う」
サンハーヤがボケキャラだということが二日目にしてわかってきた。
「つまりだな、俺は召喚魔法の体裁をとらないと料理を出せないんだ。たしかに極端に短い詠唱というのは、ウィザードの魔法にもほとんどない。魔法の誤使用を防ぐためって説もあるけど、詠唱はそこそこ長くなってる」
たとえば、「ア」と言うごとに竜巻が起こったら、そのウィザードはほとんど何もしゃべらせてもらえないだろうし、ほかの魔法の詠唱の途中に竜巻が起こってしまい、めあての魔法が唱えられなくなる。
なので、魔法の呪文はほかと混ざらないように分けられている。
「だから、俺は召喚魔法めいた呪文を作って、その中に料理名を入れていかないといけないんだと思う」
「けっこう、面倒ですね、それ……」
「面倒ではあるけど、不可能じゃない。呪文には規則性があるからな」
現代語訳をすると、「×××といったモンスターを召喚したいです」といった意味になる呪文などもある。その×××に料理名を入れればいいのでは?
別に失うものはないし、俺は早速やってみる。そういう知識に関しては真面目に勉強していたから、頭が働くのだ。まずはシンプルなバージョンで試すか。
「ノルアルド・フェラン・ギョウザ・バルコラードリィ!」
例の発光が来た!
よし! 成功だ!
俺たちの前に、どことなく三日月形に見える、小麦粉の皮で包まれた料理が六個現れた。
別の小皿には調味料らしきものが入ったものも出ている。
「これが餃子ですか。たしかにこれなら十二個ぐらいなら食べられそうですね」
「サンハーヤ、それは食べすぎだ」
「私、甘くないものも別腹なんですよ」
それ、あらゆるものが別腹じゃないのか……?
今日も複数回更新できればと思っております! よろしくお願いします!