1 モンスターになつかれないサモナー
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「いいですか? ファイアリザードはこんなふうに背中をなでると、少しずつ落ち着いてきて、召喚した人間になついてきますからね。皮膚がざらざらしてますが、根気よくなでていきましょう!」
俺たちはミルカ先生のサモナーの言葉をメモしていく。
頭で覚えないと意味はないですよ、とよく先生は言う。それは正論だけど、コツを忘れてしまった場合、紙に書いてないとどうしようもない。結論からいくと、どっちも大事だ。
「なでる時は必ず、ファイアリザードの後ろからにしてくださいね。前からだと炎を吐かれた場合、黒焦げになりますからね~」
隣の同級生が「おい、オルフェ、ミルカ先生、胸大きいよな」とかしょうもないことを言ってきたが、無視してメモをとることに専念する。別に先生をモンスターとして召喚できるわけじゃないんだから、そんなことに着目する必要はない。
まあ、ミルカ先生の胸が大きいことは否定しないけど……。
たまに召喚モンスターがぎゅっと先生に抱きつかれているのを見ると、はっきり言ってうらやましい。
けど、今はそんなことより、いいサモナーになることに精神を集中しなければならない。
今、俺が勉強しているのは、王都にあるサモナーの専門学校だ。
冒険者の中でもサモナーになることを目指してる人間だけを対象にした教育機関だ。教育機関というより、訓練機関と言ったほうがいいけど。
冒険者は現在、王都で最も人気のある生き方の一つではある。
ダンジョンに行って、モンスターを倒して魔法石を入手し、未盗掘の場所ならお宝をゲットする。それが冒険者の金の稼ぎ方だ。
つまりフリーランスの生き方だ。
組織に入るわけじゃないから、上司に長らくこき使われることもない。パーティーを組む必要はあるかもしれないけど、嫌な奴がいたら抜ければいい話だ。労働時間は決まってないから、今日は働かずに寝たいなと思ったらその日は寝ていてもいい。
そういう縛りの少ない点が冒険者がウケている理由だ。
けど、一切の訓練なしでやろうとすると、危険だ。死ぬ時は死ぬし、しょぼい冒険者だと仲間を集めることもできない。
一匹狼的に生きていくことも可能だけど、危険は増大する。たとえば筋肉をきたえあげても、眠りの魔法をかけられたら悲惨なことになる。
そして、俺たちが目指しているのがサモナーだ。
理由を説明していくと、以下のようになる。
まず、冒険者に多い職業といえばウォリアーやウィザード、プリースト、そのへんが思い当たる。
上位クラスで評価が高いのはセージ、ドルイド、パラディンあたりだろうか。このあたりになれたら最高だけど、最初からなれる奴はいない。
ウォリアーやウィザード、プリーストといった職業がいないパーティーというのは考えづらいし、そこでのし上がるのが、大物冒険者になる基本だとは思う。
しかし、そういうどこにでもいる職業は競争倍率も激しい。
たとえば、ザコのウォリアーは、どこからもお呼びがかからない。ウォリアーなんていくらでも新しい冒険者の加入で再生産されるからだ。剣と鎧を持っていれば、とりあえず格好がつく。
ということは、相当な大物になるのもライバルが多くて難しい。途中で引退する羽目にもなりやすい。
どうせ冒険者をやるなら続けやすいもののほうがいい。
かといって、特殊な職業になるのはハードルが高い。なり方もわからない。
そこでサモナーなのだ。
サモナー――モンスターを召喚して戦わせる職業だ。
モンスターに戦わせるということは、自分の肉体を鍛える必要もそんなにない。召喚魔法を覚えるだけでいい。
ウィザードやプリーストほど競争倍率も激しくないから、どこかのパーティーに潜り込める可能性も高い。
というわけで、俺はサモナーの専門学校で基礎を学んでいるのだ。
なお、まだ俺はサモナーじゃない。サモナーを目指している一般人だ。
職業は神殿に行った時に、適職を国の守護神から(実質的には職業決定の儀式を行う神官から)授けられる。
この時、その人間に向いている職業になるので、肉体が強ければたいていウォリアー、文系の奴や魔道書を趣味で読んだことがあるような奴は多くがウィザードやプリーストになる。それ以外の職業になることは稀だ。
なお、ジョブチェンジをすれば、能力的に転職可能なものなら何にでもなれるが、レベル15を超えないとジョブチェンジは認められてない。
レベル15というと、中堅冒険者を名乗れなくもない程度のレベルだ。冒険者の素質がない場合、そこに到達する前に冒険者自体を廃業することもありうる。
だから、俺は、というかここにいる生徒は、サモナーの基本を学ぶことで、ちゃんと職業決定でサモナーにしてもらえるようにしているというわけだ。
この専門学校は、サモナー就職度90パーセントをうたっているぐらいだから、実績もある。
逆に言うと10パーセントはここに通ったのに、プリーストとかウィザードとか神殿で言われてしまっているわけだが、十人に一人ぐらいはどんな世界でも、不真面目な奴とか授業にも出てこない奴とかがいるんだろう。
もう、授業も終盤で、座学はほぼすべて終了。先生が召喚したモンスターに接するところまで来ている。俺も二か月後には、もう卒業なのだ。
よし、絶対、いいサモナーになるぞ!
「はい、ではためしになでてみましょうか。じゃあ、オルフェ君」
先生に呼ばれて、俺はファイアリザードの前に出る。
さあ、気持ちよくなでなでしてやるぞ、ファイアリザード!
しっかり後ろからなでてやる。授業もしっかり聞いている。
専門学校とはいえ、俺はここではかなりの優等生だ。
子供の頃から猫を飼いたかったけど、それが許されなかったというのもあり、ぜひともサモナーになりたかった。サモナーになれば、いろんなモンスターをなでなでできる。
だが、いきなりファイアリザードが顔をこちらに向けた。
――ボワアッ!
そして、口から火を吐いた。モロに服に火がついた!
「うああああっ! あちっ、あちちちちちっ!」
「そんな! 温厚なはずのファイアリザードが、こんなことをするなんて!」
先生も唖然としているが、その前に消火をお願いします!
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こういったもしもの事態に備えて、先生が水魔法を覚えていたので、事なきを得た。
ただ、今の授業であらためて懸念点が浮き彫りになった気がする。
実は俺は昔から動物になつかれないのだ……。
ほかの人間には頭をなでさせてくれる野良猫も、俺が近づいたら逃げるなんてことが珍しくなかった。
召喚したモンスターなら俺に服従するから大丈夫だと思うんだけど……。
一抹の不安を残したまま二か月が過ぎ、職業決定のために神殿に行く日がやってきた。
序盤なので、数話まとめて投稿します!