美咲の過去と、これからの関係
美咲は中学生の頃、いじめにあっていたという。それはクラス全体で行われており、無視されたり、物がなくなったりということがあったらしい。小学生の頃から仲良しだった子からも無視をされて、心はずたずたになったことだろう。
特に辛かったのが、あの三人のいじめだったという。あの三人は、他の子よりも乱暴ないじめを繰り返した。雑巾を投げつけたり、体育館の倉庫に閉じ込めたり。彼女はあの三人の高らかで下品な笑い声を聞くたび、一人で震えていたと、泣きながらいってくれた。人が笑っていると、すべて自分のことで笑っているんだと、いつも被害妄想をしていたらしい。
高校はあの三人と別のところへ行き、少しは楽になった。しかし、友達が出来る自信はなかった。話しかけても無視されたらどうしよう、そう思うと声をかけることができなかった。話しかけられても、笑うことができなくて、友達はできなかった。次に話しかけられたときは、ちゃんと笑おうと思っていたとき、私が声をかけたらしい。その時、とても嬉しかったという。
あの三人に会ったとき、もし私を友達だと言ったら、美咲だけでなく、私にも被害がいくかもしれない、そう思って、友達じゃないといったようだ。
私は美咲に質問をした。何故、私について知ろうとしなかったのか。美咲は言った。
いじめられる前、美咲はなんでも知りたがる子だったらしい。なんで、どうして、とずっと言っていたという。しかし「お前、なんでなんでってうざいんだよ。お前なんかに教えるわけないだろ」と言われたという。それから数日後、いじめが始まった。それが影響して、今でも人の事は聞かないようにしている、いやそうなってしまったようだ。
私は言った。知ってほしい、と。そんなことは絶対に言わない。だから、たくさん知ってほしい。そういうと、美咲は泣いた。けど、少し笑っていた。
もうすぐ、美咲が乗る電車が到着する。改札に向かう直前、美咲は聞いた。
「私達、友達?」
私はうん、と言いかけて、止めた。
「違うよ、友達じゃなくて――」
「――そんなことがあったな、美咲」
私は美咲がいるであろう場所に向かって言った。私の目の前には、美咲の墓石がある。
「美咲が死んで一年が経ったけど、もう十年も経ったように感じるよ。天国でも、元気にしてる?」
美咲は一年前に病気で死んだ。美咲がいない一年間は、とても長かった。
「美咲、君は私の自慢の妻だったよ。今でもね」
あれは、もう二十年以上前の話である。