美咲と、話がしたい
その日の夜、私は美咲にメールを送った。電話でも良かったが、出てくれない気がした。
『友達じゃない』
その言葉が心に突き刺さる。しかし、あの涙から考えて、どうも本心ではないような気がする。本当にそう思っているのなら、そんなに泣かないはずである。美咲とちゃんと話がしたい。嘘は言わないで、本当の事だけを言ってほしい。
次の日、予想通り、美咲は一人で弁当を食べ始めた。いつもなら昼休みになると私の方を見て、笑ってくれる。しかし、そんな素振りはない。私は美咲に話しかける。
「あの……」
美咲の動きが止まった。
「いつもの場所で、一緒に食べませんか?」
話がある、といえば逃げられるような気がした。しばらく、空気が止まっていた。数秒が長く感じられた。
「遠慮します。今日は、一人で食べたい気分なので」
そう言うと、箸を進めた。私は、諦めたくなかった。
「じゃあ、終礼が終わった後、昇降口で……待ってます」
それだけいうと、私は自席に戻った。これにかけるしかなかった。
終礼が終わると、私はすぐに教室を出た。急いで昇降口に向かい、近くにあった椅子に座った。空は鉛色をしていて、今にも雨が降りだしそうだった。続々と生徒が出ていく。美咲なら、きっと声をかけてくれる。私はそれだけを信じて、待つことにした。
部活にはいっていない生徒はすでに帰宅し、体育館からボールの跳ねる音が聞こえる。
雨が降り始めた。今日、傘は持ってきていない。話は、ここですれば良いと思った。
美咲は出てこない。それでも、私は帰らなかった。美咲はそんなに悪い子ではないと知っているから。あの笑顔も、涙も、嘘だとは思えない。今、私に出来ること、それは美咲を信じて待つことである。
気づいたとき、私はいつのまにか寝ていた。ここがどこなのかは分からなかった。学校だとわかったとき、私は美咲を待っていたということを思い出した。すぐに起き上がった。私の上に、カーディガンがかけてあった。手にはハンカチ。そのハンカチを見たとき、誰がこれをしたのかすぐにわかった。美咲だ。私はすぐに立ち上がり、校門を出た。
もうすぐ、美咲がいつも乗って帰る電車が出る時間だ。私は雨が降る中、駅に向かって走り続けた。人々が私を見る視線など、全く気にならない。ただ、間に合ってほしかった。
駅についた。息を切らしながら急いで階段をかけ上る。美咲を探すが、見当たらない。もう、改札を通ってしまったのだろうか。切符売り場には高校生がいる。並んで買っている暇などない。もう、間に合わない。
電車が出発した。
私はなが椅子に座った。
話せなかった。
美咲は今、どんな気持ちだろうか。どんな気分で電車からの眺めを見ているのだろうか。私の事をどう思っているのだろうか。濡れた髪から一滴一滴、雫が落ちていく。頭が痛む。このままここで、眠ってしまおうか。
「あの……」
わたしは耳を疑った。ゆっくりと顔をあげた先には、美咲が立っていた。
「なんで……。もう帰ったんじゃ……」
「忘れ物に気づいて、教室に戻ってたの。眠ってたし、後で声をかけたら良いと思ってたんだけど、いなくなってたから……」
よく見ると、美咲は濡れていた。傘をささず、駅まで来たと言った。私はすぐに美咲がかけてくれたカーディガンを返した。美咲のハンカチも返した。
美咲はとなりに腰かけた。そして、話始めた。