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1000文字小説

ホットミルク

作者: 池田瑛

 ホットミルクが飲みたいと思って冷蔵庫を開けたが、牛乳が無かった。砂糖も切らした。だけど無性に飲みたい。私はマグカップ片手に出かけることにした。

 砂糖を探しに来た。エメラルドに輝く海辺に着いた。砂糖がどこにあるのかと白い砂浜を歩き回る。暫く歩き回ったが、砂糖らしきものは見つからない。海の水は塩辛い。沖でヨットに乗っている人に、尋ね呼びかけても、その人はこちらに手を振るばかり。夕暮れに差し掛かり、夕日が海に揺れ、そして海の中に沈んでいった。もう、諦めて帰ろうかと思っていたら、なんてことはない。白い砂浜がすべて砂糖だったのだ。左手で掬うと砂は氷砂糖になった。右手で掬うと黒砂糖。両手で掬ったら、お目当ての白い角砂糖になった。少し甘めのが飲みたいと思って、3個、マグカップに角砂糖を入れた。

 次は、牛乳だ。だけど、私がどこかに行くなんてことはない。太陽も沈み、時間もちょうど良い。空を見上げれば満天の星空。その真ん中と流れる天の河。私はそこからコップ一杯の牛乳をもらうだけ。でも、天の河は、ちょっとだけ遠い。私が精一杯に腕を伸ばして、思いっきりジャンプしても届かない。マグカップ片手に飛び跳ねて、角砂糖を落としてしまっても具合が悪い。海辺に梯子でも流れ着いていないかしら、と砂浜を歩いていたら、流れ星が落ちてきた。どうやら岬の先端の方に落ちたらしく、薄ぼんやりと周辺が輝いている。しめた、と思って駆け寄ったが、残念。そこにあったのは桜色した金平糖だった。拾ってみたら、まだ熱く、出来立てということで、一粒口に放り込む。優しい甘さ。さてさて、肝心の牛乳はどうしたものかと思っていたら、いつの間にか三日月が夜空に浮かんでいました。

「満月の方が好きだな」と、せっかくやって来てくれた三日月に向かって言うと、三日月は顔を真っ赤にして膨れだす。クレータがオデキみたいに朱くなれば、飲みごろの良い温度。真っ赤になった三日月をガスコンロのツマミのように捻ってやると、天の河から牛乳が滴り落ちる。空から落ちてきた大粒の一滴を、マグカップにいれる。

 砂浜に座って、ゆっくりと角砂糖が熔けるのを待つ。マドラーを持って来ればよかったな、と少しだけ振り返る。だけど、砂糖が熔けていくのをこの星空と波の音を聴きながら待つのも悪くない。怒った三日月も、今は元の色に戻っている。ホットミルクをそっと一口。口の中に、適度な甘さが広がった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ホットミルクという一つのテーマで、ここまで物語を展開させる事が出来るとは。 幻想的で夢の中に入りこんだ時の様な、キラキラとしたとても綺麗な作品だと思いました。読了後のほんわかとした感じも好き…
2015/09/03 12:35 退会済み
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