プロローグ 1
桜の花が満開に咲き誇る四月。
私───財部 雪菜は、入学式を一週間前に控えたある日、部屋で荷物を鞄に詰めていた。
遡ること二日前、急にお父さんが海外への転勤が決まり、お母さんも一緒に付いて行く事になったのだ。
この時私は、既に藍沢高等学校への合格も決まっており、あとは入学するだけだったので、一人日本に残る事になったのだが、両親共に何年もの間家を空ける事になるからと、この家を売り払ってしまうらしく私は独り暮らしも覚悟したが、幸いにもお母さんが学校に問い合わせた所、寮の部屋が空いているという事で私は入学と同時に寮生活をする事になった。
「雪菜、準備は終わった?」
一階から母の呼ぶ声が聞こえた。
「あと少しだから、待ってて」
寮までは、お父さんが車で送ってくれるらしい。私は洋服の入った鞄と黒いケースを持って、階段を降りて行った。
他の荷物は、先に宅配で送ってある。
「お待たせ」
車のトランクを開けて待っていたお父さんが、私に気付いてこっちに来て私から鞄を受け取ると、トランクへと入れ始める。一緒に持って来た黒いケースもトランクへと入れていく。
「それ、持って行くのか?」
「うん!れいちゃんと約束したもん」
「そっか・・・」
黒いケースの中身・・・お父さんがずっと使っていたエレキギター。それを小学卒業と同時に譲り受け、毎日学校が終わると家で練習をしていた。
毎日ギターの練習を観ていた従姉妹のれいちゃんこと、橘 麗香ちゃんとバンドを組んで町内のイベントに出演したりしていた。
れいちゃんが中学校を卒業してからバンドは解散しちゃったけど、私はずっと一人で練習を続けていた。
バンドを解散する時にれいちゃんと約束した事。
「一緒の高校に入って、またバンド演ろう。雪が来るの待ってるから、絶対に追っ掛けて来てよ」
「うん!」
私はその約束を守って、れいちゃんの居る藍沢高校へ行く夢を抱いていた。
お父さんが運転する車に揺られること10分、目的地の藍沢高校の寮の前に止まった。
私がトランクから荷物を降ろしていると、中から生徒らしき若い女性が出て来た。
「初めまして、貴女が今日から入寮してくる財部 幸菜さん?」
「はい、財部 幸菜です。これから三年間、お世話になります」
私は目の前に居る若い女性に対して、深々とお辞儀をする。
「私は、ここの寮の寮長をやってる三年の小木 真弓よ。宜しくね」
「はい!」
「それじゃ、早速だけど部屋の案内をするね」
私はここまで乗せてきてくれたお父さんを見送ると、荷物を持って先輩の後に付いて行く。
「ここの寮は基本的に一人一部屋なの、今は私含めて四人住んでるわ。そして、ここが貴女の部屋ね」
先輩の後を付いて階段を登り、二階の一番奥の部屋が私の部屋らしい。
鍵を受け取り中へ入ると、綺麗に整頓されたベッドや机、本棚があった。
「貴女の荷物は、夕方此方に届く予定になっているわ。取り敢えず簡単に説明しましょう」
部屋は、一人一部屋。部屋にはお風呂もトイレも付いているが、一階に大浴場があるらしい。洗濯は共用だけど、乾燥機も完備されている。食堂も一階で、専属の料理人が居るらしい。門限も22時とかなり遅い時間だ。家で両親と暮らしていた時よりも、贅沢な環境だと私は思った。
「それから今夜、紹介も兼ねて財部さんの歓迎パーティー開くから、18時になったら、食堂に来てね」
「はい、有り難うございます」
「それじゃ私は三階の301号室に居るから、何か分からない事とかあったら聞きに来てね」
そう言って、小木先輩は帰って行った。
改めて今日から生活する部屋を見渡す。これから三年間、何も起こらず平和に過ごせます様に・・・