夜の病院で入院中。2。
ジャバーと流れる蛇口を閉めて手を拭く。
うん。やっぱトイレ行ったら安らかに眠れる気がする。
眠れない夜には最適な行動パターンだね、お勧めするよ!
意気揚々に病室に帰ろうとトイレから出てきた時、廊下の先が妙に明るいのに気が付いた。
そこは、先ほど俺が電気を消したナースステイション。
また電気付いてる・・・。
夜の身回りにでも行ってたナースが帰ってきたのかな。
もう1度覗いてみると、奥のテーブルに男の人が座っているのが見えた。
やっぱり、身回りから帰って来てたんだ。
「さっき電気消したの、きみ?」
そのまま通り過ぎようと思ったら、ナース服を着た男の人が振り返って目が合った。
「うん。誰もいなかったから」
「そうか、ありがとう。でも、ナースステイションは夜の間もずっと付けている事にしているんだ。」
「電気を?」
「そうだよ。夜の目印になるようにね」
「ふ~ん」
目印・・・?
なんの目印なんだろうかと思ったけど、にこやかに笑って部屋に戻る様に言って来るから聞かないでいた。
とことこと、そう遠くない距離にある俺の病室に戻る1歩手前。
俺は足をとめた。
何故かは知らないけど・・・俺の病室の前に俺と同じくらいの背の男の子が立っている。
男の子は、ジッと病室の扉を見つめていたかと思うと1歩踏み出して病室の中に入っていった。・・・て!
あの子、自分の病室間違えてる!そこ俺の部屋!
あわてて部屋の扉を開けて男の子を探す。ベッドを乗っ取られては困る。
見ず知らずの奴と1つのベッドで寝るほどの度胸が無い訳ではないけど、出来ればそんな事避けて通りたい。
ベッドに駆け寄って膨らんでいる掛け布団をはぎ取るが、そこは空気を含んでいただけで誰もいなかった。
あれっと不思議に思っていたら、不意に後ろに誰かが居る気配がして慌てて振り返る。
今度はちゃんと病室の前で見た男の子がいた。
男の子は、思った通り自分と同じくらいの背丈で長い前髪が目元を隠すようにかぶさっていた。寝ぼけて来たのか、ストレートの男の子の黒髪は所々雑に跳ねているし、パジャマの裾も片方はズボンの中、もう片方はズボンの外とダサイ状態になっている。
前髪の隙間からかろうじて見える瞳は、不思議そうに俺を映し出していた。
「えと・・・君、部屋間違えてるよ」
俺が声を出すと、ビクッと男の子は肩を震わせて首を傾げた。
「ここ、俺の部屋なんだけど。」
「・・・号室」
「え・・・?」
「201号室」
「え、あ、うん。そうここ、201号室。君の部屋は?」
「201号室」
「君の部屋が?」
「・・・」
男の子は黙ってコクリとうなづいた。
俺の病室も201号室なんだけど・・・この子も部屋も201号室なの?
あれ、ここって1人部屋じゃなかったっけ?
とりあえずもう1度確認しようとしたら、男の子は勝手にベッドによじ登る所だった。
慌ててそれを制した時、男の子の手に触れて驚いて手を引いてしまった。
冷たかった。男の子の手。
ちょっと冷え症って感じじゃなくて・・・なんていうか、・・・・。
と、とりあえず、この子がベッドに何度も潜り込もうとしてるのは寒いからなんだなっ!
そうだ、そのせいで冷たかったんだ。そうかそうか凍えていたのか!・・・夏の夜に?
いや、夏の夜も冷える時は冷えるぞ。それにまだ初夏の時期だしね、うん。
でも、このままベッドで2人仲良く寝ましょうとは考えたくない俺の心は冷たいのか?
・・・とりあえず男の子に戸棚から引っ張り出した毛布を被せてベッドから離した。
あいかわらず不思議そうな眼で俺を見つめて、被せられた毛布の感触を確かめている。
どうしたものか。これは問題だぞ。
とりあえずばっかだけど、部屋の番号の確認でも・・・うん201だ、間違い無い。
病棟を俺が間違える訳もないし、そもそも俺、この階から下にも上にも行ってないし。
部屋に戻って男の子の手をつかむと俺は、まだ電気のついているナースステイションに男の子と共に再び向かった。
てか、やっぱこの子の手冷たいです。はい。