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再出発






太陽が村にサンサンと熱い日差しを浴びせ始めた頃、村の入口である大扉の前には村人たちが新たな『勇者』の出発を見送ろうと集まっていた。


「元気でね、ラクト。」


「しっかり『魔人』を鎮めてくるんだぞ!」


「逃げんじゃねーぞーラクト~。」



村人たちにもみくちゃにされながら、ラクトは皆から別れの言葉を言われていた。


「…う、うん…ちょ、痛い痛い、髪引っ張んないでよっ。」


これでもかというほど髪をわしゃわしゃされ、まるで爆発した寝癖のようになってしまった。そしてようやく人波から脱出し、村唯一の扉の前にたどり着いた。



「――――ぷはっ…もー…。」


「ラクト!」


名前を呼ばれた方に視線を向けて、見知った顔に胸が苦しくなる。


「あ、ああ。ミル、イルジ兄ちゃん、叔母さんも…見送り来てくれたんだ。…。」


「…昨日約束したからな。」


「ラクト!これね、ミルが作った!お腹空いたら食べて食べて!」


ミルがおもいっきり腕を伸ばして手に持っていた包みをラクトに渡した。ありがとう、とお礼を言ってラクトは少女の頭を撫でた。ミルは満足そうに笑顔になって、横にいた母親のスカートに抱きついた。


「…………ラクト。」


「…叔母さん…元気でね。」


「―――…っ、ちゃんとご飯食べるのよ、身だしなみも大切、ほらこっちに来なさい!」


叔母さんはラクトの腕をぐいっと引っ張ると、寝癖のようにボサボサの髪を手で優しく整えた。そして、今度はラクトの頬に手を伸ばし、涙の滲んだ目をして小さく呟いた。


「…………元気でいるのよ。…ごめんなさい…。ごめんなさい…っ…。」


(…叔母さんが謝ることじゃないよ。)


そう言おうとしたが、目頭が熱くなってしまい、雫がこぼれないように唇を噛んで堪えていたために、言うことが出来なかった。



「ラクト。そろそろ出発しないとすぐ日が暮れるぞ。」


村人たちの集団から少し離れたところにいた女剣士、シャーロットがラクトを呼んだ。


「あっ、すみませんっ…じゃあ…いっ…てきます。」


叔母さんの手をギュッと握った後、ラクトはシャーロットの元に向かった。



ギギィーッと音を立ててただ一つの出入口である大きな扉が開き始めた。大人が六人ほどで紐を引き合い開く仕掛けになっているのだが、今日は集まった男たちが掛け声を合わせながら扉を開けたためにいつもよりも勢いよく、人が通れるくらいの幅が開いた。



「頑張ってこいよラクト!」


「『魔人』なんてとっとと鎮めてしまえ!」


「『勇者』バンザーイ!」


「「『勇者』バンザーイ!!」」



開かれた扉から出て、ラクトは振り返り弱々しく手を振った。村人たちは万歳を繰り返し、ラクトと女剣士を見送った。



しばらく万歳は続いていたが、やがて声は消えていき、音を立てながら扉が閉じていった。


閉じる合間にミルが「早く帰ってきてね」と言ったような気がしたが、ラクトは口をつぐんだまま、シャーロットと共に森の中へと消えて行った。





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