自分の意志-3-
「…ここは気にしなくていい。君はずっと水晶の側にいて、自分の罪を見つめ苦しみ悩んできた。この五年しか見ていないが、充分わかるよ。もういいんだ。あとは俺たち村の人間だけでなんとかする。だから――――君は君の選んだ道を歩きなさい。」
「――――――っ…!」
『魔人』はまた大粒の涙を流し、わんわん泣いた。しばらくしてラクト、アイジ、シャーロットが見守るなか、彼女は泣くのを止めて静かに目を閉じた。すると女の子のつけている髪飾りの水晶が淡く光だし、一瞬強く輝いたかと思うと、パキパキとヒビが入り砕けて地面に落ちた。そして額にあった飾りの水晶も外して、真っ直ぐ前を見つめた。
「…もうこれで、村に私魔力は流れないわ。」
そう言うと持っていた水晶も地面に置いて、女の子はシャーロットの元に歩いて行った。
「―――――私…一緒に行きます。よろしくお願いします!」
女の子はシャーロットに勢いよく頭を下げた。シャーロットはニヤッと笑って片手を差し出したイジが歩いてきた。久しぶりに会う姿にラクトは懐かしさを覚えた。
「よかった…おじさんが村に戻るって知ったら叔母さん泣いちゃうね。…本当に生きててくれてありがとう。」
「いや、お礼を言うのは俺の方さ。お前とあの子のやりとりがあったから、水晶から出て村に帰ると決心出来たんだ。ありがとう、ラクト。」
アイジはくしゃくしゃとラクトの頭を撫でた。ラクトもまんざらでもない様子で笑顔だ。
「…なぁ、ナーシャはもう…逝ってしまったんだな?」
ナーシャはラクトの母親の名前で、アイジのいない間に亡くなっていた。病弱なナーシャをアイジはよく看病していたので、悲しげな表情を見せる。
「…うん、最後まで皆を心配してたよ。おじさんのこともきっとどこかで生きてるからって。」
「そうか…ナーシャらしいな。」
「うん。最後まで母さんは母さんだった。笑顔だったよ。」
ラクトが微笑んで言うと、アイジもまたゆっくりまばたきをして微笑んだ。
「…――――なぁ、ラクト?お前はどうするんだ?」
「…―――え?」
「たった一人の家族だったナーシャももういない。このまま村に帰ってもいい。村長やお偉いさんがなんと言おうが、もうあの子の魔力もないんだ。村の皆と協力して新しい村作りをしていかないとな。なんなら、うちにきてもいいんだが…お前はもう『勇者』にも村にも縛られる必要はない。お前はどうしたい?」
「…俺…は―――――。」
アイジに言われる前からなんとなく決断しなければいけないと思っていた。『勇者』として村を出て、『魔人』が人間であること、村の秘密を知って、そしてこの儀式ももう行われる必要はなくなった。ラクトが『勇者』として旅をする理由はもうない。としたら、アイジと共に村に帰り、村人たちを説得して新しい村作りを手伝うのか…それとも?
ラクトの顔は悩んではいなかった。
「シャーロットさん、えと…ウ、ウルキさん?」
ラクトに呼ばれた二人は声のする方に振り向いた。そんな二人の元に駆け寄って、ラクトはバッと勢いよく頭を下げる。
「俺―――――――今までずっと村の中しか知らなかったけど、シャーロットさんに色んなこと教わって、自分がどれだけ何も知らずに生きてきたのか思い知って、ウルキさんにも…すごく無神経なこと言って傷つけて、本当に恥ずかしいことばかりなんですけど…。でも、このまま村に戻るより、俺もっと色々知りたいし、色んな場所や色んな人に会って…世界を知りたい―――――!」
顔を上げてラクトは二人を見つめて言った。
「無知だし、無力だし、何も役には立てないかもしれません…でも、後悔したくないんです!お願いします!俺を一緒に連れてってください!!」
また深々と頭を下げてラクトは必死に二人にお願いした。
シャーロットとウルキはきょとんとしたあと、顔を見合せてプッと笑った。それはラクトに対しての答えでもあった。
「あはははは!――――いいだろう、二人まとめて鍛えてやるから覚悟しとけよ!私は厳しいからな!」
「はい、頑張ります!」
「へっ!?鍛え…俺も!?―――――が、頑張りますぅっ!」
気の抜けるようなラクトの返事で、皆はまた笑った。こうしてラクト、シャーロット、そしてウルキは一緒に旅をすることになったのだった。




