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幸せの在処-1-






「………え?」



女の子は思わず振り返ってラクトを見た。シャーロットも進めようとした足を止め、目を大きく開き驚いた様子だった。


「…何が?言ってることがわからないなぁ。ほら、剣士さんに置いていかれちゃうよ?」


何事も無かったように振る舞う彼女を見て、ラクトは言葉が止まらなかった。


「だってそうでしょう?君、仕方ないとか言ってるけど、本当はこんなことしたくないんでしょう?止めたいんでしょう?」


「だから、私さっきから言っているよね?誰かに傍にいて欲しいだけなの、寂しいからそうしてもらってるの、だから今私は一人じゃないの!ほら、だから幸せでしょう?」


「…―――――っ、俺は、それが君にとって本当に幸せかを聞いてるんだよ!?」


「―――――――っ!」


ラクトの発言に『魔人』は言葉に詰まった。唇を噛んで手がふるふると震えている。



「君が寂しいのはわかった。だけど、『勇者』の幸せを叶えるだけ叶えて水晶に閉じ込めて、それを傍に置いてるだけで本当にいいの!?君は間違ってることだって言った、だけどその間違ったことを繰り返して、現実を奪った人たちを傍に置いて…平気でいられるの!?」


喋りながらラクトの顔はどんどんくしゃくしゃになって、今にも泣きそうだった。



「…………勝手なこと言わないでよ…!何も…何にも知らない癖に!!」


黙って聞いていた『魔人』は突然大きな声を出して反論した。


「あなたは知らないでしょう!?『魔人』と呼ばれる子供たちがどんな目に会うか!魔力を持ってるってわかっただけで、この世に生をうけてすぐに殺されてしまうんだよ!?生き残ったっていつ殺されるかって脅えて暮らさなきゃならないの!ううん、暮らすとかじゃない、死なないように生きるだけで必死なの!人間皆が敵になるの!考えたことないでしょう!?あんなに外部から守られた村で何にも苦労もせず、泣いて、笑って、甘やかされて、何にも疑わず、他人に操られていることも知らずにのうのうと生きて…人間としての人生をまっとう出来るあなたなんかに、何がわかるって言うのよ!?」


今まで溜まっていたものが爆発したかのように、『魔人』は叫ぶようにラクトに向かって訴えた。そして、どんどん感情が高ぶっていくのが目に見えてわかった。



「――――――っは!まずい!」


シャーロットが何かを察したように言葉を発した時だった。


ポウッと『魔人』の身体から淡い緑色の光が見えた。かと思うと、湧き出したように光は天井に向かって流れ出し、勢いよく輝きを放った。


「っな、これ――――――!?」


すると、何が起こったのかわからないラクト身体にも変化があった。同じような光がラクトの周りで光り始めたのだ。すると突如、ラクトの頭がズキズキと痛みだした。


「っつ――――――!?」


痛みは激しさを増し、さらにガンガンと脳をハンマーで直接叩かれているような衝撃がラクトを襲う。痛みに耐えきれず膝をついてうずくまるラクトの前で、『魔人』は感情が止まらなくなっていた。


「どうして人間ってそうなの――――――!?自分の利益しか考えない、何もしてくれないくせに自分の願いを叶えろと欲を言う、叶えてあげれば間違いだと言う!うるさいうるさいうるさいうるさい!!都合の悪いことは全部私のせいにするくせに!!勝手なこと言わないでよ―――――――――――――――!!」



『魔人』が叫ぶ中、ラクトの身体はガクガクと震えて、胃にあったものをすべて吐き出していた。身体の制御がきかず、眼球がブルブルと左右に揺れている。


「もう止めろ――――――!ラクトを殺す気か!?」


魔力の流れが風のように吹き荒れ、シャーロットはラクトに近づけないでいた。


「――――――――っ!」


シャーロットの声でようやく『魔人』は我に返って、自分の魔力がラクトを苦しめているのを認識した。


「あっ――――ああ…!」


『魔人』の顔は引きつり、頭を左右に振って、胸の前で手を握って魔力の暴走を抑えようとした。すると、ゆっくりではあるが徐々に光が消えていき、吹き荒れて近づけなかったラクトの側に行けるようになったシャーロットが、彼の元に駆け寄った。


「ラクト!おい、しっかりしろ!私が誰かわかるか…!?」


膝をついた状態でうつぶせになっていたラクトの肩は上下に大きく、さらに小刻みに震えていた。


「…ラクト?」



シャーロットが不安そうにラクトの顔を覗き込むと、目から、鼻から口から、流れるものが流れた跡があった。しばらく呼吸がおさまるのを待って、ようやくラクトはシャーロットの呼び掛けに応えた。



「……だ、っつ…だいじょ…うれ…。」


「アホ!全然大丈夫じゃないだろうが!はぁ…なんとか意識はあるみたいだな…。」



ほっと一息するシャーロットの少し離れたところで、『魔人』の女の子は、涙をぼろぼろこぼし、胸のあたりの服を握りしめていた。


「ごめっ…ごめんなさ…そんなつもりじゃ―――――だって…!」



その瞬間、二人の間の空気が切り裂かれる音がした。


「当たり前だ。わざとだったらお前の首はもう繋がってないぞ?」


シャーロットは目に見えない速さで大剣を抜き、真っ直ぐ『魔人』の首筋ギリギリに剣を突き立てたのだ。『魔人』は一瞬の出来事を理解するまで、息が止まっていることに気がつかなかった。


「しゃ…ロットさ―――なにを…。」


真横で起こった光景がまだうまく回らない頭なりに理解しようとするも、どうにも考えが回らない。確かなことは、シャーロットが『魔人』に切っ先を向けていることだった。



「…人間に害を与えるような奴じゃないならそのまま成り行きに任せようとも思ったが、どうやらそうもいかないみたいだ。やっぱりあんたは危険だよ。いつこんなふうに感情に流されて暴走をして人間を殺すかわからない。嫌だろ?人間を殺すなんて――――――…。だったら、今ここで私に殺されるって選択も、アリなんじゃないか…!?」


「―――――――っなっ、ゴホッ、ゲホッ!」


あまりのシャーロットの提案にラクトは思わずむせ返ってしまう。


しかし、『魔人』は力を失ったように、静かにゆっくり頷いた。


「――――………そうかも、しれないね。」




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