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儀式の秘密-1-





(殺…される?村人に…?)


ラクトは唾をゴクンと飲み込んで否定する。


「何を言ってるんだよ…、そんなこと、あるわけないじゃないか…!皆、こんな儀式間違ってるって思ってる、『勇者』の家族はずっとその人の帰りを…ううん、生きてくれてればいいって…だから、あるわけない!なんでそんなこと言うのさ!」


『魔人』の言葉にふつふつと怒りが沸き上がってくる。ラクトは顔を赤くしながら、握りしめた拳を空中で横に勢いよく振った。息を荒げて、肩が上下に揺れている。


「…『勇者』だけじゃないわ。その家族も対象になるの。まるで神隠しにあったように、一晩のうちに一家が消える。…ほら、そんなことができるのは、頑丈な塀に囲まれた中にいる村人だけよ?」


『魔人』の瞳は静かにラクトを映していた。淡々と話す口調はやけに落ち着いている。



「………そんなこと――――…。」


ラクトは訳がわからなくなりすぎて、頭が真っ白になってしまった。真実を求めてやってきたが、誰がこんな真実を受け入れられるだろうか。





「………だったら怖いよね?村に帰れないよね?自分だけじゃなく、愛する家族まで殺されちゃうんだもの。そんなこと聞いたら帰れなくなるに決まってるわ。」



「…………――――――へ?」


先ほどとは裏腹に、『魔人』は呆れた顔をしながら話し出した。その態度の変化にラクトはついていけない。


「なんだ、嘘なのか?」


ずっと黙って聞いていたシャーロットが横から口を挟んできた。


「嘘…本当に…?」


ラクトは恐る恐る『魔人』に問いかけた。すると女の子はニコッと微笑みを返して言った。


「嘘っていうより、これは村長が言っているだけよ。実際帰ろうとした『勇者』はいたけど、途中魔物に食べられちゃったりして、村までたどり着けた人がいないから、本当に殺しちゃうかは知らないわ。」


「は―――――…はは…?」


良いような、悪いような微妙な答えにどう反応していいかわからないラクトだったが、実際村人に殺された人はいない、ということだけは素直に喜ぶことにした。それにしても。


「それにしてもとんでもない村長だな。そこまで根性曲がってたとは思わなかったよ。あー、胸くそ悪くて腹が立つ!」


シャーロットは『魔人』の話を聞いて顔を思いっきりしかめて、頭をボリボリ掻いた。


「あ、ごめんなさい。アルルじゃないわ。私が最初に会った村長だから…五代くらい前の村長の言葉なの。」


「は?何だよ、じゃあ今でも居もしない村長の言葉で脅してるってことか?それじゃ趣味悪いのはあんたかよ。」


「あなたは口が悪いわよ?年上なんですからね、私。…でも、そうねぇ。こんなこと続けてるんだもの、言われてもしょうがないわね。」



少し顔を伏せて女の子は笑った。その目はどこか遠くを見ているようだった。



「…あの、話の腰を折るようなんですが――――――、水晶に入ったのが…『勇者』たちの意思だったとして…、そのあとは?まさかずっとそのままってことは…ない、ですよね?」


話が少しずれてしまって、聞くタイミングを逃していたが、ようやくラクトは『魔人』に切り出した。


(…今、何らかの理由でアイジおじさんが自ら望んで水晶に入っているのなら、一体いつまで…?ううん、それより会えるんだとしたら、叔母さんや皆のこと、あとこの儀式のこととか…色々話したい…。)



「…期限はないわ。言ったでしょう?この人たちが望むだけ、ここにいてもらってるの。」


「えと…、じゃあ望み続けた人は…どうなるの?」



ラクトの問いに『魔人』は深い息を一つ吐き、真っ直ぐラクトを見つめて言った。


「いくら水晶の中にいて、望む幸せを得られたとしても、時の流れには逆らえない。…そのときは、私が大地に還すわ。」


「――――――!そんなっ…!じゃ、じゃあおじさんが水晶の中にいることを望まなければいいんだよね!?お願いします、おじさんと話をさせてください!お願いします!」


勢いよくラクトは『魔人』に向かって頭を深く下げた。カタカタと震える体を見ながら、『魔人』はゆっくりと答えた。


「…魔力を使って水晶に入ってもらっているけど、中に入ってしまうとその人が望まない限り出て来られないの。私の魔力ではあるのだけれど…本来こんなことに使えるものじゃないから、…ごめんなさい。」


「――――……そんなっ…、嘘でしょ?無理なわけないよね?また…それも村長が言ったことなんだよね?」


「…ごめんなさい。」



その言葉を聞いて、『魔人』の顔を見て、これは嘘ではないと感じた瞬間、ラクトの身体中から力が抜けていった。ガクンッと膝から崩れて、その場にへたりこんでしまった。



「そんな…だってせっかく会えるんだと思ったのに…、生きているってわかったのに…――――――これじゃ、本当に生きているって言えないよ……!叔母さんたちが…あんなに…!」


ラクトの目からぼろぼろと大粒の涙が溢れだし、顔を伝って下に落ちた。手を地面について、土を引っ掻くように握りしめた。


そんな様子をシャーロットは黙って見つめるしかなかった。



「…優しいね、ラクトは。――――アイジと一緒だ。」



その名前に反応して、ラクトはゆっくり顔を上げた。視線の先の『魔人』は、遠くを見つめるように上を向いて喋りだした。



「五年前、なんでアイジが『勇者』に選ばれたか知ってる?彼には奥さんも子供もいて、仕事も真面目にこなして、何より皆に好かれていたわ。いつもなら、そんな人を選ばないでしょうね。」


「…………確かにそれは疑問だった。でも、結局選ばれて村を出ることになった…。」


「そう、彼はやってしまったのよ。選ばれる理由になるようなことを…。正義感も強かったし、何より優しいから、だからこそなんだけど。」


「…それって…どういう…?」


「調べてしまったんじゃないのか?…村の、この儀式の秘密を。」


黙っていたシャーロットが唐突に喋りだし、ラクトは驚いたように振り返って彼女を見た。『魔人』はコクンと頷き、目を閉じて話を進める。


「そう、アイジは五年前の『勇者』が選ばれる前に、最終候補に彼の親友があがっていることを知って、村長に抗議しに行ったの。そこで散々この儀式がおかしいと、正直に申し立てた。…でも村長は必要な儀式だ、って言って結局取り合ってくれなかったの。ここまではまだ良かったのよ。」


「ここまでは…?」


「…………アイジはね、そのあと納得ができなくて、村長の家に無断で忍び込んだの。そこで――――私との会話を聞いてしまった。」


「なるほど、そこで村長と、鎮めるべき『魔人』がグルだったって知ったんだな。」


アイジがそんなことをしていたなんて知らなかったラクトは、改めて彼の正義感の強さを思い出していた。


「そう。知られてしまった以上、いつ秘密を話してしまうかわからないでしょう?だから、さっきみたいに脅迫して、無理矢理『勇者』として村から追い出したの。」


「……――――そんな、それだけで?」


ラクトは目に力を入れて『魔人』を睨んだ。すると、『魔人』もラクトに向けて強い視線を返してきた。


「私たちには、そんなこと、じゃ済まされないのよ。」




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