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真実-1-






暗闇に馴れた目が光に対応するまで少し時間がかかった。


「―――――……っ。」


そして、二人の目に飛び込んできた光景は驚くべきものだった。






二人がたどり着いた場所はトンネルを抜けた先の広く掘られた空間だった。高さは三メートルほどあり、天井からうっすらと太陽の光が降り注いでいる。この空間の中心の天井には直径一メートルにも充たない小さい穴があり、そこから光の柱がラクトたちの立つ地面を照らしていた。しかし、それ以上に眩い光があった。



それは淡く緑色に輝いている。


「…すごい―――――…。」


ラクトは思わず息をのんだ。



目に映ったのは、この広場のように拓けた空間のそこらじゅうにある、大きく立派な水晶の結晶の塊だった。それらはまるで呼応するように光輝き、なんとも言えない美しい光景を作り出していた。


「…この光って、さっき光ったペンダントと同じですね。じゃあこれも魔力…。」


「そうだな、確かにこれは魔力だ。が、水晶自体はだだの水晶で、『魔人』が魔力を送ってる、ってとこだろう。だけどこの数はすごいな…。」


水晶の数もそうだが、そのすべてに魔力が灯っていることにさすがのシャーロットも驚いた様子だった。


「そういえば『魔人』は魔物以上に魔力を持っている場合があるってどっかの文献に書いてあったな…。」


思い出したようにシャーロットが呟いたときだった。







「綺麗でしょう?」


「!?」



二人がいる入り口の反対側、拓けた空間の奥から聞き慣れない声が聞こえきた。コツコツと足音が鳴り響き、ラクトたちの間に緊張が走る。


よく見ると奥には少し段差があり、一枚の細長い敷物が敷かれていて、更に奥には岩をくりぬいて作った棚のようなところに、丸い水晶がいくつも飾られている。そしてその横に脇道があるらしく、そこから足音が聞こえていたため、まだ『魔人』の姿は見えていない。




―――――そしてついに、『魔人』が姿を現した。




「ほとんど自然にできた水晶なの。すごいでしょう?」


「――――…………え?」



その姿を見て、ラクトは思わず声をあげた。


違和感はあった。最初の声が、想像していたより柔らかで、高くて。



「………………女の子?」


そう、ラクトたちの前に現れた『魔人』の正体は女の子だった。それも十代半ば、いや、前半と言った方が近い。


淡く照らし出される銀色の短い髪が、顔の横で二つの筒状の髪飾りで束ねてあり、額には小さな水晶の飾りをしている。白いローブに白いスカート、黄土色の靴を履いていて、身長はラクトより少し小さいぐらいだった。その手には、手のひらほどの丸い水晶がある。


女の子は二人の前に少しずつ近づき、一定の距離を保ち小さく微笑んだ。



「初めまして、今年の『勇者』様。…女剣士さんも。いらっしゃい。」



ドッキュ―――――ッン。



「………。」


シャーロットは隣から変な音が聞こえた気がして、横目でラクトを見た。ラクト本人はというと、目を大きく見開き、顔全体を真っ赤に染めた状態で固まっていた。


(――――――…か、…かかかか…可愛い!)


どうやら一目惚れのようで。ラクトも何だかんだ思春期の男の子だった。


はぁー、とため息をついたシャーロットが、ようやく口を開いた。


「ずいぶん可愛いらしいな。あんたがラクトの村に災厄をもたらす『魔人』なんだな?」


シャーロットの言葉に驚き、ラクトはバッとシャーロットと女の子を交互に見た。


「――――っ!『魔人』…!?この子…が?」


信じられないという顔で見つめるラクトと強い視線を向けるシャーロット。そんな二人の反応を見て、クスクス笑ったあと、女の子は正面を向けてこう言った。


「…そうだよ、私が『魔人』。正真正銘の、ね?」


すると直後、女の子の手の上の水晶が淡い緑色に輝きだした。それはこの空間、そしてラクトのペンダントの光とまったく一緒の輝きだった。



「―――――…本当に、君が『魔人』…なんだ。」


見開いた目で女の子を見つめるラクトの顔は、どうしたらいいかわからないとでもいうように、口をパクパク動かしている。


「驚いた?ふふ、皆最初はそんな顔するんだよ。大きな化け物を想像してたんでしょう?ごめんね、期待を裏切って。」


女の子は首を傾けながらラクトに語りかけた。そんな彼女に反応したのはシャーロットだった。


「皆…は、歴代の『勇者』のことか?それとも村長たち、お偉いさんのことか?」


ピクッと反応したものの、女の子はシャーロットの方を向いて、ゆっくりとした口調で話し始めた。


「もちろん、『勇者』たちのことだよ。疑ってるんだね?村長たちのこと…。」


「ああ、そりゃそうだろ。あれだけ厳重に村人を管理して、自分はあんな豪邸に住んで…『魔人』のあんたとグルでどんだけ儲かっているんだろうな?」


「―――――!?グル?シャーロットさん…それってどういう…!」


更に困惑するラクトを見て、シャーロットはため息混じりに言った。


「やっぱり気づいてなかったんだな。村長のところに行ってお前に同行する許可をもらうとき、光ってたんだよ。村長の耳飾りが、この光と同じ色で。」


「っそ…そうだったんですか!?」


「あんた、『魔人』の魔力は"念を送る"タイプ、それもこの水晶を通して他の水晶の周辺の声や映像を遠見できる能力、ってとこか?」


「わぁ、さすがに村の外から来た旅人は違うね。だいたい合ってるよ。ふふ、久しぶりに驚いちゃった。」


クスクス笑いながら、女の子はシャーロットに向かって微笑んだ。シャーロットはフン、と鼻をならして不機嫌そうだ。


「"念を送る"?え…遠見?」


ラクトだけはまだ理解ができていない様子で、一人おろおろしている。しかし、このままだと二人はそのまま話を進めてしまいそうだったので、思いきって聞いてみた。


「あの…"念を送る"タイプの『魔力』って、どういうことですか?あと、遠見って…?」


「ん?ああ、そうか。わからなかったっけ、お前は。」


クルッとラクトの方に振り返り、今思い出したように振る舞うシャーロットにラクトは若干不安を覚えた。


(ひ、ひどい。けど、なんかわざとらしい…俺が自分で聞きに来るの待ってた?シャーロットさんって…。)


「"念を送る"タイプの魔力は、特定の媒体を通して自分の考えを遠い場所に伝えることができるんだ。その媒体や特性も様々だが、こいつはラクトが来ることも、私が来ることも知っていた。私が女剣士であることまで。」


「あ――――――…そうか。」


「そう、私が剣士であることを事前に知っていたということは、何らかの形で村と情報を共有しているということだ。しかも、この空間の水晶すべてに灯せるだけの魔力をもっている。実際に存在した『魔人』の力を恐れている、というより、手を組んでこんな訳のわからない儀式をしていると考えた方が妥当だと思うんだが?」


確かに『魔人』の女の子は疑うこともなく、待っていたかのように二人の前に現れた。深い森、更に滝の裏側にあるこんな場所で、どうやって知ることができただろう。


村長と話していたときに魔力の光が見えた、ということはあのとき村長と『魔人』は水晶の耳飾りを通して、ラクトとシャーロットの話をやり取りしていたということになる。



「…じゃあやっぱり…村長と君は――――――…。」




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