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3日目

 朝。ねぐらに巣を張っていたクモを朝食代わりに数匹食べてみた私に衝撃が走った。


「……旨ッ!?」


 見た目に反して、今まで喰った食べ物より旨かったのだ。それに、体力の上がりも良い。


「コレは、虫を喰えとの神の啓示か何かか?」


 虫は小さな体のわりに力が強い。ということは、虫を腹一杯食べると普通より多い数の生き物を食べたことになり、更に一匹ごとの性能が高いので力の獲得が早まるのだ。


 生まれてから今日で3日。防御はある程度まで上昇し、攻撃力の伸び悩んでいた私にとって、虫はこれ以上無く相性の良い食材であるらしい。


そうと決まれば今日は虫探しである。


----


 今は春。虫達は既にあちこちに蠢いている。目的地に移動する途中でも茂みにはクモが巣を張り、地をアリが這い、蜂がブンブンと花を廻る。


 その中から少しずつ摘み食いしながら私はドングリの木が多く生える場所にやってきていた。私の頭脳に詰められていた情報には自分の情報の他に、多種多様な生物の大まかな生態が記憶されている。


 その情報から虫を幾つか選びその生息地を探した結果、大抵のモノがドングリの木にいることが判明した。


 現在の時刻は未だ肌寒い日の出直後。虫採りに勤しむ姿を人に見られることはないと思っていたのだが……。



「お兄ちゃんもカブト虫を採りに来たの?」

「まぁ、ね……」


 運悪く目的を同じくした人間の子供に見つかってしまった。幸いにも、腰布を着ていた為不審がられる事もなく、私はゴブリンから腰布を奪っておいてくれてありがとう、と過去の自分に感謝したのだった。


「じゃあ、メイと一緒に行こうよ!」

「別に構わないけど……」


 人間は非力であり、余り喰っても得がない。余程の戦士か知恵を蓄えた老人は例外だが、このメイという幼女がそれだとは思えない。


 故に食べるつもりは毛頭無いのだが、カブト虫を食べる為に探しているとバレたら流石に怪しまれるだろう。それはマズい。どうしたものか……。


「お兄ちゃん、変な顔だよー?」

「ん、あぁ、ちょっと考え事がね。まぁいいや。カブト虫を探しているんだっけ?」

「うん! 他にもねー、カナブンとかカミキリ虫も!」

「なる程ね。じゃあ一緒に探そうか」

「うん!」


 下手に断るよりはこの子供の虫かごに虫を何匹か捕まえて、その後別れた方がすんなり行きそうだ。


「お兄ちゃん、この木にいるよ、ほら」


 そう言ってメイが指さす先にはカナブンが群がっている。


「あぁ、いるね。いるけれども、位置が高い。どうやって採るんだ」

「お兄ちゃんが、メイを肩車してくれたら届くよ」


 メイはそう言うが可能なのかは微妙な位置だ。一応、根拠を訊いておく。


「肩車で絶対届くのかい? 正直に言ってかなり高いぞ」

「虫採り網があるから大丈夫!」


 そう言ってメイが掲げたのは長い棒の先に輪をはめ込み、網でできた袋を付けたもの。


 人間は弱いが故に道具作りに長けるとはしっていたが、たかが虫採りの為だけの道具があるとは……。


「人間は案外暇なんだな……」


 メイを担ぎ上げながら私がそう言うと、彼女は少し考えて答えた。


「村の皆は種まきで忙しいよ?」

「そうなのか……。その網は誰が作ったんだ?」

「村長さん。若くて格好いいってお隣のお姉ちゃんが言ってた」

「ふーん」


 「でも、メイはお兄ちゃんの方が格好いいと思うよ」

「ブフォッ!?」


 何を言うんだこの子は。


「変なことを言わないでくれ、私は魔物だ。格好いい訳がないだろう」

「お兄ちゃん魔物なの?」

「あぁ」


 やはり気付いていなかったのか。


 まぁ、これでこの子が逃げ出せば私は心おきなく虫が食べられる。


「お兄ちゃんが魔物……」

「逃げないのか?」


 普通は逃げるだろう。人間の常識を知らないから余り自信はないが、魔族と会ったら逃げるのが普通ではないだろうか。


「えっとね、村長さんがね。喋る魔物がいたら会いたいって言ってたの」

「今日は用事があるから無理だぞ」


 取り敢えずメイを下ろし、村に行くのを断る。


 私はカブト虫と雀蜂と蛭を食べまくるという大事な用が有るのだ。


「……だがまぁ、明日の昼からは暇だな」

「じゃあ、明日のお昼に迎えに来るね!」

「……此処にいればいいのか?」

「うん! ……あ!」

「どうした?」


 何かあったのだろうか?


「カナブン逃げちゃった……」

「あー……」


 あれだけ騒いだら逃げるよな。


「うぅ……メイ帰るね」

「あぁ、ゴブリンに喰われるなよ」

「えへへ、お兄ちゃんに心配してもらった」

「……とっとと帰れ」


 そんな風に突き放すような事を言って、少女の背を押す。



 その行動とは裏腹に、私はその奇妙な少女が森を抜けるまで、その背中を見つめていたのだった。


----


 謎の少女と約束を交わした後は日が暮れるまで、カブト虫と雀蜂と蛭を数え切れない程喰って寝た。


 人間と会ってみるのも面白いな、等と考える私は魔物としてどうなのだろうか……。


 考え事はまた増えて、森の夜はふけていった。

現在の捕食数。


石 80kg

ゴブリン 1匹

針葉樹 100kg

虫各種 3kg


取得能力


岩の皮膚

皮膚が強靭になる。流石に大剣などの重量武器は防げない。



光合成・微弱

微かに光を取り込んで空腹を紛らわせられる。正直、焼石に水。


真・吸血

蜘蛛、蛭、蚊、虻などの吸血昆虫をそれぞれ一万匹食べた証。相手に触れるだけで血を奪える。奪った血は食べた扱いになるので自己強化に嬉しいスキル。


虫の怪力

虫類捕食数、百万突破の証。虫並の筋肉と言えば弱そうだが、体重の10倍程度のモノなら殴り飛ばせる程の力。


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