その令嬢、????につき
〜前回のあらすじ〜
我が主・フェリシア様は最強の聖女である。
前回は東方からやって来た娘の竜を従魔にし、ドラゴンである我、不死鳥のぴよに、神竜・りゅーが加わったのだったな。
だが我が主は普段から多忙のようだ。
今回はそんな主の日常だが、フェリシア様の出自に関する話も出てくるぞ。 …我の出番は一切無いがな!
おのれ作者め、覚えてろよ! 〜byどら〜
―――ここは王宮より少し離れた王立学園。
今日も貴族の子女を中心に、学園に通う方々の姿が見受けられます。
◇ ◇ ◇
オーッホッホ! ワタクシは公爵家が長女、ミセリア・インフォルトゥーニウムですわ!
「「ミセリア様、ごきげんよう♪」」
お友達の伯爵令嬢・ローサ様と、侯爵令嬢・ビオラ様もご一緒に、今日も王立学園へと通う日々。
優雅なワタクシ達の姿に、同級生達も下級生達も、羨望の眼差しを向けています。
金色の巻き毛に碧い瞳、今日も完っ璧な美しさのワタクシ♡ フフ、皆様から注がれる視線が痛いくらいで…
「そうそう、そういえば今日、聖女フェリシア様の御講義があるのですよね!」
ピクッ。
ローサ様の話にビオラ様も、
「そうですわね! レベル9999の、今世紀最高の聖女様! お美しい上にお強い、まさに完っ璧な…」
ピキッ!
思わずワタクシ、持っていた扇子に力が入ってしまいましたわ。
「「ヒッ!!!」」
あぁ、いけません。お二人を脅かしてしまいましたわ…
―――聖女フェリシア。
世界最高とも謳われる、誰もが認める完璧な聖女。ですが―――
「オホホ…、そうですわね。あれで『平民』の出自でなければ、唯一無二の完璧聖女であらせられるのにね」
ワタクシが言うと、お二人はご存知なかったようで、
「え?」
「そ、そうなのですか?」
驚いてらっしゃいます。
そう、彼女は確か『平民』の出自のはず。だって神殿にお入りになった折、グレゴリー司教様が親代わりとなられてるんですもの。
―――そ れ な の に!
…はっ! いけないわ、ミセリア。平静を装わねば!
「ま、まぁ、あの9999という途方もないレベルであれば、平民と言えどレオノール王太子の婚約者として相応しくもなくもなくもなくもないのでしょうね。…本来であれば公爵令嬢のワタクシが、あの方の婚約者であったはずなのに…」
ピキピキッ!
…ああ、いけない。せっかくの新しい扇子が。
でもでも! そう! 本来ならば! ワタクシが! 王太子妃であったはず! なのに! キーッ!!!
ビキビキビキ… ボキッ!
「ああっ! ミセリア様! 扇子が…」
「あああ、確か先月おろし立てのお気に入りの扇子では…」
お二人がそう仰る中、ワタクシも、はた、と気づき、いつの間にかひしゃげてしまった扇子に意気消沈していると、学園の校舎に沿って足音が…
ツカツカツカ…
「―――あ! フェリシア様ですわ!」
くっ、フェリシア様… 気づいたローサ様に続き、ビオラ様も、
「フェリシア様、ごきげんよう!」
お二人がそうフェリシア様にご挨拶されると、たくさんの書類を抱えたフェリシア様も、
「おはようございます、ローサ様、ビオラ様… それからミセリア様。本日は回復術についての講義を行います。よろしくお願いします」
キビキビとまぁ… でも一応、ワタクシもご挨拶しておきましょうか。
「ええ、フェリシア様。本日はよろしくお願い致しますわ。それにしても…」
「?」
えぇそうよ! ワタクシも公爵令嬢として、やはり一言言わせて頂きたいですわ!
「ホホ… 本当にフェリシア様は勤勉ですこと。だからレベルもあのような、あり得ない数値になるのですわね。さすが平民出身の方は齷齪と、まるで働きアリのようですわ!」
オホホホ… と笑ってやりましたわ! ワタクシからレオノール様の婚約者の座を奪ったのですもの! これくらいの嫌味は受けて頂きますわよ! フンッ!
…ですが。
「? 平民? 誰がですか?」
へ?
「私、出家前の姓は『オーシェル』です。父は国境を守るお役目の辺境伯です」
「「「え!?」」」
『オーシェル』ですって!? ま、待って! オーシェル辺境伯って言ったら…
「で、ですよね! ああ、ビックリした!」
え!? ローサ様!?
「私も以前聞いたことがありますわ! あの『血塗れ将軍』として名高い屈強の騎士・オーシェル辺境伯と、元聖女・シスリーヴィ様との間にお生まれになったのがフェリシア様ですわよね!」
えぇ!? ビオラ様も!? な、何でお二人とも、そのようなことご存知なの!?
ま、まさか、ワタクシだけ知らなかったの!?
「…まぁ、平民だの貴族だのはどうでもいいですが、私の仕事量が多いのは認めます。魔王の件が片付いたとはいえ、今年は雨が続き不作の土地も多く、その他王国に関する問題が山積みですからね。おまけに魔王討伐以前に魔物の襲撃を受け、未だ治療を必要とする民もいらっしゃいます。大きな怪我の方は全て私が回復させて頂きましたが、後遺症などの心配もありますし、あなた方もいざという時の応急処置や回復術についてしっかり勉強し、高貴なる者の義務の矜持を持って民を救うべく…」
ぐ、ぐぬぬ…
ワタクシの気持ちも知らず、クドクドと… 民がどーのこーのと細かいこと、そんなのどーでも良いんですのよ!
…って、そんなフェリシア様のお小言の途中で、向こうからどなたか走っておいでですわ。
「「「?」」」
ドドド… という足音と共に、
「―――ぅぇ! 姉上ー! お久しぶりです!」
姉? 上? どなたかの弟君かしら? …って、え!?
キャー! メチャクチャカッコイイじゃありませんの! はっきり言ってレオノール様よりも顔面クオリティ高いですわ!
…って、え? フェリシア様? が?
「グリュック、久しぶりですね。学園に来るとは珍しいです」
フェ、フェリシア様がお声がけなさるとは… と、いうことは、まさか…!!
「ええ、いよいよ来月から本格的に一般稼働する魔導列車の最終試運転も兼ねてこちらに来たので、開発に携わったシラー教授にご挨拶を、と思いまして。姉上は?」
「私はこれからこちらの学生方へ、回復術の講義ですよ」
フェリシア様はそう言うと私達に向かい、
「皆さん。この子は私の弟でグリュックといいます。次期辺境伯ですが、オーシェル領や他の主要な領地と王都を結ぶ魔導列車の開発や、領内の土壌改革など様々な仕事に取り組んでいます」
「本当は父上のように、もっと武術の鍛錬をするべきか考えたんだけどね。この国には魔王を退けるような強者の勇者達もいるし、軍拡よりも経済や産業、社会インフラの発展に尽力を注いだ方が良いと父上達も言ってるから」
………。
どじょうかいかく? しゃかいいんふら?
ワタクシがお二人の言っている言葉の意味が分からず呆気にとられていると、ローサ様とビオラ様が、
「まあ! ステキですわ!」
「平和な世の中になった証拠ですわね!」
そう言いながら皆で笑い合っています。
……………。
キ―――ッ!!!!! 何でワタクシだけカヤの外なんですの!?
で、でも、そーですわ! コレだけの優良物件であれば、ワタクシのおムコさん候補にしてあげなくもなくもなくもないですわ! となれば、最高のご挨拶をしなければ… コホン。
「…ホ、ホホホ、はじめましてグリュック様。ワタクシ公爵家が娘、ミセリア・インフォルトゥーニウムと申します」
フフン。完っ璧なカーテシー… 素晴らしい挨拶でしょう?
「ん? …あ、はい。僕はグリュック・オーシェルです。君も姉上の講義を?」
「え? ええ…」
あら? おかしいわね。美しいワタクシの完っ璧な挨拶に、こんな塩対応…
「ウチの姉上はスゴイでしょ! 元々勤勉な上にとんでもないレベルになるまで努力を積み上げたり、聖職に留まらず知識の幅を拡げたり… 僕もそんな姉上を見習って領地の土壌改革をしてみてるんだけどね」
ん?
「グリュックは元々土属性魔法の適正がありましたからね」
んん?
「土魔法は良いよ! おかげでオーシェル領は雨が多かった今年でも水分と土の割合を魔法で…」
………な、何なんですの!? 全っ然貴族がするような会話じゃごさいませんわ!
はっ! そーですわミセリア! 直接お訊きすれば良いのよ!
「あ、あの!」
「「?」」
「グリュック様は将来、決まった御方がいらっしゃるのですか?」
「………決まった御方?」
な、何でグリュック様もフェリシア様も、キョトンとしてらっしゃるのかしら? んもぅ!
「婚約者ですわ! フェリシア様がレオノール様の婚約者であらせられるように、グリュック様にもいらっしゃるのでしょう? 貴族なんですもの! お相手によっては、格式高い公爵令嬢のワタクシが、代わってあげなくもなくもなくもないですわよ!」
さあ! ワタクシにココまで言わせてるんですもの! さっさと受け入れて下さいませ!
「…君、僕のお嫁さんになりたいの?」
! グリュック様! …ホホホ、やはり食いつきましたわね♡
「グリュック様がお望みなら、なって差し上げてもよろしくってよ!」
すると、え、とローサ様とビオラ様が驚かれ、
「ミ、ミセリア様? ミセリア様は確か…」
「フォンテーヌ伯爵の令息・キール様とご婚約を…」
な! 余計な情報を… そ、そんなの、どーとでもなりますわ! あんな平々凡々な男より、コチラの方が… お父様に言えば婚約破棄などチョチョイのチョイですわ!
「ふーん… 君、土いじりは好き?」
へ?
「今のオーシェル家に嫁いでくれるなら、土を耕し作物を育てる気概のある女じゃないとね。あ、出来れば僕と同じ土属性だと嬉しいな」
んな! 何ですって!? 仮にも公爵家の令嬢に、農奴の真似事をしろと!? …ま、まぁ、そんなの婚姻さえ結んでしまえばどーとでも…!
「で、ですけど! ワタクシ、一応聖属性ですわ! 聖女になれるほどの魔力は要してませんけども、じゅうぶんな魔力を受け継ぐ跡継ぎを産めますわよ! それこそフェリシア様以上の…」
ピクッ。
「姉上以上… の?」
ん? な、何ですの? グリュック様の雰囲気が…
「…君、僕の姉上以上の存在なんて、あると思ってる? 姉上のレベルは9999だよ? 人類最強だよ? それだけじゃないよ? 知識、品格、魔力、神聖力、統率力、その他諸々、どれを取っても人として最高なんだけど? 本当はね、レオノール程度の伴侶になんて勿体ないくらいなんだよ? でも一応王族だし勇者だし、おまけにこの国の最高権力だから妥協してるんだよ? そんな姉上を越えるって? ホントに分かって言ってるの?」
ヒッ! ま、まま、待って待って! 怖! 怖いですわグリュック様! ど、どーゆーこと!?
「おーい、グリュック… 相変わらずヒドイなぁ」
あ! こんなところにレオノール様が!
思わず皆で王太子殿下にご挨拶ですわ。良かった… コワかった… 何なんですの、グリュック様ってば…
そんな不穏な空気を余所に、レオノール様がにこやかに、
「本当に君はフェリシアが好きだなぁ。シスコンも過ぎると、君に嫁いでくれる女がいなくなっちゃうよ?」
んな! シ、シスコン???
「やだなぁ。僕の姉上に対する気持ちは、シスコンなんて言葉じゃ収まらないよ? 僕は姉上を崇拝しているんだからね。それよりレオノール… 様。魔導列車は見てきたかい?」
い、今、グリュック様ってば、レオノール『様』を呼び捨てようとされてませんでした?
「グリュック、レオノール様は仮にも王族です。もう少し敬意を持って接して下さい」
「はい! 姉上!」
「まぁまぁ、私達は昔からの幼馴染みなんだから良いじゃないか。そもそも私にこんな風に気安く話しかけてくれるのはグリュックくらいだしね。…それより魔導列車! 見てきたよ! さらにフォルムが洗練されてカッコよくなってないか!? あぁ、早く乗ってみたいなぁ」
「! でしょう! アレね、乗り心地にも工夫を凝らして…」
……………。
何でしょう。二人の世界に入ってしまわれましたわ。魔導列車魔導列車って、何なんですの、このお二人。
…なんて呆気に取られていたらフェリシア様が、
「はっ! いけない、急がないと講義に間に合いません! それでは皆さん、後で授業でお会いしましょう! グリュックもレオノール様も、教授の所へ行くのでしたらご一緒しましょう」
やはりキビキビと… さすがというか何というか…
「あ、ああ! グリュック、行こう!」
「はい! 姉上、待ってー!」
……………。
御三人共、嵐のように去っていきましたわ。
「ミセリア様、私達も急ぎましょう」
「そうですわ! ミセリア様、確か今日の日直ですわよ!」
そ、そうでしたわ! 急がなければ…
それにしても、扇子は壊れるわ時間ギリギリになるわ…
キ―――ッ! 全くもってムダな時間でしたわ!
◇ ◇ ◇
「あ! そーいえば姉上!」
?
「来月稼働する魔導列車に乗って、母上が姉上の様子を見に王都に行くと言っておられましたよ」
ヒェッ!?
「は………、母上、が?」
「? どうしたフェリシア、顔色が… シスリーヴィ様がどうかしたのか?」
「……………」
―――このひと月後、フェリシアとその母・元大聖女シスリーヴィとの間で一悶着あるのだが、それはまた別の話―――
今回の『????』は、『散々』とか『踏んだり蹴ったり』とか… あんま同情できないけど(笑)
次回、フェリシアママ回の予定。いつになるかは未定。




