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かずまくんたちの朝



 携帯の着信音で、目え覚めた。



「ん……?」



 ベッドに寝転がったまま枕元に置いていたそれに手を伸ばすも、触れた瞬間電子音が途切れたので、そこで初めてメールだと気付く。


 体を起こして、携帯電話のディスプレイをのぞき込んだ。

 7時13分……。カーテンがまばゆく照らされている。

 もう、朝か。



「おい、一馬?」



 腹をぼりぼりとかきむしりながら、二段ベッドの上に目を向ける。いつもながら寝相悪く転がっている一馬。普通に起こしても起きないから、今日も今日とて朝から一苦労だ。



「ふああ」



 俺もまだねみいんだっつの……。本当だったら登校までかなりの余裕があるが、俺たちは早く行かなくてはいけない理由がある。

 理由っつーか、あれだ。近隣の女子校生と登校時間が被ってしまうと、かなり面倒なことになってしまう。この高校に入学してから一年と半年経ったが、そうなると未だにどうすることもできない。


 欠伸を噛み殺しながら、一馬の体を揺する。うなり声がするだけで、起きる気配は皆無。強めに叩く。無言。



「おい、一馬起きろ。早く起こせっつったのおまえだろ」



 しかし不思議なことに、いつも女子に絡まれんの俺だけなんだよな……。だから別に一馬は普通通りに登校しても構わないんだが、小さい頃からの習慣か登下校は一緒だ。それに一馬はどっちかっつーと学校に着いてからが面倒だから、それに備えるために俺がいた方がいい。



「……みつか?」

「一馬。やっと起きたか……ってあーあーあー、そのまま寝んな! 目、開けろ」

「うー、やだ」

「ぐずるな。ほら早く顔洗ってこい。つーかいったんこっち向け!」



 それにしても、一馬の寝起きの悪さは異常だ。一度寝たら簡単には起きないし、起きてもぐずぐずして動かないし。早寝してるくせになんて都合の悪い。

 最終的に無理矢理担ぎ上げてベッドから下ろした。まるで介護してるみたいに一馬を支え顔を洗ってやったところで、ようやく意識がはっきりしてきた。



「あ、ミツカおはよう」

「ああ、おはような。やっと起きてくれて何よりだ」



 朝っぱらからなんで俺だけぐったり。しかしまあ、俺のこの疲労も無駄じゃないようで、今から普通に準備しても早い時間にここを出られる。

 ……学校の寮とはいえ、校舎のすぐ横に建ってないのが問題だよな。


 俺も一馬に続いて顔を洗う。洗面台は広いとは言えないが、もっと文句を言うなら俺はユニットバスにしたい。このすぐ隣の扉に広がる空間なわけだが、トイレと風呂が一緒だなんて一体どこのビジネスホテルだよ。

 ちなみに、部屋の方も二段ベッドと勉強机二つ入れたら、あとはちょこんとちゃぶ台の前に座るスペースしかない狭さ。


 顔を拭きつつ戻ると、一馬が俺のベッドから何かを取り上げた。



「ミツカ。携帯、光ってたよ」

「あ? あー、そういやさっきメール来てたっけ」

「ん」

「サンキュ」



 手を伸ばす一馬から携帯を受け取りディスプレイを見る。……と、画面を通り過ぎた向こうの一馬と目が合う。



「どうした」

「……や、おれもミツカくらいでっかくなりてえなーって」

「何いきなり、諦めたんじゃなかったか?」

「分かんないけど。最近よく思うんだよなー、だってちっちゃいのおればっかりだし……」



 台詞回しが変だ。おればかり、ってなんだか俺以外にも比較対象がいるかのような言い方。

 ひとまず「ふうん」と聞き流しつつ、メールを見る。読み進めて行く内に、知らず知らず眉間にしわが寄っていく。



「なんか変なメール? 誰?」

「いや、送り主というより……」



 ほら、と見せる。



「あ、拓磨じゃん。あいつが珍しいね」

「それより読んでみろよ」

「えー? なになに……『昨日変な男に絡まれた』」



 ……無言。お互いそのままの状態で無言。

 しばらく経ってから、戸惑った一馬の視線を受け取る。



「ま、ますます珍しい。拓磨、絡まれるのはともかくもそういうの、ミツカに言うタイプじゃないじゃん」

「あいつ、勉強以外にはトコトン無頓着だからな」

「前にストーカーされてたときだって、おれたちが知らない間に自分一人で警察に付きだしたくらいだし」

「……だよな」



 読めなさすぎる。画面をスクロールしてみるも、それ以上のことは一切書かれていなかった。


 拓磨。

 俺の一つ下の弟。感情表現に乏しく、常に勉強をしているようなヤツ。本当に俺の弟かと言いたくなるくらい根暗だが、一馬に言わせてみれば顔はそっくりらしい。俺もメガネをすればああなるってことか? なんか嫌だ。



「でもそれってつまり、ミツカに助けを求めてるんじゃねえ? 普段言わない分、すごい困ったことになってるとか」

「文面からは微塵も感じ取れないけどな。まあ、一応電話してみるか」



 しかし通じないのが、俺の弟。なんだかんだのらくらとやりすごしてそうだから、心配するのはヤメにした。とりあえず、大丈夫か、とだけ返信しておく。

 変な男ってなあ。大雑把すぎ。意味不明すぎ。


 着替えを済ませて朝食に向かうときに、話題はあの男に移行してた。



「一瞬、そーじのことかと思った」

「言えてる。最近の変な男ランクぶっちぎり一番上だしな。ま、さすがに他校にまで男目当てで行ったりしないだろ」

「だなー」



 俺ら、簡単に笑い話にしてるけど、実際笑えるとこなのかどうなのか。

 田中宗二、少し前に転校してきたおかしな男。アイツ、自分も男のくせにイケメンが好きだとか豪語してる。そのせいで俺や特に一馬がその変態行為の餌食になっているっていうのに。



「でも、そーじって悪いやつじゃないよな」



 その一馬の言葉に、俺は頷くのをためらった。

 もちろん悪いやつだと思っているわけじゃない。でも、簡単に認めてしまうのははっきりいってシャクだった。

 確かに、非常識なことを口にするやつではあるけれど、俺たちが本気で嫌がることはしない。他の、欲望むき出しのやつらとは違う。


 仲良くしたい、と。

 田中はなんだかんだ良いながらも、純粋に俺たちを見ている。特に一馬は、その顔のせいで今までいろいろなことがあったから、田中に懐くのもおかしくないんだろう。



「ミツカ?」

「あ? ……ああ、悪い」



 ぼうっとして、つい歩みを止めていた。少し前の一馬が不思議そうに首を傾げている。俺は知らぬ間に見つめていた両手を下ろし、その隣に並んだ。

 ……時折、変なコトを考える。

 見つめてくる視線とか、ふとこぼす微笑だとか。人に言いながら、自分だって顔が整っていることに気付いているのだろうか?

 気付いていてわざとだったら、ものすごく胸くそ悪い。背中から寄りかかって見上げてくる視線の、あの――



「そーじってさ、見た目じゃなくて雰囲気、たまに女の子みたいだよな」

「え、あ、ああっ!?」

「うわっ、びっくりした! なんだよ!」

「なわけないだろ、アイツはどう見たって、男。変態すぎる男だろ!」



 変なことを思い出しかけた頭を振り払って、大声で自分に言い聞かせた。一馬に怪訝に見られた。死ぬほど恥だ。

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