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甘さKY%

いきなりクライマックス。

前話をおさらいしてから読まれるとちょうど良いかと思われます。



 なんだ……これ。

 


「これぞ、愛のなせる技ってやつっすね!」



 未だ体を拘束するのは、コタローの両手。ただ、立った体勢ではなく、座ってなお、後ろからあたしを抱え込むように閉じこめている。


 ……のを、正面から厳しい目つきで見守られる。

 十夜さんから。


 一体なにプレイだ。



「……ね、せんぱい?」



 そんなコタローの右手が遠慮なくあたしの顎先を滑り、くいっと顔を引き寄せられたかと思うと、艶っぽい微笑でのぞき込まれる。ついでに左手も遠慮なくあたしのロングヘアーを優しく撫でている。



「かわいい先輩……。これでこそ、オレの愛しの先輩っす」



 顔に血がのぼるどころか音を立てて引いていく。

 さっきから愛とか愛しとか、あからさまなワードを放り込んでくるこのコタローはマジでなんなの、今まで以上にきもちわるい言動だ。なんかあと一歩間違うと自然と唇が奪われそうでこわい。


 と、まあ。

 簡潔に言うと、あたしが宗二の妹であることはすぐに理解された。あたしの存在が不安定だと不安に思っていたから、認識されたことが嬉しくてその後涙ものだったのだけれど、この体勢に入ったところでそれはすぐに萎えました。



「好きです……先輩」



 奪われたのは唇ではなくこめかみでした。



「ヒッ……!」



 誰か、この、コタローを止めてくれないか……!

 今まで宗二としか接してこなかったからか、何か押さえ込まれていたのか、何の反動なのか、今までの百倍の重さで愛されている。

 まるで慣れたようにされているけれど、昔はこんなんじゃなかったからね!? ただの慕ってくる弟のような存在だったからね!?



「ちょっと……コタロー。こういうの、その、やめてよ」



 ほら、見てるしさ……獰猛な視線向けられてるよ? きみのところの部長にさ。



「どうしてっすか? せっかく会えたのに……。オレ、先輩に触れたくてたまらないんです」

「……う」



 で、その子犬のようなきゅううんな視線はやめてくれ。それにはどんなことになっても萌えてしまうんだからさ……!

 ベタベタと女を弄ぶ遊び人になろうとも、その武器は標準装備とかなんて憎い。

 あーほだされるほだされる。



「せっかく会えたって、あたしのこと忘れてたんでしょう」



 このままではいろんなものが奪われてしまうと、無理矢理コタローから逃れて距離をとって座る。名残惜しそうに手を伸ばした格好のコタローは、あたしの睨むような視線を受けては、バツが悪そうに俯いた。



「忘れてたっていうか、モヤがかかっていたっていうか……。オレだって、それは悔しいっす……だって、宗二先輩の中に先輩がいたんでしょう?」

「うん、それは騙していたようで、ごめ……」

「もっと、触っておけば良かったっす」



 なんでそんな変態になったの、コタロー、ねえ?


 ひとまず、今までの「宗二」は「あたし」だったというところまで含めて、理解してくれているようです。コタローいわく、モヤが晴れたらしいです。あたしに会って全てを理解したのは、愛の力っす、らしいです。



「宗二は? どこにいるんだ」



 それが愛なら、十夜さんの方がより純度が高いんじゃあ、と思ったけど、いろいろと変なことになるので言わないでおく。

 何を隠そう、一番始めから「あたし」という宗二の妹がいたことを覚えていたのは十夜さんだけだ。

 腕を組んで、さっきよりも厳しい目つきであたしを見てくる。こええ。どっちかっていうと、この人はあたしより宗二が好きみたいよ。



「それは、だからここにいるんです。いわば、あたしが今宗二の体を乗っ取っているようなもので……あたしは本来なら生きているはずがないんです。死んだのは確かにあたしなので」

「ああ?」

「いや、あの、ごめんなさい! 電車に轢かれたっぽいです、スプラッタ!」

「……あああ?」



 ぎゃああ、死んでいるくせにここに存在してすみません、と目を瞑ったら、頭の上にぽすんと手を置かれる感触が。

 あれ、と思って顔を上げると、ざりざりと上下左右になでつけられ、挙句の果てにがっしりと毛束を握られ引っ張られ。いだだだ痛いです。なのにそんな痛がるあたしをにらみつけるってどうなの。



「めんどくせえ死人だな」



 いやだから厳密に言えば生存してますからね! やることひとまず乱暴です! とりあえず千切ればいいんじゃねえの、って髪の毛切ったところで宗二に戻りませんからね。

 うううやりたい放題だな。

 いよいよ涙目ってときに、ぽんぽん、と優しいリズムでたたかれた。顔を上げるとすでに手はなく、十夜さんは何事もなかったかのようにあたしから視線を外していた。

 なんか、こう、不器用に労わってくれているんだろうか。



「先輩」

「はい?」

「どうしてこんな風になってるのかはわからないけど、オレは良かったと思うっすよ。先輩がいなくならなくて、良かったと思ってます」

「コタロー?」

「騙してるとか、乗っ取ってるとか、そういうの抜きにして、オレは先輩がここにいてうれしい。死んだなんて信じられないし、宗二先輩を犠牲にしているなんて訳の分からない状態でも。それを、先輩がつらく思っていても、オレは勝手に喜びますから」



 昔から、コタローはあたしの感情を鋭く読み取る。空気を読まないことの方が多かったりもするけれど、だからこそあたしが気づかないときにもこうやって慰められることがある。

 慰められる場面なのだと、後から理解することになる。

 さっきはあれだけふざけてたのに、どうして。



「なんで、いまそれ言うの。ちょっと待ってよ、やっぱり泣きそうだよ」



 一人で不安に思っていたのを思い出して、十夜さんが痛みを引き金に引き出してくれた涙が別の意味合いを持ち始めた。

 今度は嘘つかなくてもいいから、ごまかさなくてもいいから、泣いてもいいんだろうか。こんなの身勝手で恥ずかしいと思うのに、よわよわな精神が負けを認めてしまいそうだ。



「泣いている先輩もかわいいっす」



 おいだから弱みに付け込んで甘いセリフを吐くな。凶暴なブリザード的気配が混ざってカオスだから。



「先輩……」



 いろいろな意味で負けてたまるかと、またしてもフリーダムに伸びてきた下心もりもりのコタローの手を避けて、あえて冷たい方を選んで飛びつく。乙女のかわいい照れ隠しと思っていただきたい。普段なら絶対にしないであろう、十夜さんへのハグをかましてやった。



「せっ」



 コタローの絶句。そして、十夜さんの引き締まった肉体……じゃなくて、固まった反応。

 


「おい」



 まさしく低音が冷たく頭上に降りかかり、これぞやけど寸前である。火より熱く、燃えそうなシチュエーションで凍りそうなのってえらい現象だよね。泣きたてよわよわなあたしは若干考える能力が低下です。

 せっかくなので! とぐりぐりと頭を押し付け、さあどうぞ殴りとばして下さればよい、と顔を上げると、にらみをきかせた十夜さんとすぐの距離で目があった。凛々しく強気な線を描く眉毛と、密ながら繊細に生えそろったまつ毛と。


 ……あれ。

 ぱちぱち、と瞬きしてなんか我に返る。

 突然目を細める十夜さんの纏う空気が違う色へと変化し始めた。あたしの髪をかきあげるように側頭部を片手で抱え、無理やり上向かせると。

 にやりと犬歯。



「……ほう」



 なんか、納得されている。

 結構つらい体勢に持ち上げられてしまったので顔が近かろうが、なんですかこれ、と冷静になってしまう。



「これはこれで宗二を屈服させているようで、快感だな」

「ッヒ」



 なんか変な趣向に走られたあああああ!

 あわわわわ怖いと思いつつも今までにない口説かれシチュエーションで顔が爆発したあわわわ。

 や、やめてください。

 痴漢に襲われるより恐ろしい事態だ。妖しく鈍色に光る十夜さんの目が怖いです。それを恥じてしまう自分が超怖いです。

 これならいっそコタローの甘い空気に取り込まれた方がましだった気がする……どっちにしろ不健全だろうおい!


 なんかおかしなことになった。

 自分で言うのもなんだけど。

 なにこれおかしい。


 遅刻も大概だろう二人を説き伏せなんとか学校へ向かわせるのを遠目で見送り、あたしは当初の予定のまま学校を休み。落ち込むより落ち着かなくなったのは良かったのかどうなのか。


 とりあえず、仲間をゲットしたようです。

実はこのエピソードはいらないかと思ってごっそりNG行きにするつもりだったんですが(正直なくても支障はない(常にそうだと言われたらおしまいですが))なんかもうせっかくあれなのでどうのこうのでこれしときました。


十夜さんはぱっと見恐ろしい顔つきですが、近くでじっくり見ると実は美形だよねと再確認したい。

なんかいつの間にか宗二好きすぎだろになってしまいました。何を間違ったか……たぶん、ひざまくらあたりから。


※活動報告にて妄想こねた上げてます。よろしければそちらもどうぞ~。甘さと意味不明さを盛り込んだ仕上がりになっております。


最後にいつもいつも更新遅くてすみません。でも読んで下さる方、お気に入りに入れてくださってる方、ありがとうございます!

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