かずまくんたちの夜更け
あの醜態後、落ち着かない気持ちで夜ご飯を済ませ、風呂に入り、寝支度を終え。
夜も遅く、寮部屋で一息をついたころ。
一馬が、俺に向かって「良かったね」と心底楽しそうに笑いかけるのを見た瞬間、げっそりと肩を落としたくなった。
「そーじさ、最初、ミツカに嫌われてるかもって思ってたみたいだよ」
俺が知らない間に、一馬と田中が会っていたときのことらしい。俺の知らないところでそういう話をしているということ自体、少しだけシャクに思えてしまって、さらにげっそりする。
「嫌うっていうか……前から忠告してたのに椿本の前で無防備でいるから、それを注意して……」
「嫉妬して、無関係な怒りをぶつけてしまった、と。やっぱりねー、思ったとおり」
俺が言葉に注意しながらあのときのことを話すと、一馬が全て理解したようにうんうんと頷く。田中が言うには、目移りばかりする田中を俺が気にくわなくて怒ったという出来事だったようだが、俺の話で確信を持たせてしまったらしい。
やっぱり話さなければ良かったと思う。あれが全ての過ちの始まりな気がしてならない……。
「……だからって、無視するように差し向けるか?」
それでややこしくなってしまったのは事実だ。
非難をこめて、楽な姿勢で地面に転がる一馬を見る。そんな視線をものともせず、うーんと唸ると、だって、と言い訳がましい言葉が返ってきた。
「おれもやだったし。正直おれだって単なる嫉妬だもん」
「一馬、お前、よく言えるなそういうこと」
「言わないと、誰かさんみたいになっちゃうし」
誰のことだ。知ったような口を聞く一馬は、しかし、困ったことに幼馴染みということもあって、俺のことは多分俺以上によく知っている。
「ミツカはさ、人と必要以上に深く関わったことがないから、そういう感情が分からないんだよ。かといって、身内にさえ相談するような性格じゃないから、分からないのが積もり積もって思わぬ方向に爆発しちゃうんだよね」
「……どういう意味だよ」
「今回もそれ、認めたくなかったのに、本人にぶちまけちゃったね」
だから、なんで一馬が知ったように語るんだ。
俺が熱を出したのを田中が保健室で介抱してくれたのは、俺自身、記憶がハッキリしていなくて、曖昧にしか思い出せないと言うのに。
……認めたくなかった感情を認めざるを得なくなったことだけは嫌でも思い出せるが。
ただ、そんなこと一馬には一ミリもこぼしてなどいない。
「だから良かったねってこと。ミツカが心許せる相手ができて、おれもうれしーよ」
「嬉しくねえよ、ほんとに」
「まあまあ、今日なんか仲良さそうだったじゃん。そーじも他の男にフラフラしないで、ミツカに的を絞ってたみたいだし」
「べ、別に何も……!」
「え、何かあったの?」
「ねえよ!」
疑いの目つきで見られる。悟られないように手をひらひらと振りつつごまかしながら、話を戻す。
「だいたい、的を絞ってても、的はずれだろ。何か違う思惑があるのが見え見え」
ごまかされてくれたのか、一馬がそうだな、とけらけらと楽しそうに笑う。
今日の田中からの妙な絡みは、一緒にいた一馬ももちろん目の当たりにしている。誰の目から見ても、不自然なのは丸分かりだったということだろう。
……別に、そりゃ、まあ、嫌だったわけじゃないが、良くもないのが正直なところ。好かれてるっていうもんじゃない、何か実験されてる気分だ。
メモとられてるし。
「違うんだがな」
……俺が言ったんじゃない。
わざとらしく不機嫌そうな声をつくって言う一馬を、ため息混じりに見下ろす。
それ、俺の声真似のつもりか?
「って言いたそう。うんうん、おれも分かる分かる。もっと違うアピールポイントがあるのにね、そーじってば何故か男らしく振る舞おうとするから。といっても間違っていると思うけど」
「何が言いたいんだよ。男だったら、男らしくするのが普通だろ」
「本当に? そーじも?」
「……うるせえ」
思い出しかけた、今日の図書室での映像をなんとか追い払う。軟弱なのは耐え難い。そういうやつを見るのも、そんな態度を自分がとってしまうのも。
……自分の中の、目をそらせない本能も。
分かっているのに、どうにもならないっていうのが。
だから本当にもう、最悪だ。
「寝る」
「あ、ミツカ、逃げた!」
もういい、このままだと変な夢見そうだが、もう知らん。
どうにでもなれと、思うことにする。
後ろで一馬が呼ぶ声を聞きながら、俺はベッドに潜り込んで目を瞑った。夢を見ていなくても目に浮かぶって重症だろう……こんなこと。
何をどうして、俺はこうなってしまったんだろう。
つくづく、俺はカワイソウな男だと思う。
なんか一馬くんがたくましいです。
次こそ宗二くんの取り乱しの経緯を…!