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一番の収穫は、デレと添い寝でした



 パチリと、目が覚めた。



「あ、そーじ! 起きた!」



 考えようとして、でも何も考えられない。今ここにあるのが現実だか夢だかなんだか分からなくて、ただぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 けれど、やっぱり分からない。

 にこにこと頬を染めて、嬉しそうなそこな笑顔はそれはすごく、癒されるんだが。


 ――起きあがれない。肩にものすごい負荷がかかってる。おまけに、その笑顔が天井の光を遮ってる。


 ……いや、なんで、あたし、柳井くんに押し倒されてんの?



「良かったー! ずっと目が覚めないのかと思った」



 このまま覚めなかったら、あたし、どうなってたのか激しく気になる。このままいいようにされてたんでないの……! 柳井くん、かわいい顔してなんて大胆だ!

 よし、今から狸寝入りモードオンんんん……!



「一馬」

「んあ」



 気合い入れて目をつむる前に、柳井くんの顔がさっとフェードアウトした。代わりに、見たことのある天井が目に入って、一瞬混乱する。

 少しだけ顔を上げると、かわいいテディベアたちと目があった。

 ……兄ちゃんの部屋?



「何だよ、ミツカ」

「危ないからこいつには近づいちゃ駄目だろ」



 そっと視線を移動させると、柳井くんの首根っこを掴んだ和磨がいた。あたしが見たことに気付いたのか、同じように視線を返してくれる。ただ、柳井くんみたいな笑顔ではなく、あくまで険しい表情で、だ。



「まだ本調子じゃねえんだろ、寝てろ」



 反対の手でぐいっと頭を押さえ込まれて、あたしはあっけなく枕に沈んだ。あ、ベッドの上。


 ……あたし、どうしちゃったんだっけ?

 どうして、和磨と柳井くんが、兄ちゃんの部屋にいるの? 兄ちゃん、家族以外は誰にもこの部屋に入れないのに、兄ちゃんの秘密がばれてしまったな。

 ごめん、兄ちゃ――



「んん!?」



 あたしは再度ベッドから起きあがると、すぐに自分の服に手をかけた。いつの間に着替えたのかは分からないけど、着ていたパジャマのボタンを上から一つ一つ外していく。



「バッ、何やって……!」



 驚いた和磨が止めようと手を伸ばしてくる。構わず上半身全てを脱いで、そこで目にしたのは白い肌だった。

 真っ平らな。女としての象徴がきれいさっぱり削り取られた、胸板。


 に、兄ちゃん……。



「んなんてこったいー!」

「それはこっちのセリフだバカ! いきなり脱ぐやつがあるか!」



 錯乱しかけるあたしに、和磨が勝手に服を着せようとする。



「ちょっと待って、十夜さんはどうなったの! せっかく探してくれるって言ったのに!」

「おい暴れんな! 一馬も、手伝え!」

「あ、うん!」

「あれ、このままじゃ駄目じゃん! これじゃあずっと兄ちゃんが、兄ちゃんが帰ってこられない!」

「おい、宗二!」

「――違う! あたしは、宗二じゃない!」



 大きく声を張り上げた時だった。



「先輩!」



 部屋のドアが開いて、コタローが飛び込んできた。しかし、言葉は続かず、みるみるうちに顔から血の気が引いていく。



「なにを、やってるんですか……」



 呆然としているコタローの見つめる先では、和磨があたしの両腕を拘束していた。しかもあたしは半裸ときている、何をどう考えても導き出されるシチュエーションは一つしかない。



「って、違う、これはだな!」

「聞きません」



 和磨の弁解もむなしく、コタローは冷ややかにその両腕を剥ぎ取ると、あたしの服のボタンを一つ一つ丁寧に止め直していく。あたしはしばらくされるがままになりながら、ボーっと俯くコタローを見つめていた。


 どうしてだろ、なんだかすごく安心する。



「先輩、大丈夫っすか。やっぱりオレ、先輩を一人にするべきじゃなかったっす! あまりに弱々しくて、襲ってしまいたくなるのも、オレ分かってたのに……!」

「か、勘違いだ! 別に俺が無理矢理脱がしたわけじゃない! 一馬も見てただろ!」

「お、おう」

「先輩、怖かったでしょう」

「いや、聞け!」



 優しく心配するように、あたしの顔をのぞき込むコタロー。あたしは今、宗二だけれど、コタローだけがあたしを、あたしとして見ていてくれる気がして、ひどく嬉しい。

 コタローだけが、本当のあたしを、知っているからかな。

 どうしてもぬくもりを感じたくて、すぐ側にあるその体に抱きついた。



「せ、先輩……!」

「おまっ……!」

「ミツカ、なんだあれ!」



 コタローが動揺するのが分かった。ついでに、その後ろにいる和磨と柳井くんも。それでも構わず、ぎゅっと腕に力を込めると、コタローも同じようにあたしの背中に手を回してきた。



「もう大丈夫っすよ。怖いことはもうないっすから。先輩は今一人じゃないっすからね」

「うん……」



 コタローが大人だなあ、おい。

 ずびびっと鼻を鳴らして、あたしを立ったまま抱きしめるコタローの顔を見上げる。安心させるように微笑みを向けてくれた。



「お、おまえら何勝手に勘違いして盛り上がってんだよ。いいから離れろ!」

「先輩は今オレのものなんです!」

「はあ!? だれがおまえのもんだよ! こいつはなあっ……!」

「ミツカ? そーじのこと好きなの?」

「すっ……!?」



 はあー、ちょっと落ち着いたわ。変な夢を見てしまって、あたし、すごく不安定になっていたのかもしれない。

 ……あの夢は、どういう意味だったのかな。

 まるで、兄ちゃんの死の体験をしたみたいだった。


 もう思い出したくなくて、ふるっと一回頭を振る。

 なんにせよ、もう一度、兄ちゃんの格好で和磨たちと再会することになった。他人じゃなくて、きちんとあたしのことを知ってくれていて……。

 ちょっとだけ、嬉しい。

 あたし、兄ちゃんの体で過ごすこの生活を、すっかり気に入ってしまっているんだな。



「ふざけんなよ、バカ!」

「痛ッ!?」



 急に殴られてあたしの切な思考がぶったぎられた。なんだよもう、と目を上げるとそこにはあり得ないほど顔を真っ赤にさせた和磨がいて。

 ええ? 何そのギャップ萌え。

 あたしからふいと顔をそらすと、部屋を出ていってしまった。



「何が、あったの?」

「先輩になんてことするんですかあの人は! あたま、痛くないですか?」

「いや、不思議とどことなく愛を感じたわ」

「そーじって相変わらず変だよなー」

「あー! 愛なら、オレが今ここで! 添い寝とかしたいっす!」

「あの、コタロー、最近あからさますぎない? だいたいそういうのはさあ……」

「じゃ、おれ、反対側ね!」

「愛という名のぬくもり頂戴……!」

「ちょっと先輩! だめっす、三人は駄目っすー!」



 ひとまず素敵な夢を見ようと思います。

シリアスっぽいの続いたせいか、普段のテンションがわからんんぬ……!


ってなって、最後にぶっとびました。

次からもっとぶっちゃけたギャグのような勢いだけのとにかくあの日々に戻れたらいいなと思います!


みなさんたくさん読んで下さってありがとうございます!

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