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襲来されてる場合でない



 渡り廊下から、ナカムラが行ったと思われる特別棟へと潜入する。いくら学ランを着ているからといって、あたしが女だということは金髪のあの人にも分かったようにすぐにバレることだろう。

 あの人だけならまだしも、その他大勢の生徒、まして先生なんかに見つかった日にはあたしは現行犯逮捕? それはもう、場違い乳陳列罪とかで。……なにそれ嫌すぎる。


 絶対に捕まってはいけないと固く誓い、中の様子をうかがってみる。壁にかかっている時計を見れば、もう昼休みは終わりの時間を迎えていた。

 けれど、なんだか騒がしい。身を乗り出すと、大人しく授業を受けていないのか、廊下に人が集まっていた。



「おい、そっち、いるか!?」



 うお、危な!

 前ばかり気にしていたけど、渡り廊下を渡って別の生徒が走ってきた。慌てて階段の裏へと身を隠す。



「今屋上へ向かってる!」

「無事だったか?」

「まだ誰も危害は加えられてねえけど、危なすぎるぞアイツ! いきなりドアぶち破って教室に飛び込んできやがった」

「俺たちもそうだ。捕まえられんのかよ」

「先生が今みんなで捕獲しには行ってるけど、あまり期待は出来なさそうだ」

「ったく、何だって破壊王がこの学校に……!」



 やっぱりナカムラかよ! 余所の授業めちゃくちゃにして、一体どういうつもりなの。



「それが、ソウジがどうとか、殺すが何とか」



 そうだった……! そもそもあたしを狙ってここまで来たんだった!

 じゃあなにそれ、宗二が出てこない限り破壊王ナカムラの暴走は止められないってこと?

 でも、宗二はあたし、あたしはあたし!?



「よし、俺たちも加勢するぞ!」

「おう!」



 気付けば、集まった男たちは階段を駆け上がっていくところだった。あたしは体の力を抜いて、一度大きく息を吐く。

 決意を新たにすると、体を起きあがらせそれに続いた。



 屋上には、犯罪者相手に使うような刺又を手に手に、先生が集まっていた。そこでも見つからないように階段の影に身を隠す。あれで、ナカムラの首を押さえ込むつもりなんだろうか。

 ナカムラが暴れているのを放っておきたくはないけれど、今捕まるのはあたしとしては避けたいことだ。

 今一番、宗二に近いのはナカムラな気がする。たとえ少しの情報でも、ナカムラには聞きたいことがある。



「いたぞ、アイツを捕まえろ!」



 そうこうしているうちに、先生のナカムラ捕獲計画が始動してしまった!

 屋上の扉を開け放ち、数人掛かりで飛び込む先生たち。まさかと思い、身を乗り出すあたしだが、予想だにしない出来事がすぐに起こった。

 

 ドガアン、とはおよそ人体が奏でるものではない音が反響する。と同時、先生らが後方にぶっ飛ぶのをあたしはこの目で確認した。



「――邪魔だ」



 その中心にそびえ立つ人物を、あたしは階段の途中から呆然と見上げる。首が折れそうなくらい、顎が外れそうなくらい呆然としすぎて、次に出す手が止まったままだった。

 ナカムラ。

 屋上からの光を背負い、仁王立ちするその姿は、静かでいてそれで闘志に燃えているような、不気味な恐ろしさがあった。


 言葉が出ない。

 すぐにナカムラはむき出しの歯を打ちならすと、あたしに背を向けて走り去った。



「あっ」



 我に返るも時すでに遅し。そのどでかい図体は、どこにも見あたらない。

 ……つーかまじ迫力ぱねえなおい。宗二の見た目だったら一発KOされていたに違いない。どころかそのまま天に召されてる。

 あんなの、誰かに止められるわけがない。だって背後には累々と先生のプチ死体が転がっているんだろう――



「こんなところに、女子がいるぞ」

「まじで? あ、ほんとだ」

「ナカムラが連れてきたのか?」

「でも今は一人だし、ちょうどいいんじゃね?」

「だな」



 ……おい、ケツ撫でんじゃねえ。


 振り返ろうと思った矢先、目に飛び込んできたのは死体ではなく、先ほど群を成していた男子のうちの二人だった。

 てめーらどんな状況だか分かってんのかおおい?

 あたしが階段に手を置いて体勢を低くしていたのが、彼らにはちょうど良かったらしい。遠慮なくあたしの尻から腰まで手を伸ばすも、目が合うと、獣を隠した紳士的な顔で笑われる。



「なあ、黙っててやるからさ、俺たちと遊ばない?」

「そうそう、まわりは男だらけでおれら退屈してたんだよなー」

「きみだってもしかして、男と遊ぶためにここまで来たんじゃない?」

「へー、悪い子だね」



 からかうように笑われる。それでも動かず二人の言葉を最後まで聞いていると、すぐにあたしの体を絡め取ろうと四つの手が伸びてきた。

 へー、こりゃまたおいしいシチュエーションで。



「……そうかもね」



 あたしは体をぐりっと反転させ、階段に沿って仰向けに寝そべる格好になる。それから伸びてきた手の内の一つ、それを強引に引っ張り込んで、あたしの胸に触れるか触れないかのところで留める。



「あたし、悪い子なの」

「いいじゃん」



 男子はあたしが受け入れたと思ったのか、嬉々として体を寄せてきた。

 ――これが、違う誰かだったらと、思わずにはいられない。なにゆえこんな、なにゆえこうも……。

 ぎりりり、と腕を掴む手に力が入る。

 今日はいろいろな意味で興奮していてね。本当だったらその甘い誘いに乗ってやっても良かったんだけれど。



「――ただ、」

「んぐっ……おああ!?」



 ちょうど良い位置にある下っ腹に右足をお見舞いして、その男、天高くぶっとばしてあげました。



「なっ……!」



 これぞ、か弱い女の子の気合いのなせる技。宙を舞う男と、呆然と見上げる男を後目にあたしは言い放った。



「あたしが遊ぶのは、いい男、限定なので」



 てめえらお呼びじゃねえんだよ、と。

けっこう痛い主人公。


話がぜんぜんすすまねえ……襲来編早く終わらせたいのに……

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