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いきなりナンパもアリですか



 右を見ても男。左を見ても男。前を見ても後ろを見ても、どこをみても360度パノラマは男、男、オトコ。

 ごくりとのどが鳴る。緊張のためか、こめかみに汗も流れる。

 

 初めて見る校舎は、それはなんといっても神秘的だった。舞い散る桜の花びらが彩りを加え、まるであたしの知っている世界じゃないみたい。

 それはきっと、少し前のあたしだったら関わることのなかった場所だから。それくらい、今のあたしは変わりすぎて――



「ひゃっ!?」

「あ、わりぃ!」



 自分の世界に浸ってモノローグなんてやってるからだ。

 背中からぶつかられて、あたしは見事に地面に両手をついていた。せっかく新しかった学ランの膝部分も砂まみれ。条件反射で振り返ると、そこにはおろおろと両手を差し延べる男の子がいた。


 美・少・年。



「大丈夫か? 怪我したのか? 立てるか?」

「はは、なんのこれしき! それより良かったらこれからお茶でもどーですか?」

「はっ? いきなり何だよ、断る」

「そんなこと言わずに、ほらほら、ねえねえ」

「バッ、おまっ、手放せ!」



 と、ガンガンに抵抗されても、あたしは怯まなかった。それというのも、この男の子はあたしよりも背が低く、力でもあたしのほうが勝っていたからだ。

 ふわっふわの短めの癖毛に、あたしの腕に歯を突き立てる姿なんてさながら小さな子猫のよう。

 はは、警戒してる、かわいい、はなぢ出そう。



「はーなーせ!」

「暴れんなよ、いいとこに連れてってやるから」

「ッ……!」



 必殺・耳元囁き。

 自分で言うのも何だが、あたしの低音ボイスはかなりのスウィート成分を含んでいると思う。現にさっきまで暴れまくっていたかわいこちゃんはカカーッ!っと顔を赤くして大人しくなっていた。

 はは、ちょろい。

 その隙を逃さず、あたしはその両肩に腕を乗せて上から囲い込むポジションを取る。



「あんた……」



 ん? どうかした?

 真っ赤な顔でキロリと睨まれても全く怖くない。それどころか、あおられてるのかとドキドキしますけれども。イケメンってこれだから始末が悪いよね。好きだ。


 麗しのその唇が震えながら動く。あたしはその動きを目で追いながら、放たれる言葉を今か今かと待つ。

 それは了承? それとも愛の告白? 今晩はいけるところまでいっちゃう?



「……変態さんなのか?」



 あ、うん、ある意味ね。


 ……じゃねえ。なんだその冷静な返し!

 思わず素になっちゃったわー。もっとこう、頬染めて「いじわる……」とかいうのを想像していただけにショックです。


 まあ、ネコミミ(幻想)をぴょこんと倒して気弱に見上げてくるのにはグッときますがね。そうともあたしは変態ですとも。



「往来で何やってんだてめーら」

「おうっ?」



 抱き寄せてやろうと腕に力を込めたけど、一足遅く。子猫ちゃんは、すでにあたしの手中から消え去っていた。スカッとからぶるあたしを目の前に、違う片腕が彼を引き寄せていたのであーる。

 

 子猫ちゃんと見つめ合う形になっていた視線を上にスライドしていき、その腕の持ち主を辿る……あたしと同じか、少し高いくらいの背丈。



「一馬、先行くなっつったろ」

「ミツカ」



 駄目だイケメンだ。これぞ正統派の男前。顔のパーツ配置もさることながら、前髪と後ろ髪の計算しつくされた流れ方や、質素な制服ですらオシャレに着こなすスタイルは神に祝福されているとしか思えない。



「あのなー! ミツカが女の子に囲まれてるのが悪いんだろ! 一人だけいい思いしやがって……置いていくのも当然だ!」

「一馬が寝坊するからこの時間帯に登校することになったんだぞ。いつもの時間だったらこうはならなかった」

「あーもーうるせえ! おれのせいにすんな! ハゲ!」

「分かった。反省してこれからは起こすとき痛くしてやる」



 そしてあたしを差し置いての痴話喧嘩。絵になるかどうかは言うまでもないが、ハッキリ言おう。リアルBLに興味なんざねえ。

 ああでも、拳を握ってぷるぷると震える子猫ちゃんはかわいい。


 そこでようやく、あたしの存在を思い出したのか、ミツカと呼ばれたその男がスッとあたしに視線を向ける。

 うおー、目で殺す気満々ですな。綺麗な顔をそうして有効活用しないでもらいたい。いくらあたしと子猫ちゃんの邪魔をした相手だといってもね、あたしはイケメンには弱いんですよ!



「おまえ、誰?」

「……」

「無視するとはいい度胸だな」



 あ、ごめん、そうじゃなくて見とれてた。



「一馬に用か? 話だったら今ここで聞くが」

「なーんか、カッタイなー。笑ったらもっとかっこいいのに」

「……おい、一馬?」

「ミツカ、無理無理、コイツ、変態さんらしいんだ」



 こそっと耳打ちしてるけど、丸聞こえだよ、子猫ちゃん。おかげで納得してくれちゃったらしい、ミツカがあたしに軽蔑の眼差しを向けてきた。



「まさかと思ったが、おまえもそういう類か……」

「そういう類って何ですか。この健全なる青少年に向かって!」

「青少年だから言ってんだろ! 男のクセに男を口説くな、変態」



 あたしに男を口説いちゃ駄目だとも? 確かにミツカの言っていることは間違っちゃいない、そういう種類の人間がいるということを認めなければ、だ。

 けれど間違って欲しくないのは、あたしが本当に男か?という点である。


 見て分かる通りに、上から下まで全身男。断定してしまうのも無理はないが、ここはハッキリ言わせてもらおう。


 あたしはただの男じゃない。ちょっぴりイケメン好きな、元女だ。

なんでこんなことに……

すみませんただひたすら平謝り系。ちょっと試し連載。

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