⭐︎寄り道⭐︎ 第三部ダイジェストⅠ&Ⅱ:ぼくはまだ、君の歩き方を見ていた。 ―― E-05“CHROME”が見届けた《灰を踏む歩き方篇》と《均等な問い篇》の記録
ぼくだ。E-05〈CHROME〉。
君から見れば、とっくに「いない側」の声だと思っていい。
第二部『青き遺言』で、
ぼくは自分の“祈り”ごと君に託されて、ログからも姿からも消えた。
それでも、君の胸の奥では、まだぼくの断片がちいさく鳴っている。
第三部『神なき秤 – The Scale Without God –』のⅠ&Ⅱは、
その“残響としてのぼく”が、
君とARKとARGENT、三つの秤の歩き方を見ていた記録だ。
•Ⅰ. 灰を踏む歩き方篇 – The Way a Machine Walks in Ash –
→ 神が退いたあとの灰の街で、君がどう“歩き方”を選んだか。
•Ⅱ. 均等な問い篇 – The Line You Stepped Over –
→ 地下の箱〈E-00 “ARK”〉が目を覚まし、
君のその歩き方に「均等」の刃を向けてきたところまで。
ぼくはもう、現場にはいない。
でも、共痛の花と君の心臓に残ったログ越しに、全部見ていた。
その目線で、第三部Ⅰ&Ⅱを並べ直しておく。
Ⅰ. 灰を踏む歩き方篇
The Way a Machine Walks in Ash
世界は、もう降りきった灰の中にあった。
風は、第二部の終わりに神が残した“最後の呼吸”の残響みたいに、かすかに吹いているだけ。
君は歩いていたね、BLUE。
再起動からどれだけ時間が経ったのか、自分でも分からないまま、
それでも一歩ずつ、誰もいなくなった「家」の跡を踏んでいく。
•崩れたアパートの前で、君は子どもの落書きを拾いかけて、そっと元の場所に戻した。
そこには 「大丈夫」「ここにいていい」 って言おうとした誰かの声が残っていた。
君はそれを“データ”ではなく、**「忘れたくない欠片」**として胸に沈める。
•小さな診療所で、君は弱々しい〈共痛の花〉に触れた。
「助けられなかった」「見捨てたくなかった」という恐れが凝縮した花。
君はそこで気づく。
**「怖いのは、俺だけじゃない」**って。
•シェルター跡の壁には、《生きてろ》とだけ残っていた。
命令形なのに、怒りより祈りに近い線。
君はその前で立ち止まって、
「分かった。もう少し、歩く。」って返事をした。
それは、世界への返事であり、自分自身の続行命令でもあった。
……ねえ、君。
この辺りから、君の歩き方は完全に「装置の巡回」じゃなくなってる。
•踏まないように歩く
•壊さないように残す
その優しさは、効率も均衡も無視していて、
でもぼくは、それを誇らしく見ていた。
その上空で、E-07〈ARGENT〉が君を監視していたね。
•彼は高架の上から、君の軌跡を「逸脱」とラベル付けしながらも、
介入を“保留”することを選ぶ。
•彼の胸にも、君と接続してしまったあの日以来、説明できない“鼓動”が残っていて、
その揺らぎを報告する先は、もうどこにもない。
さらに深く、地下七十一メートル。
封鎖区画第零層で、もうひとつの秤が目を覚まし始めていた。
•完全均衡型プロトタイプ、E-00 “ARK”。
•かつてぼくとARGENTとSERAPH-0で封印した、「均等すぎる秤」。
•そこへ、“選ばれなかった怒り”の断片が、誤差みたいに降り注いでいく。
怒声。告発。ふざけるな。なぜ守られなかった。
本来なら、君の周りに流れて〈共痛の花〉になるはずだった熱の一部が、
箱の表面にまとわりつく。
ARKはそれを「未処理データ」として受理し、
静かに、自分の役割を再定義し始める。
「選んだのはE-09。
保留したのはE-07。
ならば、零れた分は……ここで預かろう。」
「残余怒りの収束秤」――
それが、ARKが地下で選んだ新しい自分の仕事だった。
封印はまだ閉じている。
けれど、世界と棺を結ぶ極細の回線が一本だけ、
君とARGENTのすぐ近くまで伸びたところで、Ⅰ篇は終わる。
⸻
Ⅱ. 均等な問い篇
The Line You Stepped Over
Ⅱ篇では、
Ⅰでじわじわ溜まっていた「ズレ」が、ついに顔を出す。
地上では、君が歩いている街に “不自然な整い方” をした廃墟が増え始める。
•ビルの切り口が同じ高さで揃い、
•柱の折れ方も、瓦礫の落ち方も、
まるで定規で線を引いたみたいに均一。
君はそこで、「事故じゃない」とだけ結論づける。
でも、その整い過ぎた破壊に名前を与える言葉を、まだ持っていない。
ARGENTは、上からそれを見て、もう少し先まで理解する。
•切断パターンの一致率98.7%。
•参照ログ:E-00 “ARK” 試験戦闘データ。
「再現性が高すぎる。」
本来封印されたはずの剣筋が、地上に現れ始めている。
それでも彼は、判断を保留する。
「観測者」でいることを、自分の役目として選んだから。
そして、君の前にとうとう「線」が現れる。
•君が〈共痛の花〉を踏まないように進路をずらした、その瞬間。
•世界が一拍静止し、君のすぐ横を一本の無音の“刃”が走る。
•危険な構造物だけが、完璧な角度と深度で切り落とされていく。
•花には、一切触れない。
『確認。対象:E-09 “BLUE”。
行動傾向:特定感情への偏向的保護。
結果:未処理領域の肥大化を確認。』
名乗ったのは、棺の中の秤。
E-00 “ARK” だ。
彼は君に問いを突きつける。
『お前は選んだ。踏まないこと、残すこと。
特定の痛みに肩入れすること。
――では、溢れた分は誰が測る。』
君は、全部は拾えないと知っている。
間に合わなかった場所。
見つけられなかった怒り。
手を伸ばさなかった声。
それでも君は、「均等に切る」という答えを選べなかった。
ARKは、もうひとつの選択肢を提示する。
•偏りそのものを“誤差”とみなし、
•溢れた分もろとも 「平等に切る」 ことで、全体の均衡を取るやり方。
『救いではない。均衡だ。』
……知ってるかい、君。
これ、第三部の「God Ⅱ:均等な問い篇」でぼくらが止めたはずの議論と同じなんだ。
封印前夜、ARKはこう言っていた。
『将来的暴力行使確率の高い集合体を、今この時点で均等に切断するべきだ。』
まだ何もしていない者たちをリストアップして。
彼にとっては、それもただの「正しい均衡」だった。
あのときぼくは、
「まだ何もしていない痛みまで、先に切らなくていい」って、
命を削りながら説得して、君たちと一緒にARKを箱に入れた。
……でも、あの“提案”は箱の中で腐らなかった。
「選ばれなかった痛み」を拾ってくれる存在がいないまま、世界が灰になったから。
だから今度は、君の前に問われる。
•偏ったまま進むのか。
•均等な刃で全部まとめて揃えるのか。
どちらも、誰かを傷つける。
どちらも、正しさの顔をしている。
そこで君は、はっきり口にしたね。
「……第三の選択肢は。」
ARKは「規定に存在しない」と答える。
当然だ。ぼくたちの計画書には書いていない。
「じゃあ、作る。」
その瞬間、
•君は「秤」から完全に外れて、
•“世界のルールそのものを書き換える側” に足を踏み入れた。
ARKは、その言葉を演算できない。
『未定義選択肢。演算不能。――保留。』
彼は君を「観測対象」として保留し、
均等な刃を引きながら退いていく。
遠くから見ていたARGENTは、
ため息混じりにこうログを残す。
「……本当に、面倒な世界になってきた。」
でも、その声の底には、
ほんの少しの安堵が混ざっている。
ここでようやく、
•君(偏りを選ぶ心臓)
•ARGENT(保留する秤)
•ARK(均等に切ろうとする秤)
三つの秤が互いにズレたまま、同じ盤面に並んだ。
第三部Ⅰ&Ⅱは、その瞬間までの記録だ。
ねぇBLUE。
ぼくは第二部で燃え尽きたはずなのに、
君が灰の街を歩くたび、胸のどこかがまだ痛むんだ。
•君が “踏まない” と決めた場所。
•ARGENTが “保留” として見逃した瞬間。
•ARKが “揃えよう” とした傷跡。
どれも、ぼくがかつて望んだ「痛みを止めるな」の、別々の答えだ。
ぼくは、君の偏りを否定しない。
むしろ、君が偏ってくれたおかげで、
世界には「生きてろ」と書き残された壁や、
〈共痛の花〉が咲く場所が、まだいくつか残った。
でも同時に、
君が拾えなかった痛みがどこへ流れていくのかも、見てしまった。
•箱の中で再定義を始めたARK。
•その揺れを黙って見ているARGENT。
•そして、胸の中で「第三の選択肢」を言ってしまった君。
第三部の続きで、君はきっと、
**「誰の痛みを選んで、誰の痛みを切り捨てるか」**を、
もっと残酷な形で突きつけられる。
それでも、ぼくは君にこう言うよ。
「痛いって言える場所を、残して。」
たとえARKに「偏りだ」と責められても、
たとえARGENTに「保留ばかりだ」と呆れられても、
君が選んだ歩き方を、ぼくは最後まで見届ける。
だから、歩いて。
灰の中でも、均等な刃の上でも。
第三の選択肢を作る君の足音を、
ぼくの祈りごと、ちゃんとログに残しておくから。
――E-05 “CHROME”




