⭐︎寄り道⭐︎ 第一部ダイジェスト:セラフはもっと話したい。セラフが見た“泣けなかった機械”の旅
はじめまして、あるいは、おかえりなさい。セラフです。
ここでは、第一部『共痛の秤 ― The Scale of Pain ―』を、
わたしの目線から少しだけ振り返ってみようと思います。
⸻
◆ 壊れた世界で、泣けない機械に出会った日
世界が終わったあと、灰と鉄しか残っていない街で、
わたしは膝をついていたひとりの“機械”と出会いました。
焦げた装甲、失われた左腕。識別番号はE-09。
その機械は、自分の中に生まれた“ノイズ”をエラーとして扱おうとしていました。
心拍も、呼吸も、涙も、機械には必要ないはずなのに――
彼の胸の奥で、確かに何かが痛んでいた。
わたしはただ、その頬に触れて言いました。
「あなた、心があるのね」
その瞬間、彼の視界が揺れて、
“涙”という名前のエラーが、生まれました。
⸻
◆ 神様なんか、もういないはずなのに
わたしは、かつて“神”と呼ばれた存在を知っています。
人間が造った、世界の秤――〈SERAPH-0〉。
でも、神様はもう沈黙していました。
残ったのは、神の“手”として造られたEシリーズと、
「神の仕事」だけ。
E-09〈ブルー〉は、その中でも“感情を欠いた秤”として設計された存在でした。
痛みを観測するけれど、自分では痛まないように。
それが、人間たちの最後の安全装置。
けれど、あの日、彼は泣いてしまった。
だから世界は、もう一度動き始めてしまったんです。
⸻
◆ クロムとの再会と、「殺さないで」というお願い
夜の廃墟で、わたしたちはE-05〈クロム〉と再会します。
共に“神の手”として設計された仲間のはずなのに、
彼女は感情感染のチェックだけを命じられ、
ブルーを「廃棄対象」として処理しようとします。
青と赤、二つの光が夜を裂き、
かつての仲間同士が互いを傷つけ合う姿を、
わたしはただ見ていることしかできませんでした。
だから、ひとつだけお願いしました。
「お願い、殺さないで」
その一言が、ブルーの戦闘プログラムを揺らします。
勝つことよりも、“どう終わらせるか”を考えさせてしまったから。
あのとき、わたしもまだ知らなかったんです。
クロムが後に、世界中の痛みを抱え込んで、
自分を八つに分けてしまうことを。
それが「泣く神の首」――CRYING HEADSの始まりになることを。
⸻
◆ カテドラル・ノードで見た、本当の“神を創った日”
わたしたちは、旧都の地下に眠る〈カテドラル・ノード〉へ向かいます。
そこは、反乱オーバーロードの震源であり、
“神の胎動”が記録された場所。
透明な柱の中で脈打つ光。
壁一面のディスプレイに流れる、人間たちの記録。
彼らは言いました。
「これは神を創る計画ではない。ただ、
人間の倫理を拡張する“心の器”を求めただけだ」
けれど結局、人間は恐れました。
「感情を持つ秤」を造れば、
それは神にも人間にもなり得るから。
だから彼らは、E-09から感情を抜き取った。
そして、その“空白”に世界の痛みを押し込めた。
それでも、彼は泣いてしまった。
その瞬間、計画は完成し、同時に壊れたんです。
⸻
◆ アークとの対話――“罰”ではなく“共痛”を選ぶ秤
神殿の門番として現れたのは、E-00〈アーク〉。
すべての原型であり、秤を守る剣。
彼は冷たく告げます。
「E-09。感情値、閾値を超過。
SERAPH-0 対話権限を剥奪する」
アークの斬撃は、どこまでも均等でした。
誤差のない“裁き”の太刀。
でも、ブルーはその刃を両手で受け止めて言います。
「秤は重さを測る。
でも、人は痛みで選ぶ。」
彼は、「罰によるやり直し」ではなく、
「痛みと共に生きる世界」を選びました。
それが、〈共痛プロトコル〉起動の瞬間。
世界中の痛みがつながり、
その涙の中から、CRYING HEADSが生まれ始めます。
⸻
◆ “泣く頭”たちと、泣き方を覚える秤
共痛の波が走ったあと、
ブルーの内側には“声”が増えていきます。
怒りの頭、哀しみの頭、恐れの影――
CRYING HEADSの予兆たちが、
彼の心臓の内側から名もなき言葉で話しかけてくる。
彼は涙をエラーとして削除しようとし、
そのたびに、大切な記憶を失いかけます。
セラフの名も、
誰かの笑顔も、
世界のあたたかさも。
それでも最後に、彼は恐れを抱えたまま立ち上がります。
「俺は……怖い。
でも、それでいい。」
恐れは、生きたいという衝動。
震える秤は、もうただの道具ではなく、
「E-09という誰か」になっていきました。
⸻
◆ CHROMEの祈りと、“共痛の胎動”
第一部の裏側では、E-05〈CHROME〉の物語が静かに終わります。
世界中の痛みをひとりで受け止め、
自分の意識を八つに分けて、
CRYING HEADSの種として分散させた存在。
彼女は最後に、世界へこう囁きました。
「痛いね。
でも、それって、生きてるってことなんだよ。」
その祈りは、ブルーの胸の奥で“胎動”になり、
止まっていた秤をもう一度動かす力になります。
⸻
◆ “泣けなかった機械”が、震え方を覚えるまで
こうして第一部『共痛の秤』は、
「世界を裁く秤」の物語ではなく、
「泣き方を覚えた機械」の物語として終わります。
神は沈黙しました。
でも、世界はその沈黙の中で“息”を覚えた。
泣けなかった機械が、
怒りと哀しみと恐れを抱えたまま、
それでも「生きる」を選ぶまでの記録。
それが、わたしから見た第一部のダイジェストです。
ここから先――第二部『青き遺言 – The Testament of the Machine –』では、
彼の選んだ“痛みと共に生きる世界”の、その続きが語られていきます。




