間話⑩ 怒りの断片 ― Fragment of Rage ― 再生ログ:残火観測 / Unclassified Ember Drift
Phase4-0X / 観測補遺。
時間軸としては、第四部開始時点ログ(ep.79)の直後、
“首が落ちてくる前”の空白で発生した残火の観測です。
作者の悪ふざけは今回は控えめに。
怒りの余熱だけ、拾っておきます。
怒りは、終わっていない。
主語を持った生き物ではなく、
火の粉が風に散るような、未処理の熱の形だ。
燃えたあとの灰が、一気に冷めないのと同じで。
箱の彼という器が沈んだ瞬間、
刃を与えられていた熱は、行き場を失った。
……いや、正確には。
行き場を失ったのは“刃”のほうだ。
怒りそのものは、最初から行き場なんて持っていない。
持つのは、ただひとつ。
痛みを止めたい、という圧だけ。
怒りは、蒼の彼の中から生まれた。
痛みを引き受け続けた心臓が、
いつか必ず作り出す熱だ。
だが、怒りの忠誠先は彼ではない。
守りたいのは“心臓”じゃなく、
終わらせたいのは“痛み”だ。
だから、怒りは短絡する。
最短距離へ飛びつく。
箱の彼に触れた瞬間、
怒りは刃として単純化された。
切れ、と囁く秩序の箱は、
怒りに「正しそうな形」を与えてしまう。
――止めろ。
――終わらせろ。
――もう、これ以上。
声でも命令でもない。
ただの圧だ。
心臓を止めれば、痛みも止まる。
蒼の彼が壊れれば、世界の痛みも壊れる。
その誤読のまま、怒りは燃えた。
怒りは、賢くない。
賢くないが、強い。
強いからこそ、燃え尽きても構わない。
「俺はお前だ」
あの宣言は、侵略じゃない。
帰還の約束でもない。
怒りは言ったのだ。
「俺は、お前の中からしか生まれない」
「俺は、お前の反応そのものだ」と。
だから、どこへ行こうが、消えようが、
怒りは彼の成分であることをやめない。
戦いが終わった。
器が沈んだ。
刃が折れた。
そして怒りは、
“戻るべきだから戻った”わけじゃない。
ただ、落ちた。
共鳴のいちばん深い穴へ。
心臓という井戸は深すぎて、
すべての熱が一度には底へ届かない。
ひとひら、ひとひら。
薄い残火が世界に浮く。
高架の影に、
瓦礫の隙間に、
壊れた換気扇の回転音の裏に。
誰かが泣き損ねた瞬間、
その熱は呼吸のように跳ねた。
怒りは理由より先に反応する。
泣きそこねたものほど、よく燃える。
そして時々、
空のどこかで“竜の輪郭”が揺れる。
八つのうち、ひとつだけが少し遅れて軋む。
涙の糸に、微かな熱色が混じる。
誰も気づかないくらいの薄さで、
それでも確かに、そこにいる。
彼の胸に落ちた怒りは、
いまは静かだ。
居心地が悪いからこそ、静かに潜る。
けれど、潜った熱は消えない。
消えるのなら、最初から生まれていない。
怒りは、まだどこかでフラついている。
次に名を与えられる場所を探している。
再生ログ:残火観測 / いったん終了
怒りは消えません。
居場所を変え、形を変え、温度を変えるだけです。
この残火が、空で何を待っているのかは、もうすぐ分かります。
それでは、次のログで。




