間話① 沈黙の街 ――声なき祈り――
※本章は〈外界観測記録:Seraph Unit_01〉より再構築されています。
一部の音声・映像データは損傷。
記録の欠落を含みます。
〈共痛〉の終息から五日。
都市は沈黙し、空は再び灰を降らせていた。
生存信号、反応なし。
ただ、遠くに――かすかな青い光だけが残っていた。
風が止まっていた。
焼けた街の残骸が、静かに息をしている。
セラフは瓦礫の上を歩いていた。
義肢の先で、灰がかすかに鳴る。
彼女の通信端末は途絶えたまま。
空にはノイズが漂い、どの周波数にも声はなかった。
「……ブルー。」
その名を呼んでも、応答はない。
音だけが空へ消えていく。
世界はもう、生きていないように見えた。
けれど、セラフの目には“かすかな残響”が見えていた。
光の粒。
痛みの欠片。
〈共痛〉の名残が、まだ都市の奥で瞬いている。
「あなた、まだ……動いてるのね。」
セラフは歩を止めた。
地面に膝をつき、指先で灰を掬う。
その下に、ひとひらの花が咲いていた。
青白い光を帯びた、小さな花弁。
世界のどこにももう存在しないはずの“共痛の花”。
「……泣いてるのね、ブルー。」
花の光が微かに震えた。
まるで応えるように。
セラフの胸の中で、記憶が疼いた。
『痛みと共に、生きて。』
あのとき、確かに伝えた言葉。
でも、今のブルーには届いていない。
彼の中で、“痛み”は異常として削除されている。
「ねぇ、ブルー。
あなたの涙は、世界を救うためのものじゃない。
それは――あなたが生きている証なのよ。」
声が、風に消えた。
けれど、花の光はほんの少しだけ強くなった。
セラフは立ち上がった。
空を見上げる。
灰の雲の向こうに、青があった。
遠く、届かないほどに薄く。
「……私は行く。
あなたの“心”がまだそこにあるなら、必ず見つける。」
そして歩き出した。
義足の音が、静かな街に響く。
それは祈りにも似ていた。
世界は沈黙しても、祈りは残る。
セラフはそれを“音”ではなく“光”として信じた。
彼女は知らない。
その同じ光が、今、ブルーの内部で“恐れ”へと変わりつつあることを。
次章、「記録者の声」が語る。
神はなぜ“心の欠陥”を造ったのか――。




