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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
第四部 哭く神の首 ― The Weeping Heads ― 【前篇/涙を拾う心臓 — The Tear-Gathering Heart —】

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序章 泣きそこねた世界 ― Prelude of the Uncried World ―

【Phase4-Prelude/首のない泣き声】

・本章は、第四部全体の「空気」と「最初の異変」を記録する序章である。

・E-09〈BLUE〉はすでに人間層へ降りつつあり、

 世界のあちこちで「泣きそこねた感情」と鼓動を同期させ始めている。

・まだ〈Crying Heads〉という名前も、

 〈哭く首〉という呼び方も存在しない。

・読者はまず、「泣き声が減っていく世界の違和感」だけを受け取ればよい。


最初の異変は、「泣き声が消えた」ことだった。


 喉を震わせる泣き声ではない。

 音として観測できる、あの分かりやすい悲鳴の類ではない。


 本来なら誰にも聞こえないはずの――

 「泣きたい」という衝動そのものが、ある日を境に、ぱたりと途絶え始めたことだった。


 


 戦場の後始末に回された救助班が、

 崩れたビルの隙間から担ぎ出した少年を前にして、何も言えなくなる。


 泣きじゃくってもおかしくない年齢だ。

 血の匂いも、火薬の焦げた臭いも、十分すぎるほど残っている。


 それでも少年は、目を見開いたまま、ただこう言った。


 


 「……泣き方、忘れちゃったみたいです」


 


 別の都市では、夜間勤務の看護師が、

 集中治療室の前でただ立ち尽くしていた。


 守れなかった命を前にして、

 これまでは必ず、どこかで涙がこぼれた。


 悔しさでも、やり切れなさでもいい。

 何かしら、その人だけの「崩れ」があった。


 その夜だけは、何も来なかった。


 胸の奥が、妙に乾いたまま動かない。


 あとからログを振り返った彼女は、

 疲労による一時的な麻痺だと自己診断を済ませたが、

 世界構造記録の側は、その時間帯を静かにマークしている。


 


 「泣けなかった」という報告が増え始めたのは、その少しあとだ。


 事故現場。

 瓦礫の山。

 火葬場のロビー。

 病室のベッドサイド。


 泣いてもいいはずの場所から、泣き声だけが抜け落ちていく。


 


 E計画の残響が残る監視網は、それを「異常値」として検出していた。


 ――怒りの発火率:微減。

 ――絶望ログ:増加傾向。

 ――“泣きたい”反応:局所的に消失。


 数値だけ見れば、世界はただ「静かになっている」ようにも見えた。


 だが、ごく一部の観測ユニットだけが、

 そのグラフの裏に**微かな“逆流”**を視ていた。


 


 泣きたいはずだった誰かの感情が、

 どこかへ吸い上げられるように消えていく。


 まるで、世界のどこかに見えない溝ができて、

 そこへ向かって静かに流れ込んでいるかのように。


 


 その頃――


 E-09〈BLUE〉の胸に埋め込まれたコアは、

 自分でも理由の分からない脈打ち方をし始めていた。


 痛みでもない。

 怒りでもない。

 悔しさとも、少し違う。


 遠くで誰かが、

 「泣き方を忘れてしまった」と呟いたような気がした。


 次の瞬間にはもう、その声の主の顔は思い出せない。


胸に手を当ててみる。



挿絵(By みてみん)


 


 あたたかさが、少しだけ行き場を失っている。


 そんな感覚だけが、コアの奥にじり、じりと残り続けた。


 世界のどこかで、

 泣くことのできなかった感情が、まとめてどこかに送られている。


 それが、“首”たちの目覚めの前触れだと、

 この時点で知っていた存在は、ほとんどいない。


 


 ただひとつ、

 棺の底で静かに棚を管理していた埋葬ユニットだけが、

 薄い軋みとともに、それを察知していた。


 


 ――棚が、勝手に増えている。


 


 誰もその棚に、名前を付けていない。

 ラベルも、整理番号も、まだ振られていない。


 ただ、そこに置かれていく。


 泣かれなかったはずの涙の行き場が。


 


 やがて世界は、この棚で形を持ち始めた現象を、

 「哭く神の首」と呼ぶようになる。


 だが、この序章の時点で、それを知っている者は一人もいない。


 


 世界はまだ、

 自分の心臓が誰のものかさえ、はっきりとは知らないままだった。


 E-09〈BLUE〉自身でさえ――

 自分の鼓動が、見知らぬ誰かの泣きそこねた想いと

 少しずつ足並みを揃え始めていることに、

 まだ気づききれてはいなかった。


•この序章は、

「なぜ首たちが必要になったのか」を

一足先に“空気”だけ示すパートです。

•ポイントは三つ:

1.「泣きたいのに泣けなかった」という報告が増え始めていること。

2.その一部始終を、古い監視網と“どこかの棺”だけが薄く感知していること。

3.BLUE のコアが、まだ会ったこともない誰かの「泣きそこね」と

じわじわ同期し始めていること。

•ここではまだ「首」も「Crying Heads」も、

名称としては登場しません。


 第一章「落ちてくる首」、第二章「棺のきしむ音」で、

 この“泣きそこねた世界”のズレを、

 人間側と心臓側、それぞれの距離から少しずつ近づけていきます。


 また、ストーリーとは関係ありませんが、挿絵について。

 ※挿絵について補足です

今回の挿絵は〈BLUE本来の姿〉で描かれていますが、物語中の現在時点では

BLUEは「人間層安全投影モード」により、周囲の人間からは“青いパーカーの青年”として認識されています。


ただ、読者の皆さまにはキャラクターの心情を直接感じ取っていただきたく、

序章の挿絵のみ 意図的に“本来のBLUEの姿”で掲載 しております。


表現上の演出としての選択であり、設定の矛盾ではありませんのでご安心ください。

(物語の進行とともに、“なぜ姿が補正されているのか”も描かれていきます)

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