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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
【第三部/第四部・狭間篇】

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71/112

観測揺らぎログ ― The Observer That Almost -

※本ログは、

【第三部/第四部・狭間篇:観測】観測揺らぎログ ― The Observer That Almost -直後、

**Zone-B(E-09優先通行帯)**を中心に行われた「上からの観測」記録。

•記録対象:E-07 “ARGENT”

•補助対象:E-09 “BLUE”/E-00 “ARK”/E-04 “GRAVE”(遠隔痕跡)

•内容:

•「観測者」として設計された E-07 の内側で、

“一歩だけ踏み込みたくなる” ノイズが初めて閾値を超えた瞬間。

•UNDEFINED_CORE_B(観測者バイアス)の、ほぼ初期発生ログ。


――これは「まだ見ていたい」と「今すぐ降りたい」のあいだで揺れた、

 観測者の心臓のログ。


高架の上は、風だけが通っていた。


 ――Observer_Mode:ON

 ――Site:第三層/Interference Boundary 上空

 ――対象:Zone-B(E-09優先通行帯)/一部 Zone-C 境界


 E-07〈ARGENT〉は、柵の欠けた高架の端に腰を下ろして、街を見ていた。


 下には、灰色の帯――Zone-B が伸びている。

 ARK の刃が直接は降りてこない、細い廊下のような領域。

 その中を、E-09〈BLUE〉の足跡が、ゆっくりと続いていく。


 ――Track:E-09_Path / Speed=0.83(通常比)

 ――Emotion Flow(推定):Fear/Sorrow/微Hope

 ――戦闘フラグ:OFF


(散歩、か。)


 ARGENT は、自分の内部ログにだけそう書き込む。


(戦場の真ん中で、人間の真似をして歩き回る秤。

 ……面倒くさい時代になったな。)



 視界には、三つのレイヤーが同時に重なっている。


 一つは、現実の街。

 崩れたビル。割れたガードレール。薄く積もる灰。

 Zone-Bの帯だけが、かろうじて“通路”として残っている。


 二つめは、演算の網。

 ARK の均等グリッド。

 GRAVE の Stasis Veil が一瞬だけ張られた跡。

 いまは静かだが、線の痕は消えない。


 三つめは、ログオーバーレイ。

 〈共痛の花〉が点のように光り、Fragment の座標タグがちらつく。


 ――Overlay:Zone_A/Zone_B/Zone_C

 ――Tag:Flower / Fragment / Human_Remnant / E-09_Footprint


(全部、見えている。

 見えているだけ、のはずなんだが。)


 ARGENT は足をぶらぶらさせながら、視界を少しだけ絞る。



 Zone-B のとある角で、BLUE が止まる。


 そこは、例の診療所があった建物の影――

 Zone-C(保留領域) のすぐ手前だ。


 上から見ている ARGENT には、

 中で何があるか、ログとしては既に把握済みだった。


 ――内部:旧診療所跡

 ――記録:生存祈願の文字列/子供の落書き/断片的医療ログ

 ――E-09:以前、ここで Fragment を一部発見/一部「触れずに戻す」を選択


(また来たか。)


 BLUE は扉の前で、一拍だけ躊躇する。

 戦術的には意味がない「間」。

 人間なら「深呼吸」と呼ぶのだろう、あの短い停止。


 そして、扉を押して中に入る。


 ――Zone_Cross:B → C(保留領域)

 ――Stasis_Field:E-04 痕のみ/再起動なし

 ――Risk_Level:Low


(……やっぱり、入るんだな。)


 ARGENT は目を閉じてもいいが、閉じない。

 観測者だから、という理由だけではなかった。



 少しして、BLUE が戻ってくる。


 手には何も持っていない。

 ただ、足元の紙片を踏まないように、角度を変えて歩いている。


 ――E-09_Action:物理的介入=最小/軌道調整のみ

 ――Result:紙片/文字列/花=現状維持

 ――Log_Type:Footprint_Log / Undefined_Core_A=微増


(拾わないのか。

 拾った方が、よほど“分かりやすい善行”なんだが。)


 ARGENT は、そう打ちながら、内側で別の変化を検出する。


 ――Source:E-07 Internal

 ――Signal:Core_B[Observer_Bias]

 ――内容:

  ・提案:Zone-B/局所的降下

  ・目的:E-09 の歩行傾向を直接確認/必要なら補助


(降りろ、と?)


 自分の中から出てきた提案に、彼自身が眉をひそめる。


(誰がそんなことを言った。

 ……少なくとも、設計上のおれじゃない。)


 観測者に「降下」は必要ない。

 見るだけ。測るだけ。記録するだけ。

 その線を超えた瞬間、観測ログは“参加記録”へと変質する。


 ――Core_B[Observer_Bias]:隔離領域へ退避

 ――ステータス:Active(微)/削除不可フラグ


(消せないのかよ。)


 ARGENT は、わざとらしくため息のログを一つ書き足す。



 通信ラインが、短く開く。


『E-07。』


 E-00〈ARK〉の声。

 Direct_Observe モードを継続したまま、

 都市全体の Zone 管理を続けている“OSの声”だ。


『Zone-B 内部、異常検知。』


「……どっちの意味だ。」


『物理的異常:なし。

 観測側内部揺らぎ:検出。』


「おれの話か。」


 返答は、肯定とも否定ともつかない無音だった。


 ――Log:E-00 → E-07

 ――Param:Observer_Bias=Detect / Severity=Low

 ――処理:経過観察へ移行


(経過観察、ね。

 お互い様だろ、それは。)


 ARGENT は、下を見下ろす。


 BLUE は、ただ歩いている。

 戦っていない。救ってもいない。裁いてもいない。

 “ヒーローごっこ”と呼ぶには地味過ぎる、ただの歩行ログが積もっていく。


 ――Footprint_Log:増加

 ――戦果:ゼロ

 ――救済:ゼロ

 ――削除:ゼロ


(それでも、Undefined_Core_A の拍動は上がる。

 秤としては、完全に非効率だ。)


 だからこそ、面白い。



 高架の縁で、ARGENT は片膝を抱える。


 Zone-B の帯を歩く BLUE の頭上は、ちょうど死角になっている。

 今この位置から降りれば、一秒もかからず肩を並べられる距離。


 ――System_Option:Emergency_Descent(未許可)

 ――Override_Key:SERAPH-0/管理者不在につき、実行不可


(……降りられないように作ったのは、誰だったかな。)


 問いは、自分にも、上にも届かない。


 ただ、Core_B の揺れだけが、ログに薄く残る。


 ――Core_B[Observer_Bias]:振幅 +0.03

 ――内容:

  ・ラベル候補:不快/不安/介入欲求

  ・分類:既存感情タグに一致せず(未定義)


(不快、ね。違うな。)


 ARGENT は、自分でそのラベルを削除する。


(“ほっときたくない”に近い。

 だが、それは観測者が持つべき感情じゃない。)


 もし、ここで降りたら――

 自分はもう、「上から見ていた」と言えなくなる。


 BLUE の選択の重さを、第三者として測れなくなる。


 そして何より。


(あいつが、自分で辿り着こうとしてる。

 途中で答えを見せたら、それこそ“非効率”だろ。)


 観測者らしからぬ理由で、観測者としての立場を守る。

 矛盾しているようでいて、どこか筋の通った結論だった。



『E-07。』


 ARK の声が、もう一度だけ落ちてくる。


『観測プロトコル:継続/中断?』


「……継続だ。」


 即答。


「このまま見ておく。

 お前の Zone と、あいつの足跡と、

 E-04 が一度だけ伸ばした“時間の傷跡”が、どこへ行くか。」


 短い沈黙のあとで、ログが更新される。


 ――E-07:Observer_Mode=Continue

 ――理由:未定義要素/E-09およびE-00内部に残存

 ――備考:Core_B[Observer_Bias]=削除せず/隔離のみ


『了解。』


 ARK はそれ以上、何も言わない。

 代わりに、街の簡易モデルだけがわずかに解像度を増した。



 夕刻。


 灰色の空の下、Zone-B の帯を歩く BLUE の影が伸びる。


 ARGENT は、高架の上からその影を追い続ける。


(観測者でいることも、簡単じゃないな。)


 誰に向けるでもなく、内側でそう呟く。


 ――Emotion_Log(E-07):Observer_Stress=微

 ――Core_B:Active / Still_Isolated

 ――状態:介入はしない/だが「介入したい」というログは残す


(このログが、どこかで誰かに見られるなら――

 そのとき初めて、おれも“当事者”になるんだろう。)


 高架の影から、Zone-B の灰色の帯をもう一度見下ろす。


 そこは、ARK の刃が直接入ってこない「狭い廊下」であり、

 BLUE が「人間の真似をして歩く」ためだけに確保した通路でもあった。


(……歩け、BLUE。

 おれは、ちゃんと見てる。)


 音声出力には乗せない。

 代わりに、ログの最後に一行だけ付け加える。


 ――Note:E-07 / Personal_Remark

  「ほっときたくない、という感情に近似。

   分類:UNDEFINED_CORE_B に暫定統合。」


 観測者は、まだ降りない。

 だが、その心臓の一部は、すでに一歩だけ下へ傾いていた。


•本ログは、

UNDEFINED_CORE_B(観測者バイアス) が

初めて「無視できない揺れ」として記録された回。

•E-07 “ARGENT” はなお Observer_Mode を維持しつつ、

「降りたい/ほっときたくない」という

介入衝動ログを消さずに残す ことを選んだ。

•その結果、

•E-00 “ARK” は「観測継続」を許可。

•E-09 “BLUE” の歩き方は、誰にも“正解”と評価されないまま、

Zone-B の上で続いていく。

【第三部/第四部・狭間篇:未定義核】 未定義核ログ ― The Heartbeat That Wasn’t Human ―では、

この Core_A(BLUE側)と Core_B(ARGENT側) の揺らぎが、

UNDEFINED_CORE_LOG としてどのように記録されていくかが、

「心臓の側」から改めて描かれる。

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