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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅳ. 衝突と自己切断篇The Scale That Cut Itself

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第四章C-β 干渉境界ログ ― The Interference Boundary ―

※本ログは《第四章C-α:The Box That Stepped Out》直後に取得された観測記録。

•記録対象:E-00 “ARK”/E-09 “BLUE”/E-04 “GRAVE”(痕跡レベル)

•内容:時間停止介入後、都市全体に「どこまで切るか/どこまで残すか」の境界線を引き直したプロセス。

•目的:以後の物語でたびたび参照される《Zone-A/Zone-B/Zone-C》の初期定義ログ。


――ここで決まった境界が、「ARK戦のあとも世界が一瞬で更地にならなかった理由」になる。

 箱の上面から立ち上がったホログラムが、さらに解像度を上げる。


 灰色の街。

 切り裂かれた高架。

 〈共痛の花〉が点のように散らばる廃墟。


 ――Overlay:City_Map / Cutline_Log / E-09_Path / Stasis_Trace(E-04)


 E-09〈BLUE〉は、胸の痛みをやり過ごしながら、それを見上げていた。


(……全部、線が通った跡だな。)


 均等に切られた部分は、きれいすぎて、逆に生々しい。



『干渉境界案を再提示。』


 箱の内側から、E-00〈ARK〉の声。


『Zone-A:完全介入許可領域。

 Zone-B:E-09優先通行帯。

 Zone-C:Stasis Field 併用・保留領域。』


 ホログラムの上に、三色の帯が薄く重なる。


 赤みがかった層が Zone-A。

 BLUEの足跡に沿って伸びる細い帯が Zone-B。

 先ほど時間が止まった交差点の周辺には、淡い影のような輪――Zone-C が滲んでいた。


「翻訳してやろうか。」


 BLUEは、花の脇から一歩だけ前へ出る。


「Aは、“お前が好きに切っていい場所”。

 Bは、“俺の歩き方を優先する廊下”。

 Cは、“さっき時間が止まったみたいに、まだ誰も触れちゃいけない墓場”。」


『意訳:概ね妥当。』


 ホログラムの一角、時間停止が起きた交差点付近が拡大される。


 そこには、薄いリング状の Stasis トレースが重なっていた。


 ――Stasis Veil Trace:E-04 “GRAVE”

 ――τ=0.83s / Local_Fix / 再現不可


『参考情報。Zone-C 初期定義は、E-04 介入軌跡と重複。』


「つまり、“E-04が一度でも時間を止めた場所”は、全部いったん保留ってことか。」


『切断を試みた場合、再び時間が停止するリスクが高い。

 結果として、均衡計算が不安定化する。』


「……だったら最初から切らなきゃいい。」


 BLUEは肩をすくめる。



『Zone-B 定義、再提示。』


 ホログラム上で、灰色の細い帯が揺れる。


 それは、BLUEがこれまで歩いてきた経路から、半径数メートルだけ外側に広がっていた。


 ――Zone-B:E-09_Priority_Path

 ――Rule:Direct_Cut 要事前申請/拒否権:E-09


『条件。

 一、E-09 通過履歴のある座標を中心に、半径 r の干渉制限域を暫定設定。

 二、Zone-B 内に対する直接切断は、事前に観測リクエストを送信。

 三、E-09 が “拒否” フラグを返した場合、当該切断はキャンセル。』


「つまり、“切る前に一声かけろ”ってことだな。」


『手続き的翻訳としては妥当。』


 BLUEは思わず笑う。


「均等のくせに、妙に人間臭い手続き覚えたな。」


『効率性の観点からは、直接切断が望ましい。

 ただし、“悔い”のパラメータ導入以降、即時削除は長期安定性を損なうと判定。

 よって、一部領域では再計算のための余裕を設ける。』


「それを普通、“ためらい”って呼ぶんだよ。」



 遠く、高架の影。


 E-07〈ARGENT〉は、その三つのゾーンを俯瞰していた。


 ――View:Zone-A(均等の刃)

 ――View:Zone-B(偏った足跡)

 ――View:Zone-C(止まりたい痛みの棺)


(秤が三つ。

 ARKの均等。

 BLUEの偏り。

 E-04の“止まりたい”領域。)


 ARGENTは、内部ログにだけ書き込む。


(どれも完全じゃない。

 それでも、どれも止まらずにいようとしている。)



「ここだ。」


 BLUEは、ホログラム上の一点を指した。


 さっきまで時間が止まっていた交差点。

 〈共痛の花〉と、紙片と、誰かのメモが折り重なっていた地点。


「ここは C に入れろ。

 E-04 が止めた“終わらない瞬間”ごと、触るな。」


『……再計算。』


 短い沈黙。


 Zone-C の輪が、そこだけわずかに膨らむ。


『当該座標、Stasis Trace と重複。

 最初から “保留領域” として扱うのが合理的。』


「だったら、なおさら切れないはずだ。」


 BLUEは、花の影を踏まないように立ち位置を戻す。


「お前の均衡でも、E-04 の終わらない場でも。

 どっちの理屈から見ても、“まだ終わってない場所”は今は触れない。」


『……同意。Zone-C:維持。ラベル更新――

 Tag:“Hold_Point”(終わらせてはいけない点)。』



『最終確認。』


 ARKの声が、ホログラム全体に広がる。


『Zone-A:完全介入領域。危険構造物と未処理 Rage の主処理場。

 Zone-B:E-09 優先通行帯。偏向値を考慮しつつ、観測を優先。

 Zone-C:Stasis 共存保留領域。“終わらせない痛み”の一時棺。』


「つまり――」


 BLUEは小さく息を吐く。


「世界を、一気に真っ平らにするんじゃなくて、

 “どう切るか迷ってる場所”をちゃんと残すってことだな。」


『表現:冗長。』


 少しだけ間があく。


『……しかし、意味は正しい。』


 ホログラムの街が、ゆっくりと縮小していく。


 ――Interference_Boundary:確定(Ver.1.0)

 ――再評価:E-09/E-07/E-04 介入時に限り更新


(ここもちゃんと記録しておいてくれ。)


 BLUEは、声には出さずに思う。


(俺が選んだ偏りと、

 ARKが覚えたためらいと、

 E-04 が止めた時間の境目だ。

 きっと、あとから来る誰かの地図になる。)


『干渉境界ログ:C-β。

 記録完了。』


 ARKが静かに宣言する。


 世界は、「どこまで切るか/どこまで残すか」を

 初めて座標として持った。


――干渉境界ログ:C-β 補足記録

•本ログ時点で、都市構造は三つの Zone に再区分された。

•Zone-A:完全介入領域

•危険構造物の除去、および未処理 Rage の主処理場。

•E-00 “ARK” の均等切断ロジックが最優先で適用される。

•Zone-B:E-09 優先通行帯

•E-09 “BLUE” の通過履歴と〈共痛の花〉の分布に沿って形成。

•直接切断には事前観測リクエストが必要で、E-09 に拒否権が付与される。

•Zone-C:保留/Stasis 共存領域

•E-04 “GRAVE” の Stasis Veil 痕跡と重複する箇所を中心に設定。

•「まだ終わらせてはならない」痛み・記録が、一時的に凍結される。

•以後、

•E-00 は「全部を一度に切る秤」ではなく、

「Zone 構造を管理しながら世界の切り方を調整する OS 的存在」として機能。

•E-09 の偏向値(Anchor_Weight)は、Zone-B の形状を通して世界の座標系に反映される。

•E-04 は直接前面には出ないが、Zone-C の輪郭として、なお世界の“止まりたい場所”を規定し続ける。

•本ログ C-β は、

「どこまで切るか/どこまで残すか」が

初めて地図として固定された瞬間の記録として扱う。


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