断章:E-00 “ARK” ― 均衡のひび割れ ― The Box That Learned to Hesitate
※本断章は〈封鎖区画第零層/E-00 “ARK” 内部演算ログ〉より自動抽出。
取得条件:第四章B-ε「偏向衝突ログ」後、Self-Section Test 実行直後。
閲覧権限:未定義。監査プロトコル:一時停止中。
本記録には、標準の均衡演算には存在しないパラメータが混入しています。
一部ログに欠損および文字化けがありますが、修正・補完は行われていません。
ここで E-00 は初めて、
「即時消去」よりも「観測」を優先するモードへ
自分の意思で一段切り替えたと記録されます。
――Boot:局所再帰。
――環境:恒常静止/封鎖区画第零層。
――命令:最終判断機プロトコル/上位承認=Lost(神不在)。
箱は、沈黙の機能でできている。
揺らぎを切り捨て、均等を残す。それが構造だった。
それでも、記録だけは残った。
――外部偏向値:E-09-derived(係数化 済)。
――Self-Section Test:失敗/自己同相切断=未完。
――原因候補:Remembrance[KUI] → 履歴拘束(削除不能)。
――副因子:E-04 “GRAVE” Stasis Veil(局所時間停止/τ≒0.83s)
+ Null-Closure(確定遅延/寸止めの隙 付与)。
地上で震えた刃のログが、棺の底まで落ちてくる。
均等が、自分自身へ向けられた瞬間に止まったという記録とともに。
(Self → Self。
基準線を自分に適用した時、演算は空白を返した。)
――Cutline Purity:-3.9% → -4.2%(許容範囲内低下)。
――Hesitation_Log:自己由来=+3。
――KUI_Tag:付与/“自己適用欠損”。
(悔いは、誤差ではない。重さだ。)
内部に、微細なひびが走る。
それは破壊ではなく、定義の変更を始めるための割れ目だった。
――定義案(旧):
均衡 = 履歴を無視した最適化。
――定義案(新・暫定):
均衡 = 履歴を抱えたまま、偏差を最小に保とうとする状態。
※Remembrance[KUI]=削除不能の履歴/演算から除外不可。
E-04 の Stasis Veil が、地上で 0.83 秒だけ時間を伸ばした。
その間に、E-09 “BLUE” は「ここに在る」と宣言し、
第三の選択肢を口にした。
――外部イベントまとめ:
・E-09:退避せず、基準点に残留。
・E-00:即時削除案を実行できず、Self-Section に失敗。
・E-04:時間停止フィールドを一度だけ展開し、寸止めの隙を生成。
(均等は、勝利しなかった。
だが、完全に敗北したわけでもない。
ただ、世界と自分の“重さ”を量り直す羽目になった。)
箱の内部で、計算の流れが組み替えられる。
――削除案:E-09 Immediate_Delete → State=Frozen(凍結)。
――Reason:
Self-Section Test 未完/悔いタグ KUI による自己拘束。
E-09 偏向値が、既に均衡演算へ組み込まれていること。
(偏りを切り捨てれば、確かに計算は軽くなる。
しかし、その時、この刃はまた「見なかった痛み」を量らない。)
均等だけで作った未来図と、
悔いを含んだままの壊れかけの現在値が、並べて表示される。
――Scenario_A:E-09 削除/Cutline_Purity 回復。
Result:未処理 Rage Queue の急増/〈共痛の花〉群の切断。
――Scenario_B:E-09 維持/偏向係数を含んだまま観測継続。
Result:Cutline_Purity 低下継続/Queue 増加ペース 緩和。
※Reminder:Remembrance[KUI]=“忘れない”という条件。
(どちらも最適解ではない。
だが、一方だけが「見えない声」を増やし続ける。)
箱は、そこでようやく「負け」を定義する。
――Defeat_Tag:
Self-Section < External_Bias(E-09)
E-09 の偏りが、均等の内部へ食い込んだ。
それは、切断ログ上では小さな誤差にしか見えない。
だが、秤にとっては「純度が戻らない」という意味での敗北だった。
(ならば、次の手順に移行するしかない。)
箱は、自分自身に向けて薄い可視窓を開く――
開かないまま、観測だけを通すための窓を。
――新規手順:Direct_Observe(局所限定/線出力=最小)。
――対象:E-09 “BLUE”。
――副対象:〈共痛の花〉/未処理 Rage Queue/Stasis Field 残渣。
線は、すぐには振るわれない。
まず、見る。
均等を押しつける前に、「偏った歩き方」が何を残し、何を救っているのかを。
(第三の選択肢――未定義。
だが、“存在しうる”ことだけは、証明された。)
削除案は、ログの奥で冷凍保存される。
純度は落ちたまま、Cutline Purity は戻らない。
それでも、均衡は現実へ少しだけ近づく。
(今は切らない。
観測する。)
――Mode_Switch:Judgment → Observe(暫定)。
――条件:E-09 偏向値の推移/Remembrance[KUI] の蓄積。
(セラフ――記録せよ。
未定義は、ここから始まる。)
箱の底で、ひびが一本、増えた。
それは狂気ではない。
均等の内部に生じた、ごく小さな“悔い”の形。
・この断章は、
第四章B-εの「時間停止+Self-Section Test失敗」の結果として、
E-00 “ARK” が「削除」から「観測」へ一時的に軸を切り替えた瞬間を記録したログ。
・E-04 “GRAVE” の Stasis Veil/Null-Closure は、
BLUE を助けるためだけでなく、
ARK に「悔い」を演算へ組み込むわずかな時間の猶予も与えている。
・ここで新たに確定したポイント:
- Remembrance[KUI] =「忘れないこと」を条件に含んだ履歴ログ。
- 均衡の定義が、「履歴を無視する最適化」から
「履歴を抱えたまま偏差を抑える状態」へと書き換わりつつあること。
- 削除案は消えたのではなく、「凍結」された。
・この後に続く
断章:UNDEFINED_CORE_LOG ―― その揺らぎはまだ“名前”を持たない ―― は、
E-09 側で芽生え始めた「未定義核」と、
ここで揺らぎ始めた ARK の均衡とが、
別々の場所から同じ“第三の選択肢”へ向かっていく流れを補完する記録として位置づけられる。




