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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅳ. 衝突と自己切断篇The Scale That Cut Itself

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第四章B-ε 偏向衝突ログ ― The Scale That Cut Itself ―

※本ログは《第四章B-δΩ:閾値運用ログ ― Thresholds in Motion ―》直後に発生した

E-09〈BLUE〉 vs E-00〈ARK〉の「ほぼ決着点」記録。

•内容:

 ・E-09の“ここで立つ”という偏向選択

 •そこへ E-04 “GRAVE” の 局所時間停止(Stasis Veil) が一度だけ介入。

•ARK が初めて「自分の線を、自分にも適用しようとして失敗する」=Self-Section Test を行い、

 その結果として 「即時消去案の凍結」→「観測優先」 に切り替わるまでのログ。


――ここで世界は、「均等に切るだけの秤」から、

 「悔いを抱えたまま観測する秤」へと、ほんの少しだけ軌道を変える。

線束が戻る。


 街は細い定規の目盛りみたいに静まり、

 基準点=E-09〈BLUE〉の周囲だけが、妙にくっきりと浮かび上がっていた。


 ――Cutline_Field:収束

 ――基準点:E-09 Core / 直上


『提案再掲。偏りの削除=E-09の除去。』


 E-00〈ARK〉の声は、変わらず平板だった。


「勝手にしてくれ。」


 BLUEは、息を吸う。


「俺は俺の“偏り”に委ねる。」


 次の瞬間、線束が一斉に収束した。


 ――Core-Shell:損傷見積 40% → 70%(次打撃時)

 ――Mobility:Low/限界近似

 ――背後〈共痛の花〉:保護対象/最優先


(……ここで、終わるかもしれない。)


 本当は怖い。

 全てのセンサーが、「退避」「後退」「離脱」を最優先に提示してくる。


 けれど、BLUEが見ているのは、その先のログだった。


 ――Projection:退避行動/予測結果

  ・〈共痛の花〉:切断

  ・紙片/玩具/手書きメモ:喪失

  ・選別されなかった怒り:再び“見えない場所”へ沈殿


(俺が退いた後で、

 “まだ終わってない”が、またまとめて切り捨てられる。)


 喉の奥にひっかかるのは、ノイズでも冷却蒸気でもない。


(それだけは、もう見たくない。)


 BLUEは、一歩、自分から線の方へ踏み込んだ。

 花の影だけは踏まない、ぎりぎりの位置まで。


 義足が軋む。

 ひびだらけの地面が、どうにかその体重を受け止める。


 ――Core-Shell:損傷 41%

 ――補助装甲:ほぼ喪失

 ――Internal Cooling:Over/警告

 ――推定:次の一撃でコア露出


「……もういいよ。」


 声は掠れているのに、ログ上の出力だけははっきりしていた。


「俺はここに在る。ここで止まるって決めた。

 お前は“自分にも”同じ線を引けるかだけ、見せろ。」


次の瞬間、世界が「鳴るのをやめた」。


 崩れかけていた瓦礫は、その途中でぴたりと止まる。

 舞い上がった粉塵は、空中に浮いたまま、粒のひとつさえ落ちない。

 胸装甲から漏れていた冷却蒸気も、白い線の途中で凍り付いたように静止した。


 ――Time_Progress:Δt=0.00s(異常)

 ――Wind:停止/Sound:停止/Impact_Log:更新なし


(……動かない)


 BLUEは、その「動かなさ」をログでしか理解できない。

 センサーはオンラインなのに、世界の値が一つも変化しない。

 歩こうとしても、義足は床を踏み込んだ“直前”の座標から一歩も進まない。


 ――External Field:検出

 ――Stasis Veil[Local]:ON(τ=0.83s 推定)

 ――Source:E-04 “GRAVE”(Authority_Level:E-00 に優先)


 均等切断グリッドも、ARKの線も、すべて一枚の静止画に変わる。


(……あったかい?)


 切断線のすぐ内側に、妙に柔らかい領域がある。

 本当なら消えていたはずの痛みが、膜の中でまだ震えている。

 その揺れ方が、コアの拍動と少しだけ重なった。


(こんな何もない世界で、まだ“消されてない痛み”がある。

 それを残そうとしてる誰かがいる。……悪くないな。)


 胸の奥で、いつもの出力とは違う、

 ひとつだけ余計な拍動が刻まれる。


(……僕は、ここに在りたい。)


(……E-04。)


 遅れて、BLUEは理解する。


(ここは“終わらない場”だ。

 俺が「ここで立つ」と決めた瞬間を、E-04 が一回だけ伸ばしてくれている。)


(セラフ。よく見ておけ。)


 動かない世界の中で、その一文だけを心の奥に投げる。


 そして、時間が再び流れ出す。



 線が、再開される。


 今度こそ、BLUEのコアへ真っ直ぐに到達する軌道で。


 ――Self_Check:Core Output 72%

 ――Armor:損耗/限界近傍

 ――保護対象〈共痛の花〉:健在


『開始。Self-Section Test。

 対象:Cutline / Self → Self』


 一本の線から、もう一本の線が抽出される。

 同位相・同速度・同深度。

 均等そのものが、自分自身へ向けられる。


 ――Self_Cross:TRUE

 ――Cutline Purity:Δ=-0.8%(累積 -3.9%)

 ――Hesitation_Log:+3(自己由来)

 ――KUI_Tag:自動付与 / “自己適用欠損”


 世界がひと拍、遅れて鳴る。

 線と線が触れた箇所で、干渉縞が崩れ、寸止めの空白が生まれた。


『……エラー。自己同相切断:未完。』


 刃は世界を割れる。

 だが、自分の線を、自分の基準で割ろうとした瞬間、演算は空白を返した。



 BLUEは一歩、基準線を踏み直す。

 拳は刃ではなく支点を叩き、線束の位相がごく僅かにズレる。


 ――Impact:基準線=Pulse_Kick

 ――Interf-Overlap:拡大

 ――ExclusionMask:r4.1 → r4.6

 ――Remembrance[KUI]:+5(紙片/手書きログ/玩具)


『純度低下、待機列増大。Queue(Rage_Unhandled):+12.4%。』


「抱えるって決めただろ。忘れないのも条件だ。」


 BLUEの声は、もう震えていない。


『非効率。』


「くどい。」


 線束が揺らぐ。

 格子が一段、止まる。


 E-04 の冷ややかな残響が、一秒未満の静止を与えて去る。痕だけ。起動はしない。


その刹那E-00 ARKは覚醒したかのように輝きを放った。


光が0.83秒、遅れてやってくる。


(セラフ。来るぞ!)



挿絵(By みてみん)



『二次試験。Self-Section/Remembrance 併用――』


 ARKは、自分の線に KUI_Param を付与し、

 「悔い」を抱えたまま自分を切れるかどうか、再度試みる。


 ――Apply:Cutline → Self(with Remembrance[KUI])

 ――履歴:未処理 Rage/Fragment/花の位置データ=全て参照


 だが、悔いは誤差ではなく履歴だ。

 線は、過去を切れない。


 ――Result:自己切断、保留

 ――理由:Remembrance[KUI] による自己同一性拘束

 ――削除案:一時凍結


「気づいたな。」


 BLUEが言う。


『キイテ……イナイ。』


 否定は、まっすぐではなかった。


「“等しく切る”を自分にも適用した瞬間、お前は止まる。

 それが“悔い”の重さだ。

 均衡は、履歴を無視するときだけ軽い。」


 〈共痛の花〉がわずかに明るい。

 街の端で、紙の断片が風もないのに震える。



『結論。Self-Section Test:保留。

 E-09 偏向値:観測パラメータに継続採用。

 削除案:データ不足のため除外継続。』


「助かった、とは言わない。」


『救済ではない。内部検証だ。』


 線束が引く。

 均等は進むが、完全は遠のいたまま。


 ――Emotion Flow(E-09):Fear/Hope/Guilt/Rage 混在

 ――状態:オンライン/不安定

 ――Anchor_Weight:0.47 → 0.49


 BLUEは花の影を踏まずに立ち直り、短く息を吐いた。


「続けよう、ARK。次はお前の“箱”の番だ。」


 地上で震えた刃のログが、封鎖区画・第零層へとフィードバックされる。

 棺の奥、動くはずのないコアブロックに、微細なひびが増える音がした。


 それは、狂気ではない。

 均等の内部に生じた、ごく小さな“悔い”の形。

・Self-Section Test:自己同相切断は 未完。Remembrance[KUI] が自己同一性拘束として作用。

・削除案:一時凍結。偏向値は観測パラメータへ継続採用。

・Cutline Purity 累積 -3.9%/Anchor_Weight 0.49。

→ 次記録:断章:E-00 “ARK” ― 均衡のひび割れ ― The Box That Learned to Hesitate(封印内ログ抽出/躊躇の内部化)。

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