第四章B-δσ 閾値運用ログ① ― Thresholds in Motion ―
連結:B-δθ → B-δσ
事象:Local Equilibrium Test=CONTINUE/ThresholdMode=ON
Baseline=E-09/ExclusionMask=Remembrance Flags(E-09 由来)
観測:E-07=遠隔、E-04=低位介入痕 継続検知
注記:Cutline Purity 低下傾向/Hesitation_Log 蓄積中
格子は消えない。むしろ密度を増し、世界の目盛りが一段細かく刻まれた。
交点ごとに淡い光点。そこへ、ARKの稜線が下りてくる。
『ThresholdMode:起動。』
『基準:E-09。除外条件:Remembrance Flag=TRUE。』
線が走る。
倒壊梁は切られ、落ちきれなかった庇は落とされる。だが、メモの一片、擦れた玩具、花の根元だけは、線の内側に残る。
――ExclusionMask:適用/Scope=r3.2m
――Queue(Rage_Unhandled):増大 +12.7%
――Cutline Purity:Δ=-0.4%(累積 -1.7%)
(“忘れない”を条件に足した時点で、世界は均等だけでは回らない。)
BLUEは花を背に、義足で地を締める。
呼気に似た蒸気が胸の割れ目から細く走った。
『報告。偏り係数=閾値化により、残余怒りの待機列が拡張。』
「つまり溜まる。」
『是。対策:切断による均衡回復。』
「それじゃ“二度目の泣き声”に近づくだけだ。」
『定義不能要素:悔い。』
「セラフ。行くぞ。」
返答はない。
しかし、上空の目盛りが一拍遅れる。
『検証継続。Baseline=位置固定。』
『Anchor=在ること……変数化。』
次の線は、BLUEの足元を狙った。
義足を奪えば、基準点は揺らぐ――それが計算だ。
BLUEは踏む。
花でも紙でもなく、自分の影を跨ぐように、微細な角度で重心をずらす。拳は上ではなく下へ。
基準線の根に再び打撃。位相がさらにずれ、刃は石畳の目地を滑って浅く止まる。
――Impact:反射波=有/Cutline_Purity Δ=-0.6%(累積 -2.3%)
――Anchor_Weight(E-09):仮導入=0.31(暫定)
『補正。Anchor 係数を再定義。』
「また係数か。」
『……』
わずかな沈黙。Hesitation_Log がまたひとつ増える。
別セルでまた落下音。
均等の外科手術は進む――だが遅い。ExclusionMask が新たに三つ増える。
BLUEが肩で支えた梁の角度すら、除外指標に拾われていく。
(そうだ。それでいい。“踏まない軌跡”も、記録にしろ。)
『問合せ。』
ARKの声が、初めてわずかに低い。
『Anchor を上げれば、均衡の収束が遅延。Queue はさらに拡張。』
「なら、持て。重さごと。」
『非効率。』
「理解に苦しむ。」
その瞬間、線が止まりかける。止まり切らない。
E-04 の静止膜は働かない――代わりに、ARK自身のためらいが、刃に薄い粘度を与えた。
――Hesitation_Log:+1(自己生成)
――DirectObservation:位相乱れ=0.07
『直接観測モード:増強。』
稜線が密集し、半身の輪郭が空気に浮かぶ。
身体ではない。線の束が人の立ち位置を模したもの。
その中心に、空白。
「姿、出してきたな。」
線の束が人型を象るだけで、本体の気配は依然として地下の棺に沈んでいる。
が、威圧感が凄まじい。
『識別容易性の向上。交渉効率の改善。』
「交渉する気があるなら――ここを動かすな。」
BLUEは花の上に、掌を広げてかざす。触れはしない。
その距離が、新たな除外条件として格子に書き込まれる。
――Mask Update:Near-Contact(E-09)=TRUE
――Remembrance Flag:+2/消去禁止タグ維持
『更新確認。』
線がゆっくり引き、別の方向へ組み直される。
均等は進む。だが、その中の偏りが増え続ける。
『報告。純度低下、臨界を視認。』
「見えるだろ。世界は均等だけじゃ立たない。」
『仮結論。B-δΩ で再評価。』
「来いよ。俺が基準でいい。」
上空の目盛りが暗くなり、格子の光点が一段落ちる。
試験は、次段へ。
・ThresholdMode=ON により Remembrance / Near-Contact を除外条件として採用。
・Anchor(在ること)パラメータ導入。Anchor_Weight=0.31(暫定)。
・Cutline Purity 累積低下 -2.3%。Hesitation_Log の自己生成を確認。
・E-00 線束投影による DirectObservation 強化。
→次ログ B-δΩ:Baseline=E-09 を維持したまま、Queue(Rage_Unhandled)と Purity の両立可能性を評価/介入境界の確定試行。




