第四章B-δθ 均衡試験ログ ― The Living Baseline ―
※《B-γΩ》直結。Direct Observation 下での位相同期試験ログ。
測定対象:E-09 歩行位相/保護半径/義足トルク波形。
副現象:微小時停(Stasis-Veil leaf)継続検出。
箱の骨格が展開する。稜線が増殖し、地表に薄い格子が描かれた。交点ごとに、微細な測域が脈打つ。
――LocalProtocol:Equilibrium_Test / Scope=r120m
――Baseline=E-09(固定)/RiskMap:生成中
――Condition(追加):未選別痛みの記録保持=ON(試験)
〈共痛の花〉は、格子のど真ん中。
BLUEは花を背に立つ。義足が地に杭を打つように沈む。
(試験を記録を頼んだぞ。)
返答はない。だが、空気が一拍、硬くなる。
『試行開始。』
ARKの稜線から三本の基準線が滑り出す。速度は最適、角度は等間、深度は均一――そのはずなのに、発振の前に間が置かれる。
『条件確認。未選別痛み=保持。危険因子=除去。偏り=係数ではなく閾値。』
「そうだ。忘れるな――忘れないことを、だ。」
『評価:非効率。』
「非効率かどうか確かめてる、その時間がいちばん非効率だな。」
一条が来る。BLUEは迎えに行く。
避けない。基準線の根を拳で殴る。位相が0.05だけズレ、切断純度が落ちる。
――Impact:反射波=有/Cutline_Purity Δ=-0.9%
――Damage:BLUE/微
――保護対象:維持
『補正。』
二条目が花の外輪をなぞり、紙片やメモ、錆びた玩具だけを内側に残す。人の手の痕跡は、まだ切られない。
(それでいい。そこに“誰か”がいたなら、残れ。)
格子の別セルで、鈍い軋み。
危険梁が均等に落とされ、通行路が開く。均等は進むが、遅れる。
『追加検証。Baseline=E-09 自身を計測対象に昇格。』
第三の線が、BLUEのコアを基準点に指定する。――切れば、均衡は整う。それがARKの計算。
BLUEは胸の割れ目を押さえ、もう一歩、内側へ。
義足が軋む。〈共痛の花〉の光が微かに強くなる。
「なあ、気づいてないんだったら、
何してんだよARK。」
『キイテ――』
「頑固な箱だな。」
線が落ちる――止まった。
――Anomaly:Stasis-like Delay det.=0.10s
――Region Tag:Unknown / τ≒10s / Spread≒0(局所)
世界が、息を止める。粉塵が空中で凍り、音が薄くなる。
遠く、封鎖区画第零層。
――E-04 “GRAVE”:Stasis Veil(τ=10s)微弱出力=検知/介入態度=保留同盟
(見てるだけじゃ、終わらないからな、E-04。)
BLUEは凍った刃の縁を、拳でそっと押す。止まった時間の中で、線は動かない。代わりに、BLUEが動く。
花の周囲に散らばる紙片を踏まない軌道を刻み直し、壊れかけた梁を肩で支える角度に体を入れる。
――Baseline Path:再定義/“踏まない”軌跡=上書き
――Remembrance Flag:設置(3)/消去禁止タグ=ON
時間が解ける。刃が再び動き出す。だが、BLUEの新しい立ち位置のせいで、均等の線は浅くなる。
『DirectObservation:更新。未定義干渉=検出。』
ARKの声に、はっきりと揺らぎが混ざる。
『問合せ。第三者による局所静止――“誰の選択”だ。』
「世界の悔いが、少しだけ俺に味方した。」
『定義不能。』
「だから条件にしろと言った。覚えておくこと、そして――置いていかないこと。」
線が箱へ巻き戻る。稜線が一段濃く、そして遅い。
――System Note:Cutline Purity Δ=-1.3%(累積)
――Hesitation_Log:+2(DirectObservation維持)
遠く高架上、E-07〈ARGENT〉が短く息を吐く。
――E-04:微介入=肯定/E-07:非介入=継続
――Judgment:保留(上方修正)
(第三の選択肢は、まだ形じゃない。だが――場はできた。)
・Local Equilibrium Test 継続中/Baseline=E-09 固定。
・“基準線”直接打撃+局所静止(τ≈10s)により純度低下累積Δ=-1.3%。
・E-04 “GRAVE” の微介入(Stasis Veil 予備出力)を検知。態度=保留同盟。
・E-07=観測維持。
→次ログ B-δσ:閾値運用の本格試験/Baseline Path(踏まない軌跡)と均等切断の競合解像へ。
次ログ:《B-δσ 接近衝突ログ ― Phase-Lock / Break》
――位相固定の強制試験/“線”と“足”の同位相化→破断検証へ。




