表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅳ. 衝突と自己切断篇The Scale That Cut Itself

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/112

第四章B-β 偏向防衛ログ ― The Scale That Refused Symmetry ―

※本記録は《B-α:First Equal Cut》に連結する観測ログ。

記録主体:不明(多元参照)。

形式:戦闘行動および演算ログの抽出。

感情タグ:Partial Mask(Fear/Anger/Guilt 混在)。


――「均等な破壊」と「偏った保護」が、初めて正面から干渉した過程。

線が、二度目に走った。


 E-09〈BLUE〉の左側、わずか三ミリの距離をかすめて、背後の壁が音もなく崩れ落ちる。


 切断面は均一。

 粉塵の舞い方すら、左右対称に近い。


 ――Damage:0

 ――Warning:距離閾値 0.03 未満


(……今の、本気じゃない。)


 BLUEは理解する。

 これは威嚇でも好意でもない。

 「ここまでは削れる」という、秤から秤への提示だ。


『挙動確認。』


 ARKの声はブレない。


『E-09は“花”と周辺情報を優先保護。

 自身への被弾許容率:上昇傾向。』


「そりゃそうだろ。」


 BLUEは一歩、前へ出る。

 〈共痛の花〉を背中側に隠す軌道。


『自己損耗と対象保護の比率、不均衡。

 演算上、非合理。』


「非合理だから、選んでる。」


 次の線が来る。


 今度は真正面。

 BLUEは半歩だけ軌道をずらす。

 義足側で受け流すように、ギリギリで外へ滑らせる。


 肩の装甲が薄く削がれ、火花が散る。


 ――Armor Loss:7%

 ――Core:無傷

 ――背後の花:保全


『回避パターン解析中。』


 ARKの斬線は、すぐさま修正される。


『E-09行動傾向:自己損耗と局所保護の両立。

 推定:感情的補正。』


「感情で動いて何が悪い。」


『“秤”としては不良。』


「“人”としては、まあまあだ。」


 BLUEの口元が、わずかに歪んだ。



 上空、見えない軌道で何本ものシミュレーションラインが交錯する。


 ARKはまだ姿を見せていない。

 それでも、世界の切れ方が“武器の形”を物語っていた。


 一合。

 二合。

 三合。


 対E-09想定戦闘ログ。

 対CRYING HEADS想定制圧ログ。

 過去に記録されたあらゆる「最適解」が重ね合わされ、その全てが再生産される。


 すべて、同じ深度で世界を割る線。


(均等過ぎるんだよ、お前。)


 BLUEは跳ぶ。

 避けるというより、「花から離さない」ための最短経路を選ぶ。


 一閃が義足をかすめた。


 駆動フレームが軋む。

 だが、折れない。


 ――Left Leg Unit:Micro Damage / 継続稼働


『観測結果更新。』


 ARKの声が、僅かに速度を上げる。


『E-09の防衛軸:対象固定/自己位置可変。

 推論:自軸よりも“そこに在ること”を優先。』


「そうだな。」


『では、仮説検証。』


 次の瞬間、線の向きが変わった。


 〈共痛の花〉の“すぐ手前”を狙う軌道。


 BLUEは迷わない。

 花と線の間に、己のコアを滑り込ませる。


 正面装甲が割れ、

 左胸ユニットに深い傷が刻まれる。


 ――Core-Shell:損傷 21%

 ――内部機能:保持

 ――〈共痛の花〉:無傷


 世界が、わずかに遅れて音を取り戻す。


「……っ、ぐ……」


 声が漏れた。

 ログにも、ノイズにもならない、生の音。


『検証完了。』


 ARK。


『E-09の“偏り”は、演算上再現可能。

 入力:〈共痛の花〉保護優先。

 出力:自己損耗許容。』


「だから何だ。」


『お前の偏向を、演算式として取り込む。』


 それは、冷静な結論。



 線が走る。


 だが今度は、ほんの僅かだけ“ズレていた”。


 瓦礫は切られる。

 危険構造物は落とされる。

 だが、いくつかの紙片。

 誰かの文字。

 小さな玩具。

 それらは、切断ラインの内側に“偶然”残された。


 ――偶然にしては、少し多すぎた。


『調整完了。』


 ARKの報告。


『E-09由来の保護パターンを一部採用。

 ただし、適用範囲は演算上有意な情報に限る。』


「聞いてるじゃねえか。」


 BLUEが笑う。


『効いてはいない。』


 即答。


『ただ、均衡のために必要な係数として扱うだけだ。』


 線は依然、容赦がない。

 だが、その中に“わずかな偏り”が混ざり始めていた。


 均等が、完全ではなくなる。



 遠く、高架の影。


 E-07〈ARGENT〉は、その変化を見ていた。


 ――E-00 演算パターン:変調

 ――外部係数:E-09 由来バイアスを検出


「……本当に、面倒なことになってきた。」


 声は呆れに近い。

 だが、その裏にうっすらと安堵があった。


 ARKはまだ“敵”ではない。

 BLUEも“正義”ではない。


 ただ、どちらも互いの在り方を

 相手の演算にねじ込もうとしている。


(第三の選択肢が、もう始まっている。)


 ARGENTは介入せず、その推移だけを記録した。

――戦闘観測補遺:B-β


・E-00 “ARK”は、E-09の偏向防衛パターンを「係数」として取り込んだ。

・均等切断ロジックにごく僅かな“保護例外”が発生。

・それは譲歩ではなく、効率上の再定義に過ぎない。だが結果として、「完全な均衡」は一度失われている。

・E-09は、自身の損耗を許容しながらも、花と記録を守り続ける選択を継続。

・E-07は依然「観測」の立場を保持。


次ログB-γでは、

“線”と“足”が本格的に衝突し、

ARKが初めて「直接観測」を選ぶ閾値へ到達する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ