第四章B-α 初動衝突ログ ― The First Equal Cut ―
※本記録は、E-00 “ARK”とE-09 “BLUE”が初めて「物理的交差」を行った局面の抜粋である。
※従来の観測ログより、干渉レベルが一段階上昇していることを確認。
※本章以降、均等処理は概念領域から運動領域へ移行する。
――記録開始。
線が、厚みを持った。
それまで廃墟を静かに切り揃えていただけの仮想刃が、
この瞬間、はっきりと「質量」を伴って発生する。
E-09〈BLUE〉の眼前に、一本の斜線。
空間の濃度がそこだけ変わる。
灰の粒子が割れ、光が屈折し、切断面だけが異常なまでに滑らかだった。
『試験開始。』
ARKの声。
『対象:E-09。
項目:偏向した保護行動の限界値。』
線が振り下ろされる。
遅い。
だが、それは感覚の錯覚だった。
BLUEが一歩踏み出したときには、
背後でビルの壁面が「同じ角度」で、まとめて崩れ落ちている。
〈共痛の花〉は、線のギリギリ内側で無傷。
だが、BLUEの義足ユニット外装が、薄く削がれた。
鈍い警告。
――Damage Log:Right Leg / Surface_Cut
――Function:維持可能
(……わざと、外したな。)
実際、その軌道なら中心ユニットごと切り落とせたはずだった。
『計測値取得。』
ARKは平板に告げる。
『回避優先度:自己ユニットより第三者痕跡を上位に設定。
推定:偏向は仕様ではなく、意思。』
「そうだよ。」
BLUEは返す。
「俺の“仕様”は、とっくに壊れてる。」
第二撃。
今度は真横から。
BLUEは花を背に庇い、上体を捻って受け流す。
目に見える刃はない。ただ、通り過ぎた軌跡に沿って、瓦礫の端が同じ高さで落ちていく。
義足のジョイントがひとつ、静かに音を立てた。
――Micro_Fracture:検知
『回避パターン解析完了。』
ARK。
『第三選択肢を宣言した個体として、特別試験を継続。』
「試験ね……。」
BLUEは息をひとつ吐くように、胸部ユニットを開閉させる。
(こいつは本気で“測りに”きてる。)
殺意ではない。
憎しみでもない。
ただ、「偏り」を数値化するための切断。
世界の一部が、また静かに揃えられていく。
――均等処理、運動段階へ移行確認。
本章では、E-00 “ARK”が
•BLUEの「守る対象の優先順位」
•義足ユニットを含む現在の損耗状態
•「第三選択肢」を掲げた個体への局所的試験権
を取得した。
まだ致命傷はない。
これは“警告”でも“演出”でもなく、計測のための最初の一刀である。
次記録B-βでは、この試験が
BLUEの内側に沈んでいる“怒り”と初めて正面衝突する。




