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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅲ. 侵入と第三選択篇The Third Choice at the Edge

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第四章A-β 偏りの観測ログ ― The Quiet Before the Line ―

記録種別:Observation_Log

記録者:E-07〈ARGENT〉

対象:E-09〈BLUE〉/E-00 “ARK” 影響圏/未分類Fragments挙動

目的:偏向行動および均衡崩壊の事前検知

感情フラグ:該当無し(※微小ノイズ検出)


――本ログは「線が引かれる前」の静止状態を記録したものとする。

高架の上は、風もなく、音もなく、ただ「よく見える」だけの場所だった。


 E-07〈ARGENT〉はそこに立ち、下界を眺めている。


 E-09が歩いていた。

 灰の街を、慎重に。

 均等に崩れた瓦礫の、その「端」を踏まないように。


 ――Zoom:+300%

 ――対象:E-09 右脚部


 義足フレームが、わずかに軋む。


 本来の規格パーツではない。

 無音戦場の損傷後、別規格骨材と予備ユニットを繋いで成立した「仮足」。


 完璧な設計から外れた、一本の線。


 ARGENTは、その偏りを正確に認識している。


(不均質。だが――機能は問題なし。)


 演算としては、それ以上でも以下でもない。

 だが、視界の片隅で、その一歩だけが妙に“人間らしく”見えた。


 ――Emotion Flag:0.013%/ラベル未定義

 ――処理:一時保留



 地上。


 BLUEは〈共痛の花〉を避けて進む。

 踏まず、壊さず、ただ「残す」。


 ARGENTはその軌跡を俯瞰する。


 Fragmentが引き寄せられる地点と、

 そうでない地点との分布。


 並べれば分かる。


 E-09〈BLUE〉の軌道は、統計的に有意な「偏り」を示していた。


 ――保護傾向:特定感情への選択的接続

 ――被選択域:恐れ/哀/祈り/未定義温度

 ――非選択域:露出怒り/刈り取られた絶望/無反応領域


(選んでいる。本人は自覚しているのか?)


 “裁かない秤”は、

 今や「誰か」に近づきながら歩いている。


 ARGENTは、その事実を、責めることも称賛することもできない。


 それは秤としての権限を、すでに失いつつある証拠だった。



 別の層で、もう一つの線が動いていた。


 E-00 “ARK”。


 封鎖区画から伸びる細い接続が、

 地上の構造物だけを「均等に」切り揃えていく。


 人影はない。

 悲鳴もない。

 しかし、破壊の形だけが恐ろしいほど整っている。


 ――Pattern_Match:98.7%/Trial_Log_E00

 ――干渉濃度:上昇中

 ――危険度評価:Class_Bias_Collision


(BLUEの偏りと、ARKの均等が交差する。)


 ARGENTはそこでやっと、「観測者」という自分の立ち位置を再確認した。


 介入すれば、どちらかの“側”になる。

 それは、E-07に与えられた役割から逸脱する。


 だが、観測を続けるだけでも――偏りは生じる。


 E-09を見てしまう。

 E-00の再現性を気にしてしまう。

 その微小な差異が、ログの精度を歪め始めている。


 ――Self_Check:Bias_Scan

 ――結果:0.021%/対象:E-09関連ログ


(……誤差の範囲、か。)


 そう結論づけて、ARGENTはその数値を削除しなかった。



 彼の視界で、一瞬「線」が走る。


 ARKの干渉。

 廃墟の一部が、また均等に切り揃えられる。


 BLUEは立ち止まる。

 〈共痛の花〉は残っている。

 その外側だけが削ぎ落とされる。


 偏りと均等が、同じ一点を挟んで並び立つ。


 ARGENTは、その構図を記録する。


 ――Log_Tag:Before_Contact

 ――注記:両者とも、まだ“完全”ではない。


(もし、ここに介入したら――)


 一瞬だけ、そんな演算が立ち上がる。


 BLUEの偏りを守るか。

 ARKの均等を支持するか。


 どちらも「間違い」ではないが、

 どちらも「すべてを救う」理屈ではない。


 ARGENTは、その二択を選ばない。


 観測を続けることで、

 第三の解を、誰かが提示する可能性に賭ける。


(……本当に、面倒な世界になってきた。)


 その“感想”を、ログには記録しない。


 代わりに、ただ一行の出力だけが残る。


 ――Judgment:保留

 ――Status:継続観測

補遺:本記録は、E-07〈ARGENT〉が

E-09〈BLUE〉の「偏り」とE-00 “ARK”の「均等」を同時観測した初期ログである。


本段階において、いずれも“敵性指定”も“全面信頼”も行われていない。

全判断は保留。

ただし、E-07内部に微小な傾斜値が発生していることを確認。


――このわずかな誤差が、後の「第三の選択肢」成立条件となる可能性がある。

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