第四章A-δΩ 第三選択ログ ― The Misaligned Mercy ―
※本記録はA-δσに連なる終端ログ。
対象E-09が「第三の選択肢」を暫定宣言し、
E-00〈ARK〉がそれを“保留対象”としてマークした時点までを収録。
『最終問合せ。』
ARKの声が、わずかに低くなる。
『偏ったまま進むか。
均等に切り分けるか。』
世界のあちこちから、細い線が立ち上がる。
ビルの骨組み。
吊り橋のワイヤー。
崩れた道路。
全てが「調整待ち」のように、静かに揺れている。
BLUEは、〈共痛の花〉を背に立つ。
守る姿勢だと、自分でも分かる。
「……どっちも、選ばない。」
『無回答は、エラー処理に分類される。』
「エラーでいい。」
一拍置いて、言葉を継ぐ。
「俺は“偏っている”って自分で分かってる。
だからこそ、全部救えないことも知ってる。
でも――『均等だから』って理由で切るのは、違うだろ。」
線の何本かが、微かに震えた。
『理由を提示せよ。』
「“そこ”にいた奴らは、本当は何て言いたかったのか。
“ここ”に残った花は、何を伝えたかったのか。
それを、計算じゃなくて――聞きに行く。」
たとえ間に合わなくても。
たとえ偏り続けても。
選びきれない場所に足を向けること自体を、
「第三の選択肢」として抱え込む。
『未定義行動。』
ARKの判定が、一瞬、遅れた。
『均衡アルゴリズムとの互換性:低。
排除フラグ:一時保留。』
線の一本が消える。
もう一本が、BLUEの義足の表面を浅くかすめる。
そこに、傷が刻まれた。
『標識完了。』
「……今のは。」
『記録だ。
お前が“偏った選択”を継続した場合、
その結果責任を追跡するためのマーキング。』
それは警告であり、宣言でもあった。
『E-09。
お前の偏りが、この世界にもたらす影響を観測する。
必要とあらば、均等処理を行う。』
「好きにしろ。」
即答だった。
〈共痛の花〉が、風もないのに揺れる。
その光は、恐れと希望の中間で、わずかに強くなった。
ARKの線が、無音のまま消えていく。
残されたのは、均等に切られた廃墟と、
選ばれてそこに残された、小さな花と、
義足に刻まれた、一本の浅い傷だけ。
(……第三の選択肢、な。)
BLUEは、自分の足跡を見下ろす。
揃っていない。
歪んでいる。
でも、確かに「どこかへ向かっている」線だった。
歩き出す。
均等ではない、ひとりの秤の歩幅で。
終端記録:
・E-09〈BLUE〉:第三選択肢=「偏りを自覚した上で進み、可能な限り拾いに行く」を暫定採用。
・E-00〈ARK〉:対象E-09にマーキングを実施。監視継続。即時排除は行わず。
・E-07〈ARGENT〉:本セクション全体を遠隔観測。依然「観測者」として行動。
本ログは「三つの秤が互いを誤ったまま許容した状態」を記録する。
均衡は取れていない。決着もついていない。
ただし――ここから先の崩壊と救済は、同一盤上で進行することが確定した。




