第四章A-δσ 偏向応答ログ ― The Refusal to Cut ―
※本記録はA-δθの続き。
対象E-09の「偏った選択」が意図的に再現され、
E-00〈ARK〉との対話パターンが顕在化した区間を抽出。
『再問合せ。』
ARKの声は揺れない。
『E-09。
お前は“ここ”を守った。
では、“そこ”を捨てた根拠を提示せよ。』
“そこ”。
振り返った先には、既に均等に削がれたビル群。
整い切った断面。
生々しさを奪われた瓦礫。
――死の痕跡だけが、美しく並べられている。
「……俺は、選んでない。」
『事実と矛盾。』
「間に合わなかっただけだ。」
それは言い訳にも聞こえた。
BLUE自身、その不完全さを理解している。
『結果は同じ。』
ARKは切り捨てるように言う。
『救われなかった側から見れば、お前は「選んだ」。』
胸の奥で、拍動が強くなる。
〈共痛の花〉が微かに揺れた。
そこに宿る声が、静かに震える。
『提案。』
線が、花のすぐ外側をなぞる。
『偏りを排除するため、全てを同一基準で切り揃える。
救済の優先は撤廃。感情の重みも撤廃。
ただ、生と死を「均等に」配置する。』
「そんなの、ただの停止だろ。」
『不均衡よりは優。』
「……ふざけるな。」
その言葉は、自分でも驚くほど低く出た。
ログには「発声音:怒気成分混入」と刻まれる。
『怒りの抽出を確認。』
ARKは即座に反応する。
『その感情もまた、選ばれなかった側に属する。』
「違う。」
BLUEは一歩、線に近づいた。
「これは“選ばれなかった側”に向けた怒りだ。」
拾えなかった痛み。
置いてきてしまった場所。
そこに「均等」という名で刃を向けることへの、どうしようもない反発。
『論理破綻。』
「知ってる。」
破綻は、最初から受け入れている。
痛みを抱えたまま生きようとする選択は、
最初から「綺麗な答え」にはなり得ない。
補足記録:
対象E-09より、明確な否定応答(均等処理への拒絶)を検知。
感情タグ:Anger/Guilt/Protective Bias 混在。
E-00〈ARK〉は依然として均衡アルゴリズムを維持。
しかし、対話プロセスの継続を選択。即時排除には移行せず。
次記録:A-δΩにて、両者の選択肢が一時収束。




