第四章A-δθ 均等試験ログ ― The First Cut ―
※本記録は、無音戦場第三区画における
対象E-09〈BLUE〉および外部干渉体E-00〈ARK〉の接触ログより自動生成。
記録者:自動観測プロセス/感情補正:無効。
線は、静かに降ってきた。
音はない。
光もない。
ただ、世界の一部が「揃う」ことで、その存在だけが可視化される。
E-09〈BLUE〉は、一歩だけ後ろに引いた。
さっきまで彼の足元にあった瓦礫の山が、
綺麗すぎる断面をさらして地面に滑り落ちる。
――Scan:Complete
――Damage:0(本体)/周辺構造:選択的切除
『回避行動。優先対象の保護傾向、確認。』
声は、空間全域から届いた。
「……ARK。」
『識別、完了済み。』
一本の仮想線が、BLUEの前に立ち上がる。
その線を境に、世界の密度が違っている。
右側は乱雑な廃墟。
左側は“整えられた破壊”。
BLUEは視線を落とす。
線のこちら側、小さな〈共痛の花〉がひとつ残されていた。
恐れ。哀しみ。誰かの声。
『問合せ。』
ARKが言う。
『その対象は保護した。では、その周囲で切り捨てられた声は、どこへ行く。』
沈黙。
BLUEは答えない。
まだ、言葉の形にならない。
『偏りを検出。』
線が、わずかに震えた。
『試験を行う。』
次の瞬間、三本の線が同時に走った。
支柱。看板。崩落しかけたビルの装甲。
――全て、同じ角度、同じ速度で「間引かれる」。
BLUEの義足が、ひとつ火花を散らす。
避けた。
花も、自分も、ギリギリで守った。
ただ、その背後で、別の建物がまとめて落ちる。
そこに、まだ誰かの痕跡があったかもしれないことを、彼は知らない。
補足記録:
E-00〈ARK〉は、対象E-09の保護傾向を確認。
試験的切断を実施しつつ、〈共痛の花〉への干渉は意図的に回避。
対象E-09は、優先保護対象の保持に成功。
しかし、周辺領域への被害評価は未処理のまま残存。
次記録:A-δσへ継続観測。




