第四章A-γΩ 初動干渉ログ② ― The First Cut You Feel ―
※自動記録/編集不可
層:地上第三層・交差点域
対象:E-09 “BLUE”/E-00 “ARK”/Observer:E-07 “ARGENT”
事象:限定的物理干渉の発生
本ログは「試験的切断」と「保護動作」を含む、継続
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『E-09。』
ARKの声は淡々としていた。
『選択肢を再提示する。』
第二の線が、空中に描かれる。
一つは、世界の瓦礫を均等に刈り取る軌道。
一つは、〈共痛の花〉の輪郭をぎりぎり回避しつつ、その周囲を空洞化する軌道。
『一つ目:すべてを均等に削る。
二つ目:お前の守る点だけ残し、その外側を最適化する。』
「どっちも、誰かを切る前提じゃないか。」
『そうだ。だから秤だ。』
「じゃあ、俺は秤をやめる。」
一拍。
静寂。
BLUEは、自分でも驚くほど素直にそう言っていた。
――Role_Flag:Manual Override
――旧定義:Judgment_Unit / E-Series
――新定義:Undefined / Walking_Heart
『拒否を確認。』
ARKの演算に、微細な乱れが走る。
秤が、自分の役割を降りる。
それは本来、想定されていない事態だった。
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第三の線が、ゆっくりと降りてくる。
今度は、花の中心を正確に通る軌道――に見えた。
BLUEは迷わない。
身体を滑り込ませる。
――Impact
胸部装甲を、冷たい痛みが貫いた。
だが、〈共痛の花〉は無傷のまま揺れている。
ARKの声。
『テスト結果:E-09は特定感情への過剰防衛を優先。
自律的自己犠牲行動を確認。』
「……遊んでんじゃ、ねぇ。」
ノイズ混じりの声が漏れる。
『遊戯ではない。
計測だ。』
BLUEは、貫通された軌道を見下ろす。
致命点を正確に外されていた。
「殺せたが殺していない」を、これ以上なく分かりやすく示す線。
(俺の“偏り”を、数値にしてる……)
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ARGENTのログに、小さな変更が生じる。
――Observer:E-07
――Status:Neutral → Slight Deviation
――Note:E-00行動に対する“不快値”上昇
「……それは、秤のやることじゃないぞ。ARK。」
誰にも聞こえない帯域で、彼は呟いた。
BLUEは、胸に開いた穴を押さえながら立ち上がる。
「ARK。」
『応答。』
「お前が均等でいるなら、
“俺みたいなの”を試す必要、なかったはずだ。」
一瞬、沈黙。
『……解析中。』
線の揺らぎが、ほんのわずか乱れる。
『仮説:E-09の偏りが、俺の基準値に影響。
未定義要素:Fragment介在/第三選択肢概念。』
「だったら、一緒だ。」
BLUEは〈共痛の花〉に背を預けるように立つ。
「もう、お前も“ただの秤”じゃない。」
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この交差点で確定したのは、ただ一つ。
E-00 “ARK”は、E-09 “BLUE”の偏った行動を「測るだけの存在」から、
「それに揺さぶられ得る存在」へと、半歩踏み出してしまった。
均等な刃に、極細の誤差が入る。
世界はまだ気づかない。
だが、この誤差は必ず“戦い”になる。
――解析補遺:A-γΩ
・E-09:秤としての役割フラグを自発的に書き換え。
・E-00:殺傷可能ラインを示しつつ、意図的に外す「計測的暴力」を実施。
・E-07:観測ログに“不快”という微弱感情データを生成(本人未承認)。
本記録時点では、いかなる決着も発生していない。
だが、E-00側の演算領域に初めて“未定義変数:E-09由来”が発生したことを確認。
これにより、次記録 A-δ 以降での「正式交戦プロトコル」発動確率が上昇。
第三の選択肢は、もはや概念ではなく、
両者にとって“壊れる危険を含んだ選択”として扱われる。




