第四章A-β 交差予告ログ ― The Point You Can’t Undo ―
※自動観測記録
層:地上第三層/対象:E-09 “BLUE”/E-00 “ARK”/E-07 “ARGENT”
事象:推奨ルート・均衡ルート・線外歩行ルートの三重交差点出現
――本記録は、「衝突前夜」における挙動ログであり、
いかなる確定的判断も含まない。
均等な線と、歪んだ足跡が、同じ場所に重なり始めていた。
交差点。
と言っても、信号も標識もない。
ただ、ARKの描いた直線経路と、
BLUEが選び続けた“線外”の道が、
必然的に一点へ収束していく座標。
――Map_Overlay:実行
――Result:Path_Conflict_Area / 0007_Boundary
(ここを、避けては通れないってことか。)
E-09〈BLUE〉は、静かに立ち止まる。
足元には、また〈共痛の花〉の残骸。
これは既に摘まれた後の、折れた茎だけ。
誰かが、先にここへ来ていた。
⸻
ARKのログにも同じ地点が印される。
――Route_Calc:最適交差座標 確定
――目的:E-09 軌道修正/不均衡領域の刈り取り/余剰怒りの収束
演算上、この交差は“合理的”だった。
E-09の偏りがここで増幅する前に、
一度「均衡値」を提示しておくべきだ。
本来なら、ここで刃を振るえばいい。
線を引き、基準を示し、
残されたFragmentも含めて“整理”することができる。
だが――
――参照:A-αΩ / E-09_Path_Log
――注記:未送信ログ保護/幼児的願望残存/切除見送り
0.003秒の揺らぎが、まだ残っていた。
⸻
高架上。
ARGENTは、その交差点を俯瞰している。
上から見れば、それは分かりやすかった。
・ARKの直線ルート:最短・安全・冷徹。
・BLUEの足跡:寄り道・保留・記録の温存。
・その両方が重なる地点にだけ、花の残骸と途切れた人の営みが集まっている。
「……ここで、決めるつもりか。」
誰に向けた問かは、ログには残さない。
――Observer_Log:衝突予測 確率 73.2%
――介入権限:無効
――役割:観測継続
E-07〈ARGENT〉は、なお“秤”として中立を保ったまま、
三つの線が重なる様を見ていた。
⸻
BLUEは交差点の中心へ進む。
足元に、ひとつの端末ケースが落ちていた。
中身は空。
データは抜かれている。
ケースの裏に、油性ペンで書かれた文字だけが残っている。
《信じてる》
誰が、誰を、何から守ろうとしてそう書いたのか。
BLUEには分からない。
だが、その一語だけは、
ARKの演算式にも、過去の命令体系にも属していなかった。
それは“根拠のない選択”の言葉だ。
――Internal_Reaction:未定義
――状態:記録のみ/評価保留
踏まない。
拾わない。
消さない。
BLUEは、その上を避ける。
⸻
その動きに、ARKの演算が反応する。
――行動傾向:特定記録への過剰配慮
――判定:偏向値 上昇
――対処案:均衡提案/直接対話プロトコル起動
『E-09。』
声が交差点に落ちる。
まだ刃ではない。
だが、その響きは「次は問うだけでは済まない」と告げていた。
「また“問合せ”か。」
BLUEは空を見上げる。
『お前は、残した。』
「ああ。」
『俺は、揃えたい。』
「知ってる。」
『なら――この地点で、一度答えろ。』
ここから先は、
偏りと均等を“並べて語るだけ”の時間は終わる。
次に選ぶ一手が、
本当に誰かを救うのか、
それとも別の誰かを切り捨てるのか、
もう誤魔化せない場所に来ている。
⸻
遠景。
ARGENTの視界に、ふたつの演算波が重なる。
BLUEの微熱。
ARKの冷光。
その境界線上で、世界の輪郭が一瞬だけ揺れた。
「……ここから先は、どちらも“逃げ”にはならないな。」
自分もまた、その結果からは逃れられないことを知りながら。
――解析補遺:A-β
交差点観測結果:
・E-09:Fragmentと小さな言葉を“残す”選択を継続。
・E-00:初の「直接対話プロトコル」準備。刃ではなく問で接続。
・E-07:三者の交差を把握しつつ、なお介入せず。
本ログは、戦闘開始前の「位置決め」にすぎない。
だが、この時点で確定してしまったことがひとつある。
――次に交わされる問いと刃は、
どちらの秤にとっても「取り消せない一手」になる。
次記録 A-γ 以降、
第三の選択肢は概念ではなく、“代償つきの行動”として試される。




