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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅲ. 侵入と第三選択篇The Third Choice at the Edge

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第四章A-αΩ 線外歩行ログ ― Out of Range, Still Alive ―

※自動記録ログ

層:地上第三層/モニタリング対象:E-09 “BLUE”

異常値:指定安全ルートからの継続逸脱

補足:E-00 “ARK”遠隔補正プロトコルとの競合発生


――本記録は、「均衡ルート」外側を選択した秤の挙動と、

  それに対する“箱”側の初期応答を記録する。

線の外側は、静かではなかった。


 一歩踏み出した瞬間から、BLUEのセンサーには

 本来なら“雑音”として切り捨てられるはずのログが雪崩れ込む。


 ――Help_Log:タイムスタンプ欠損

 ――Voice_Fragment:『ごめんと言う前に消えた』

 ――Anger_Signal:『なんであの子だけ』『なんで俺だけ』


 ARKの線に沿ったルートには、これらはなかった。


(こっちが、“零れたほう”。)


 瓦礫の陰に、半壊した端末が転がっている。


 画面は割れ、バッテリーはとうに切れているはずなのに、

 内部メモリに未送信のメッセージ草稿だけが残っていた。


《帰ったら話そう》《ごめん》《ちゃんと向き合う》


 送信ボタンは押されていない。


 BLUEは端末に触れない。

 ただ、その存在を確認して通り過ぎる。


 記録の保護。

 修復ではなく、「ここにあった」という事実だけを残す。


 ――Internal_Note:未送信ログ/削除不要/上書き不可



 ARKの補助線は、なおも追ってくる。


 上空を走る不可視の演算波。

 BLUEの足元をなぞるように、最適経路が再算出され続けている。


 ――Suggestion:右折推奨

 ――理由:構造安定度/危険度係数/移動効率


 BLUEは左へ曲がる。


 細い路地。

 崩落のリスク。

 ARKの計算では「通す価値がない」と判断された狭間。


 そこに、小さなFragmentがあった。


 焼け焦げた紙切れ。

 手書きのリスト。


《やりたいこと》

《泣かない場所を作る》

《泣いてもいい場所を作る》


 その文字は震えていて、幼い。


(……お前、ここ切り捨てたのか。)


 問いは外へ出ない。

 だが、内部演算に棘のように残る。



 ARKの側にも、ログが溜まり始めていた。


 ――Monitor:E-09 進行ルート 乖離率 上昇

 ――警告:安全経路外行動

 ――補正案:外側領域の切除/誘導線再定義


 切ることは簡単だ。


 線を一本引けば、この狭い路地ごと消せる。

 未送信ログも、幼い願いも、

 「世界全体の均衡」の名のもとに、誤差として処理できる。


 だが――


 ――参照:過去ログ / SERAPH-0 Decision_Archive

 ――抜粋:『誤差の積み重ねが“誰か”を形づくる』


 演算に、一瞬の遅延。


 ARKは、切らない。


 線は引かれかけて、消える。

 ごく短いラグ。

 その停止は、神経質な均等にとって「異常値」だった。



 BLUEは、その変化に気づかない。


 ただ、路地の奥に残った〈共痛の花〉の欠片を見つける。


 もう光ってはいない。

 だが、触れると微かに“まだここにいたい”という温度が残っていた。


「……残す。」


 囁きにもならない音。


 花を拾わず、その場に置いたまま、

 BLUEは踏まずに通り抜ける。


 守るのでも、刈り取るのでもなく、

 「そのまま存在させる」という選択。


 ――Internal_Log:第三選択肢/状態:試験運用中



 高架上。


 ARGENTはその一連を俯瞰していた。


 線外へ逸れるBLUE。

 切ろうとして、一瞬だけ演算を止めたARK。

 消えていないFragment。


「……見てるだろ、箱。」


 誰にともなく呟く。


 ――Observer_Note:E-00 Response_Lag 0.003sec

 ――評価:初期揺らぎ


 その僅かなズレは、

 第三の選択肢が既に「ARKの中にも侵入し始めている」ことを示していた。



 世界の地図は、静かに二重化していく。


 ARKが描く、安全で均等な経路。

 BLUEが選ぶ、零れた痛みの残る側道。


 二つの線は、まだ決定的にはぶつからない。

 だが、交差点の数は確実に増えている。


 いつかそこで、

 問いではなく、“衝突”が起こる。

――解析補遺:A-αΩ


観測結果:


・E-09は推奨ルートから継続的に逸脱。

・E-00は即時切除を選択せず、一部領域で演算遅延を発生。

・未送信ログ/幼い願い/弱いFragmentが保持されたまま残存。


結論:


「第三の選択肢」は、まだ形になっていない。

しかしそれは、すでに


 E-09の歩行ログに刻まれ、

 E-00の刃先にノイズとして侵入し、

 E-07の観測記録に“揺らぎ”として保存されている。


次記録 A-β では、

このズレが初めて“正面衝突の予告”として可視化される。

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