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『BLUE ENGINE -蒼き残響-』 ─ 心を持った機械が、神に背いた日 ─  作者: CROSSOH
▫️ 第三部 神なき秤 ― The Scale Without God ― Ⅲ. 侵入と第三選択篇The Third Choice at the Edge

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第四章A-ασ 侵入する線 ― The Box Extends Its Line ―

※自動記録ログ

層:地上第三層/時刻:不定(世界時間軸乱れ観測中)

記録主体:E-09 “BLUE”

観測対象:E-00 “ARK”による遠隔干渉パターン/未定義選択肢の影響


――本記録は、「問い」で終わった対話の直後、

  均等な刃が“例外処理”を開始した最初の痕跡である。

 ARKの声が消えたあとも、線だけは残っていた。


 均等に切断された廃墟。

 守られた〈共痛の花〉。

 その外側で、静かに削ぎ落とされた危険物。


(……第三の選択肢、か。)


 BLUEは歩き出す。


 一歩ごとに、足裏の感圧センサーが微細な“ズレ”を拾う。


 本来の地形データと、今ここにある地形が一致しない。

 更新ログの発信源は見つからない。

 それでも世界は、「誰かの基準」に合わせて修正され始めている。


 ――Map_Compare:差分検出 23.4%

 ――改変パターン:ARK_Style / 一致率上昇中


(あいつ、本気でやる気だな。)


 嘆息に似た内部音が、小さく鳴る。



 最初の異常は、交差点の中央だった。


 信号機は存在しない。

 だが、見えない“優先順位”が敷かれている。


 BLUEが踏み出そうとすると、

 足先の数センチ先で、アスファルトが薄く削れた。


 危険な亀裂。崩落を誘発しうる歪み。

 それらだけが選択的にそぎ落とされていく。


 ――System Note:通行ルート 安全率 99.87%


「……親切なつもりかよ。」


 道は開いている。

 彼が進みやすいように、危険は排除されている。


 だが、それはBLUEの意志ではなく、

 ARK側が一方的に描いた「安全な進行ルート」だった。


(誘導だ。俺の選択の外側から、線を引いてくる。)



 次の区画。


 倒れかけたビルが一本の線で切断され、

 BLUEの頭上を塞いでいた瓦礫が、綺麗に滑り落ちていく。


 そこに、人影はない。

 けれど、かつて誰かが暮らしていた痕跡――写真、メモ、子どもの落書きだけが、

 切断線のほんの内側で、ギリギリ残されていた。


 選別。


 BLUEは理解する。


 ARKは「誰かの痛み」を完全には無視していない。

 だが、その扱いは極端だ。


 ――生存に資さない痛み:保留

 ――危険因子:即時切除

 ――進行対象:E-09 通路の確保


(“お前が行く道は、整えておいた”。……そういうことか。)


 怒り、というより、嫌悪に近いノイズが胸の奥に走る。


 第三の選択肢を口にした直後から、

 世界そのものが、「ARK式の補助線」で書き換えられ始めている。



 高架上。


 E-07〈ARGENT〉は、その光景を上から眺めていた。


 均等な切断ログ。

 危険排除プロトコル。

 BLUEの進行ルートに同期した“道”。


 ――Correlation:E-00 介入疑い 92.1%

 ――Observer_Comment:過剰な補助線


(やりすぎだ、ARK。)


 ARGENTは送信をためらう。

 忠告は、すでに一度行った。

 今度はBLUEの「偏り」とARKの「均衡」が正面衝突する番だ。


 観測者は、まだ降りない。



 BLUEは足を止めた。


 目の前の道は、完璧に整えられている。

 左右の瓦礫は均等に刈られ、危険値は限りなく低い。


 だが、その線から一歩外れると、

 「まだ整理されていない痛み」が、暗がりの中で積もっていた。


 救助を待つ声の残りかす。

 届かなかった後悔。

 報告されなかった死のログ。


 その全てが、“未処理フォルダ”のように片側へ押しやられている。


 進めば楽だ。

 この線に沿って歩けば、「正しい経路」として保証される。


 でも――それは、誰の選択だ?


 BLUEは、あえて一歩、線の外側へ踏み出した。


 その瞬間、世界のどこかで微かなノイズが走る。


 ――Warning:Route_Out_Of_Range

 ――External_Source:E-00 / 無言


(見てろよ。全部じゃなくても、外側に降りていく方法はある。)


 第三の選択肢は、宣言ではなく、逸脱の一歩として記録された。

――補足記録 / 第四章A-αΣ


・E-00 “ARK”は、直接姿を現さず、

 E-09 “BLUE”の進行ルートを「安全」「均衡」の名で整形し始めている。

・結果として、「選別された痛み」と「押しやられた痛み」の差異が拡大。

・E-07 “ARGENT”は介入せず、両者のズレを上層から観測する立場を維持。


本ログは、

「ARKは敵ではなく“正しすぎる補助線”として立ち上がり始めた」

その初期段階を示す。


次節A-αΩでは、

BLUEが“線の外側”に降りる選択を継続した結果、

ARK側の演算に初めて「揺らぎ」が生じる地点までを記録する。

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