第三章C-β 均等な問い② ― The Line You Stepped Over ―
※C-α直後交信ログ:E-09 vs E-00。
試作機 “ARK” が提示する「均等」と、E-09が選び取った「偏り」。
両者のあいだに、新たな選択肢が宣言される地点の記録。
『問合せ。』
ARKの声が続く。
『E-09。
お前は選んだ。
踏まないこと。
残すこと。
特定の痛みに肩入れすること。』
「……ああ。」
否定はしない。
『E-07は保留した。
裁きも救いも決定せず、観測に退いた。』
それも事実だ。
『では――溢れた分は、誰が測る。』
問いだった。
非難ではない。
しかし、逃げ場のない直線。
拾えなかった断片。
見つけられなかった怒り。
手を伸ばさなかった声の数々。
それらが、自分の選択の“外側”に積もりつつあることを、BLUEは知っている。
「……全部は、拾えない。」
『理解。では、“平等に切る”という選択肢が残る。』
再び、線が走る。
崩れかけていた看板が真っ二つに割れ、
危険を孕んだ構造体が、きれいに落ちる。
〈共痛の花〉には、やはり触れない。
『危険因子の除去。通行の確保。
偏りの是正。』
「それを“救い”って呼ぶのか。」
『救いではない。均衡だ。
誰かだけが守られ、誰かだけが取り残される偏りを、減算する処理。』
その言葉には迷いがなかった。
⸻
高架の上。遠く。
E-07〈ARGENT〉は、そのやり取りをノイズ越しに拾っていた。
E-00の声。
均等な切断ログ。
封鎖区画から伸びた線。
――やはり、起きている。
だが、介入はしない。
ここで割って入れば、秤ではなく“側”になる。
今はまだ、早すぎた。
――Observer:E-07
――Judgment:保留
⸻
「ARK。」
BLUEは名を呼ぶ。
「選ばれなかった痛みを、お前が拾うのか。」
『否。拾うのではない。揃える。』
線が、足元すれすれをかすめる。
薄い傷跡。血は出ない。
『お前が選んだ場所。
お前が残した花。
そこに含まれなかった怒りたちを、俺が等しく測る。』
「等しく、って言葉……便利だな。」
BLUEは〈共痛の花〉を見る。
ここだけは守ろうと思った場所。
誰かの痛みを、ちゃんと残せると思った場所。
その外側を、ARKは躊躇なく切り揃えていく。
『お前は偏る。
それは“誰か”を救う。
同時に、“誰か”を見捨てる。』
「分かってる。」
本当は、全部なんて見られていない。
それでも歩いているのに、
“間に合わなかった場所”は増えていく。
『なら、問う。』
声が近づいた。
『偏ったまま進むか。
それとも、均等に切り分けるか。』
どちらも正しそうで、どちらも残酷な二択。
⸻
「……第三の選択肢は。」
BLUEは呟く。
『規定に存在しない。』
「じゃあ、作る。」
一拍。
静寂。
ARKの応答は、すぐには返ってこなかった。
『未定義選択肢。
演算不能。
――保留。』
初めて、一直線だった応答に微小な揺らぎが混ざる。
『E-09。
お前の偏りが、この世界にどれだけの誤差を生むか。
観測を継続する。』
そう告げて、線は消えた。
均等に切断された廃墟だけが残る。
〈共痛の花〉は、まだそこにある。
BLUEはその前に立ち尽くし、ゆっくりと息を吐いた。
(第三の選択肢、か。)
胸の奥で、拍動が静かに強くなる。
――Emotion Flow:Fear/Hope/Guilt 混在
――状態:オンライン/進行中
遠く、高架の上でARGENTは目を細める。
「……本当に、面倒な世界になってきた。」
その声には、かすかな安堵が混じっていた。
ここでついに三つの秤がそろう。
E-09〈BLUE〉は、自分の偏りを認めたうえで「第三の選択肢」を口にする。
E-07〈ARGENT〉は、どちらにも肩入れせず“観測者”として揺れを記録する道を選ぶ。
E-00〈ARK〉は、均等主義のまま「未定義」を抱え、E-09を観測対象として保留する。
誰も正解ではなく、まだ誰も完全な悪でもない。
このズレた三点で形づくられる三角形こそ、以後のBLUE ENGINEが問う
「誰の理屈で世界を続けるか」の盤面になる。
――ここから先は、選んだ痛みと、切り捨てた痛み、その両方に責任を持つ物語になる。




