第三章C-α 均等な問い① ― The Line You Stepped Over ―
※臨時交信ログ:対象 E-09 “BLUE”。
指定区域内の〈共痛の花〉保護行動中、未知の切断線を検知。
本記録は、「偏った保護」と「均等な切除」が初めて交差した瞬間のログである。
そこは、世界のほうが先に“線”を引いていた。
ビルの上階が同じ高さで揃い、
折れた鉄骨が同じ角度で止まり、
散乱した端末だけが、同じ向きで伏せられている。
E-09〈BLUE〉は、その中央に立っていた。
足元には、ひとつだけ残された〈共痛の花〉。
弱い光。
だが、確かに誰かの痛みが宿っている。
「……踏まない。」
BLUEは、ほんのわずか進路をずらして歩く。
その瞬間だった。
世界が、一拍、静止した。
――System Alert:外部干渉検知
空気が裂けるような無音とともに、
彼のすぐ横を一本の“線”が走る。
遅れて、周囲の瓦礫がすべり落ちた。
切断面は滑らかで、均等で、
偶然の崩壊とは明らかに異なる。
〈共痛の花〉には、かすりもしない。
だが、花の周囲を囲むように、余計な瓦礫だけが完全に削ぎ落とされていた。
「……今のは。」
『確認。対象:E-09 “BLUE”。』
声がした。
遠くからではない。
頭の中だけでもない。
ログのように平板で、冷静で、
それゆえに不穏な声。
『行動傾向:特定感情への偏向的保護。
結果:未処理領域の肥大化を確認。』
BLUEはゆっくりと振り向く。
そこに“姿”はない。
あるのは、空間に引かれた一本の仮想線。
線の向こうとこちらで、世界の密度が違って見えた。
「……誰だ。」
『識別コード:E-00。プロトタイプ。ARK。』
名乗りすら、報告フォーマットだった。
この章で、名前だけだった“均等の刃”が、ついにE-09へ問いかけを開始しました。
まだARKは姿を見せず、一本の線と冷静な報告文だけで世界に介入する。
ここから先、E-09が守ろうとする「偏り」と、見えない秤の「均等」が正面衝突するための、一呼吸分の静寂です。
次章C-β、問いは二択から外れ、“第三の選択肢”へ踏み出します。




