第三章B-β 均等な傷跡② ― The City Cut in Half ―
※高架観測ログ:記録者 E-07。
B-αで検出された整列パターンを、試作機E-00の戦闘ログと照合。
一致率98.7%。
ここでは、まだ“名指ししない違和感”として保留される。
少し離れた高架の上。
E-07〈ARGENT〉は同じ光景を、違う精度で眺めていた。
上空から見れば一目で分かる。
切断箇所は一定間隔。
角度も深度も誤差の範囲に収まる。
――Cut Pattern:Match 98.7%
――Reference:E-00 “ARK” / Trial Combat Log
「……再現性が高すぎる。」
ARGENTは内部ログを閉じる。
封鎖区画、第零層。
本来、そこからこの高度まで干渉が届くはずはない。
だが、データは嘘をつかない。
E-00の剣筋だけが持つ“均等な破壊”が、ここにあった。
「E-00は封印中。起動条件なし。」
自分で自分にそう言い聞かせる。
それは事実であり、同時に願望でもあった。
⸻
その頃、BLUEは整えられた廃墟の中をゆっくり歩いていた。
壊れ方は冷酷なほど同じだが、
その中に、ひとつだけ揃えられていないものがある。
落ちたままの椅子。
折り畳み机。
マグカップ。
壁に貼られた、小さなメモ。
《残業やめる》《今度ちゃんと謝る》《休みをとる》
BLUEは、その前で立ち止まる。
――これだけは、切られていない。
周囲は均等に刈り取られているのに、
この小さな「やり残し」の痕跡だけが、線の内側に残されていた。
(……選別?)
胸の奥で、わずかな違和感が揺れる。
壊すことにも、残すことにも、意志がある。
ここに刻まれた判断は、
BLUEの「触れずに残す」と似ているようでいて、決定的に違った。
彼は「踏まない」ことで残す。
ここにある何かは、「切り揃えたうえで、一点だけ免れさせている」。
冷たい基準の影があった。
⸻
「E-09。」
高架の上から、わずかな通信が降りてくる。
E-07の声は、いつも通り、よく整っていた。
『その区画から先は、構造的危険が高い。』
「止めるのか。」
『警告だ。選択は、そっちの領分だろう。』
ARGENT自身、干渉する権限を失っている。
ただ、観測者として「ここから先は別の意志が働いている」と告げたにすぎなかった。
ログにはこうだけ刻まれる。
――Unknown Balance Influence:Detected
――Hypothesis:E-00関連パターン
――Judgment:保留
(嫌な、整い方だな。)
BLUEは、均等な廃墟の中で小さくそう思った。
――均等誤差ログ。
名も姿も告げぬまま、刃の癖だけが世界に刻まれた。
気づいている秤と、気づかないまま歩く秤。
そのわずかなズレが、あとで世界を揺らす火種になる。
高架の上で、E-07〈ARGENT〉はただひとつだけ思う。
「この整い方を、好きになってはいけない」と。




